山口洋子『夜の底に生きる』(新潮文庫)
煌めく刹那を経て散ったホステスたちを描いた「死んでいった夜の蝶」。甘言と冷徹な論理で女を手玉に取るホストたちの「夜の靴音」。ゲイボーイの愛憎を綴る「『ラ・ママ』の美しい男たち」――。ネオン街を見つめつづけてきた著者が、銀座・新宿・赤坂の夜を彩った実在の人物たちの生きざまを描き、人間が生きることの悲しさを浮かび上がらせてゆくドキュメンタリー・ノベル。(粗筋紹介より引用)
1984年7月、中央公論社より単行本刊行。1987年8月、新潮文庫化。
銀座のクラブ経営者、作詞家、エッセイスト、小説家である山口洋子による昭和40年代のホステス、ホスト、ゲイボーイたちの姿を描いたドキュメンタリー・ノベル。なぜ買ったかというと、佐木隆三『殺人百科』(徳間書店)の年表に〈銀座バーマダムバラバラ事件〉が書かれていて、「山口洋子『夜の底に生きる』のモデル」と書かれていたからだ。冒頭にある「バラバラにされたママ」がそれで、約20ページ程度の作品。正直、事件の深層まで書かれたものではなく、アチャ―と思ってしまった。いや、勝手に思い込んでいた自分が悪いんだけれどね。
プロスポーツ選手や俳優の実名なども出てくるし、先に述べた事件も犯人も実名だったから、他も実名なんだろうなあ。執筆されたのが作中より15年以上も先の話ではあるが、大丈夫なんだろうか。
当時のホステス、ホスト、ゲイボーイと言った夜の住人たちの華と影、悲哀が描かれているとは思うが、すでに50~60年も前の話。あまりにも彼ら、彼女らの立場が弱すぎて、それでも一瞬のまぶしすぎる光を求めて必死に生きる姿は、今も同じなのだろうか。いっそのこと、もう少し人数を絞って深く追求した方が面白くなった気もするのだが。
なお、事件の概要は以下。
〈銀座バーマダムバラバラ事件〉
1967年11月2日、銀罪のナイトクラブの雇われマダムであるYさん(28)が、東京・赤坂のマンションにある犯人の自室で絞殺された上、風呂場でバラバラにされ、千葉県銚子海岸と隅田川に棄てられた。死体遺棄を手伝わされた少年が警察に通報。銀座に出入りしていた福島県いわき市出身で自称金融業兼芸能ブローカーのIことK(23)が6日に逮捕された。KはYさんと愛人関係にあり、計800万円をつぎ込むも結局捨てられ、怨んでいた。8つに解体された遺体は7~10日に全て見つかった。
1968年5月29日、東京地裁で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。9月30日、東京高裁で控訴棄却。1969年7月8日、被告側上告棄却、確定。
【参考資料】
- 山口洋子『夜の底に生きる』(新潮文庫)
- 佐木隆三『殺人百科』(徳間書店)
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