福田洋『野獣の刺青(タットゥー)』(光文社 カッパ・ノベルス<ドキュメント>シリーズ)


「ガ、ガーン」ニッサンミロク二連銃のすさまじい銃声が轟いた! 昭和54年1月26日午後2時30分。三菱銀行大阪北畠支店、"惨劇"の開幕である。犯人・梅川昭美は五千万円を要求し、行員、警官3人を相次いで射殺。だが、警察の素早い対応に、彼は、全裸の女子行員で人間バリケードを築き、籠城を図った。ついで、客・行員43人の人質を完全に服従させるために、支店長を血祭りに上げた! "マムシ"と恐れられる、大阪府警捜査一課長坂本房敏は、一千人の包囲陣をひきいて、"密室の帝王"梅川に挑む……。死臭漂う銀行内部では、はたして何があったのか!? 悪夢の42時間12分の"密室ドラマ"を、新しい角度から再現する、戦慄のドキュメント衝撃作!(粗筋紹介より引用)
 1982年6月、光文社カッパ・ノベルスより書き下ろし刊行。

 三菱銀行人質事件は、警官2名行員2名が射殺されたこと、犯人が行員や客を人質に42時間12分銀行内に籠城したこと、犯人射殺による事件解決といった衝撃度の高い事件であり、今でも覚えている人は多いと思う。本書は犯人・梅川昭美が事件を起こすまでの生い立ちと、人質事件の全貌が描かれている。作者である福田洋は、「(前略)三菱銀行人質強殺事件は、現代社会の投影としての犯罪と犯罪者を描くには、格好の素材と思われ、創作意欲をそそられたのである。困難な取材のなかで、報道されなかった事実(’’)を知った。その事実を基に、死者にもの言わせ、言葉少ない関係者に存分に──私なりの"肉付け"を行うことで、事件の全体像に肉薄したつもりである」と語っている。
 事件そのものが衝撃的であったことや、梅川が15歳の時に強盗殺人事件を起こしていたことなどの破滅的な人生を歩んできたことなど、被害者には申し訳ない言い方であるが題材としては申し分ないものであり、手掛ける方としてもやりがいのある作品であっただろう。特にこの事件は犯人射殺という形で終わったことから、裁判でその事件の全貌が語られるということもなく、公に出ているのは警察発表のみという状況である。作者は綿密な取材から、事件の全貌へ肉薄し、「死者に語らせる」ドキュメントを作り出すことに成功している。

 本書は1996年2月28日、現代教養文庫から『三菱銀行人質強殺事件』のタイトルで再刊される。

【参考資料】



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