I・K(39) | 住所不定、無職I・Kは2012年6月10日午後1時ごろ、大阪市中央区東心斎橋1の路上で、通行中だった東京都東久留米市に住むイベント会社プロデューサーの男性(当時42)の腹や首などを包丁で何回も刺して殺害。さらに犯行に気付き自転車を押しながら逃げていた大阪市中央区に住むスナック経営の女性(当時66)の背中などを複数回刺して殺害。その後、Iは男性の方にゆっくり歩いて向かい、倒れている男性に馬乗りになり、再び刺した。通行人の女性から「人が刺された」と110番があり、警察官が現場に駆け付け、そばにいたIを殺人未遂の容疑で現行犯逮捕した。 | 殺人、銃刀法違反 | 2015年6月26日 大阪地裁 石川恭司裁判長 死刑 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判員裁判。裁判長は争点となった刑事責任能力の程度について、過去に使用した覚醒剤による後遺症で、I被告が聞こえたとする「幻聴」が与えた影響は大きくなかったと判断。「善悪を判断したり、自己の行動をコントロールしたりする能力は若干低下していた可能性はあるが、著しく失われてはいなかった」と認定した。そして量刑については、人通りの多い繁華街で、2人の通行人を無差別に包丁で刺した点を重視。「人命軽視が甚だしい」と指摘し、2人を何度も刺していることから「強固な殺意があったのは明らか。冷酷、執拗で、際立って残虐」と強く非難した。そして、弁護側が量刑判断の際に重要だと主張していた計画性について、「場当たり的な面があった」としながらも、事件の内容から「量刑上、特に重視すべきものとはいえない」と述べ、「生命をもって罪を償わせるしかない」と死刑が相当と結論付けた。 | |
2017年3月9日 大阪高裁 中川博之裁判長 一審破棄・無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
判決で裁判長は「幻聴の影響は限定的」とした地裁実施の精神鑑定結果については合理的と判断。「幻聴は犯行の決意や実行を後押しした程度に過ぎない」と指摘し、完全責任能力は認めた。そして、被告が凶器の包丁を事件直前に購入した点などを挙げ、「用意周到な準備行為があったとは認められない」と述べ、「過去に死刑が言い渡された無差別通り魔殺人事件は全て計画性が認定されている。今回は2人以外に被害がなく、ほかの死傷者がいなかった点で異なり、従来の裁判例からはみ出す判断をするのは困難」と述べた。そのうえで、「遺族の処罰感情は厳しいが、死刑の選択はためらわざるを得ない」と結論付けた。 | ||||
2019年12月2日 最高裁第一小法廷 小池裕裁判長 検察・被告側上告棄却、確定 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
判決で裁判長は、「無差別殺人は生命軽視の度合いが大きく、厳しい非難が向けられるが、その程度は事案ごとに異なる」として、死刑を適用するか否かは、死傷者の数や動機、計画性などの要素を総合的に考慮すべきだとした。そして「犯行態様は残虐で、刑事責任は誠に重大だ」とするも、覚醒剤中毒の後遺症による幻聴が犯行の一因だったことや、場当たり的で衝動的な犯行だったことがうかがえると指摘。「無差別殺人遂行の意思が極めて強固だったとは認められず、生命軽視の度合いも甚だしく顕著だったとはいえない」とした。また、死刑が究極の刑罰であり、その適用は慎重に行わなければならないという観点と公平性の観点を踏まえ、犯情を総合的に評価した結果、死刑を回避した二審判決については「著しく正義に反すると認められない」と判断した。 |