渋谷で絞殺されたホテトル嬢は、超一流企業のエリート社員。彼女は何者だったのか?現場の刑事は気づいた。「敵は警視総監なのか?!」事件の被害者は島本晃子。当初はいきずりの犯行と思われたが、晃子の自宅から政財界の要人メモが見つかったことで、事件の流れは急転回を見せる。晃子はなぜ2つの顔を持っていたのか。警察内の派閥争い、政財界のもみ消し工作に抗して、地を這う捜査を繰り広げる捜査本部が直面した、都市に生きる者の底なしの心の闇。名作『刑事たちの夏』から2年。東電OL事件を素材に、緻密な取材と構想で、警察捜査のすべてを描きつくした感動的巨編。(粗筋紹介より引用)
東電OL殺人事件は、東京電力東京本店で働くエリート社員だった女性(当時39)が、1997年3月19日に渋谷区のアパート空室で遺体となって発見された事件である。被害者の超一流企業の幹部というキャリアもさることながら、夜は売春を行っていたことが判明したため、被害者や家族の過去が暴き立てられ、プライバシー問題にまで発展した。5月20日に、不法滞在しているネパール人男性(当時30)が強盗殺人容疑で逮捕された。男性は過去に女性と数回関係したことを隠していたことから、裁判では不利になった。直接証拠は無く、状況証拠のみだったこと、男性が一貫して無罪を主張したことから検察と弁護側が激しく対立。2000年4月14日、東京地裁は無罪を言い渡した。しかし、同年12月22日、東京高裁は状況証拠を理由に、求刑通り無期懲役判決を言い渡す。2003年10月20日、最高裁で被告側の上告棄却、確定。
男性は2005年3月24日、東京高裁へ再審請求。2011年7月21日、弁護側の要請で行った遺体から採取された精液のDNA鑑定が男性の物と一致しないことが判明、さらに現場に残された体毛と一致した。10月21日には、検察側が実施したDNA鑑定で、被害者に付着していた別の体毛や唾液などが精液のDNAと一致することが判明。2012年6月7日、東京高裁は再審開始を認めると共に、男性の刑の執行停止を決定。男性は同日、釈放された。男性は入管難民法違反(不法残留)罪で有罪が確定していたことから、国外強制対処分を受け、6月15日に出国しネパールに帰国した。検察側の異議申立も7月31日に棄却され、検察側は特別抗告を断念し、再審開始が決定した。
その後、被害者の爪から精液のDNAと一致するDNAが検出されたことから、検察側は10月29日の初公判で無罪を主張し、結審した。11月7日、東京高裁は無罪を言い渡し、検察側が上訴権を即日放棄したため、男性の無罪が確定した。
2000年5月、幻冬舎より刊行。2003年4月、幻冬舎文庫化。前作『刑事たちの夏』に続き、本作品も実在事件を取りあげながら刑事という仕事にスポットを当てている。
一流企業のエリートOL・島本晃子がネパール人のアパートで殺される点、島本がホテトルだったという点については、確かに東電OL殺人事件を設定に借りてきているなと思わせる。ただ、そこから刑事がネパール人たちを調べていく途中、刑事の恋人である証券会社のキャリアウーマンがストーカーに付きまとわれるかと思えば、島本の家から政財界の要人リストが見つかって政治汚職やマネーロンダリングの話に進むなど、話の展開はあちらこちらへ飛んでいき、まとまりがつかないまま結末までいってしまうという、まさにしっちゃかめっちゃかで終わってしまっただけの作品になっている。ヨガ教室、薬物、風俗など、話がすぐに飛んで展開が変わるというのは、新聞記事連載ならではの失敗だろう。
作者はあとがきで、事件を借りて、一流企業で働く女性たちの姿を描きたかったといっている。確かに、殺害されたOLと同じような立場にある証券会社の女性も登場する。ただ、悪くデフォルメした描き方になっているとしか思えないのだ。本当に女性の姿を描きたかったのなら、何もここまで色々な要素をつぎ込む必要はない。もっと内面を深く掘り下げるべきだろう。何となく作者の言い訳にしか聞こえないのは気のせいだろうか。
結局作者が何をやりたいのか、読者にはわからないまま、物語も破綻して終わっている。失敗作だろう。
【参考資料】
久間十義『ダブルフェイス』(幻冬舎)
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