私は「府中三億円強奪事件」の実行犯だと思う。だと思う、というのは、私にもその意志があったかどうか定かではないからだ。雷雨の朝、白いオートバイ、18歳の少女…。「三億円事件」の秘密の扉がいま静かに開かれる。(「MARC」データベースより引用)
2002年2月、単行本刊行。
2006年6月に映画化された『初恋』の原作。監督塙幸成、主演宮崎あおい。宮崎あおい自身が、ぜひ主役を演じたいと熱望したとのこと。Wikipediaやブログなどによると、その後中原みすずは店を経営していたが、坊城ミスの名義で『記憶のカルテ 権力への挑戦? そして完全犯罪は終わった』を限定100部で自費出版したところ、店の客にそれを読まれ、1999年に風間薫のノンフィクション小説『真犯人-「三億円事件」31年目の真実』として出版されたとのこと。それを不服に思った作者は2000年、城真琴の名義で『幻想の手記 褐色のブルース』(文園社)を出版。そして加筆・修正のうえ、2002年に本書を出版したとのことである。
小説の形態がとられているが、前書きにもある通り、自伝的な内容になっている。
内容は、あの三億円事件の実行犯は、18歳の少女だったという衝撃的な内容である。しかし事件の方は脇役でしかなく、学生運動が盛んな時代、ジャズ喫茶に集まった少年少女たちの物語であり、主人公の中原みすずと、事件の共犯者である岸との擦れ違いの恋愛物語でもある。登場人物の一人であり、小説家を目指しているタケシは、中上健次をモデルにしているらしい。岸は政治家の妾の子と語っているが、岸信介を念頭に置いているのだろうか。
三億円事件のノンフィクションという形となっているが、これは悪い冗談でしかない。実際にあった事件との整合性を取っているわけではなく(私自身がチェックしているわけではないが)、事件自体があまりにもあっさりと書かれている。もちろん、そこに主眼を置いてはいけない。おそらくあの時代を象徴するための事件として、三億円事件をとりあげたのだろう。この作品はあくまでジャズ喫茶を舞台にした群像劇であり、みすずと岸の純愛物語である。そういう視点で作品を振り返ると、切ない恋物語が繰り広げられていることが分かる。特にうまいとは言えない文章が、余計に高校生のプラトニック・ラブを際立たせている。ただ、そういう作品にあまり興味のない私にとっては、退屈な作品でしかなかったが。
【参考資料】
中原みすず『初恋』(リトルモア)
Wikipedia
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