埼玉県久喜市で、田沼家では老夫婦と長男夫婦が殺害されているのを、新聞配達員の大学生・立花洋輔が見つけた。長男夫婦の子供である大学生の姉・ありさは家にいたものの難を逃れたが、弟・省平は行方不明となっていた。さらに10日後、立花は吉岡家で老夫婦2人が殺害されているのを発見する。解剖の結果、田沼家とほぼ同時刻に殺害されていることが判明。犯人のものと思われる靴跡が一致したことから、二つの殺人事件は同じ人物による犯行と思われた。当然省平に疑いはかかるが、警察の捜査は難航した。
池袋で3000円相当の防犯用品を万引した少年が逮捕された。普通なら謝罪で住むケースだが、少年は警備員らに抵抗して3日間の怪我を負わせた。しかも警察での取り調べでも身許や名前を明かそうとしなかった。少年は起訴され、「留置番号池袋警察署39番」の名前で起訴される。
●●者シリーズの1冊で、2001年11月に文藝春秋より刊行。
折原一といえば、叙述トリックでミステリファンにはおなじみ。普通叙述トリックといったらネタバレになりかねないのだが、折原の場合は当たり前にあるので何のネタバレにもなっていないという状況にすらなっている。本作でも当然折原マジックは炸裂するのだが、同じマジックを何回も見せられるやはり驚きは薄れてくる。どうしても斜に構えて読んでしまう。今回はシンプルな仕上がりだったこともあり、満足度はもう一つであった。
そして折原一といえば、B級事件ファン。●●者シリーズは有名どころの事件を扱っているケースが多いが、『誘拐者』とこの作品はB級事件(と書くと、当事者には怒られるかも知れないが……)を題材としている。
本作に出てくる沈黙者の事件、万引きで捕まったにもかかわらず名前を名乗らなかったために起訴され、裁判でも名無しを貫き、結局一審で懲役6年の判決を受けたという事件は、2001年に実際にあったもの。当時のスポーツ新聞などで話題になっていた。盗んだ物は小説と異なるが、展開はほとんど一緒。2001年7月8日、東京都渋谷区の雑貨店で、アラーム時計はど計3万7780円相当を奪い、警備員と客らに催涙スプレーをかけて4人に軽傷を負わせた。求刑8年、懲役6年も同じ。ただ小説では一審判決で確定しているが、実際の事件では「罪が重い」と被告が控訴しており、しかも一審判決を見た親族が渋谷署に問い合わせ、正体は判明している。福島県出身の33歳とのこと。最初から名前を名乗れば、もう少し刑が軽くなっていたような気がする。名前を名乗らなかった理由は、多分明らかにされていないはず。
B級事件ファンの折原一らしい作品だが、衝撃度という点ではちょっと足りなかった作品。まあ、B級事件をどのように料理するかという点については、読み応えがあるかも知れない。
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