金井貴一『謀略の鉄路(レール) 』(廣済堂ブルーブックス)




 昭和二十四年七月、国鉄総裁・下山定則とみられる轢断死体が常磐線北千住駅と綾瀬駅の間で発見される。当時、国鉄は経営合理化のため、約九万五千人の人員整理を迫られていた。また、時を同じくして、東北本線王子駅と上中里駅で蜜柑箱に詰められた男性のバラバラ死体も見つかり、二つの事件の捜査が始まる。下山総裁の死は自殺か他殺か!?政府に対する民衆の不満、GHQの圧力、さらに台湾の国民政府樹立に関する政治的取引など、事件の裏には深い闇が隠されていた。いまだ解明されていない昭和史の謎を追う!(粗筋紹介より引用)
 1998年5月、書下ろし刊行。2000年12月に『小説・下山事件―謀略の鉄路』と改題され、文庫化されている。

 作者の金井貴一はNHK、MBSなどでテレビドラマの脚本を数多く手がけている。その一方、江戸川乱歩賞に応募し、2回最終候補に残った。あすかみちお名義で1996年にデビュー。1998年に本名で下山事件を題材にした本書を発表。以後、実在事件を題材にしたミステリを発表した。
 作者は後に谷川涼太郎名義で旅情ミステリを、瀬川貴一郎名義で時代小説を多数書いている。

 下山事件と時を同じくして、もう一つ猟奇的な事件が起きている。
 七月八日、東北本線王子駅で、小荷物の蜜柑箱からバラバラに切断された男の両足が見つかった。小荷物置き場を通りかかった検札係の須藤さんが異臭に気づき、問題の小荷物を発見。駅長の指示のもとで蜜柑箱を開けてみたところ、中から初老の男性のものと思われる切断された両足が発見された。後日、一つ隣の上中里駅で、やはり同じ木製の蜜柑箱に詰められた男性の胴体部分が見つかっている。検視の結果、王子駅で発見された両足を同一人物のものと判明した。

 もう一つ、瀬戸内海を荒らしていた海賊団の一味があったが、首領格が次々に逮捕され、組織は雲散霧消してしまった。


 戦後の国鉄三大ミステリーの一つである下山事件は、色々なミステリの題材となっているが、本作もその一つ。下山事件と時を同じく、別のバラバラ事件が起きているという設定。もちろん、このバラバラ事件は実在のものではなく、作者の創造である。
 下山事件とバラバラ事件の両方の捜査が交互に進み、だれもが考えるように最後は両者が結びつく話となる。途中で密室が出てくるなど、ミステリの流れは十分踏まえているのだが、読んでいてなんか軽い。最後はかなりスケールの大きい話になるにもかかわらずだ。343ページとそれなりに厚めの本なのだが、スカスカ読めてしまう。テンポがいいというのとも違う。筆致の問題なのかな……、読み終わってみると、作者には悪いのだが、なんか馬鹿馬鹿しさを感じてしまった。なんだい、これ、という感じが一番ぴったり来るかもしれない。
 よく考えましたね、で終わってしまった作品。やっぱり荒唐無稽な筋立てだったとしか言いようがない。とはいえ、もっと説得力のある書き方というのも難しいよな……。まあ、こんなのもあるよね、と言って終わりました。


【参考資料】
 金井貴一『謀略の鉄路(レール) 』(廣済堂ブルーブックス)
 Wikipedia「金井貴一」

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