求刑死刑・判決無期懲役以下【2019年】






事件概要
罪 状
判 決
判決理由
備  考
M・H(44)  名古屋市の無職M・Hは2017年3月1日午後8時ごろ、近所に住む無職の夫婦宅に侵入。夫(当時83)と妻(当時80)の首を包丁で刺すなどして殺害。1,227円が入った財布を奪った。 強盗殺人 2019年3月8日
名古屋地裁
吉井隆平裁判長
無期懲役
判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 裁判員裁判。検察側は強盗殺人で起訴。被告側は強盗殺人を否定し、殺人と窃盗を訴えた。
 裁判長は、物色範囲が小さいことと、恨みによる犯行の可能性があることから、強盗殺人ではなく殺人と窃盗の罪を適用。さらに完全責任能力はあるものの知的障害の影響が見られる▽計画性が低い▽自首が成立する――ことを挙げ「死刑の選択が真にやむを得ないとまでは認められない」と結論づけた。

2020年1月9日
名古屋高裁
堀内満裁判長
一審破棄、差戻し
判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 裁判長は「複数の事情を総合的に判断せず、強盗殺人罪の成立を否定したのは事実誤認」と指摘。「強盗目的を前提に、改めて裁判員を含む審理・評議を尽くすべきだ」と結論付けた。
2020年9月14日
最高裁第二小法廷
三浦守裁判長
被告側上告棄却、差戻し確定
 
2023年3月2日
名古屋地裁
森島聡裁判長
死刑
 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 裁判長は、被告が経済的に困窮しており、殺害後直ちに夫婦宅を物色していた点を重視。「殺害時点で強盗目的があった」として強盗殺人罪を適用した。また、「軽度知的障害の影響があるとしても限定的」と完全責任能力を認めた。そして、「殺害の態様は執拗かつ残虐で、強い殺意が表れている。落ち度のない2人の生命が奪われた結果は極めて重大だ。生活保護費の大半をパチンコに費消するなど自業自得で酌むべき事情はない」と非難した。
2023年12月13日、控訴中に膵臓がんで死亡。49歳没。2024年1月9日、公訴棄却。  
T・H(26)  神奈川県厚木市の無職T・H被告は2016年8月17日午後10時15分ごろ、共犯者とともに甲府市に住む一人暮らしの会社役員の男性(当時73)方の掃き出し窓を割って侵入し、男性の首や腹部に暴行を加えて腹腔内出血に伴う出血性ショックで死亡させた。さらに警報装置が作動して駆けつけた警備員の男性(当時34)を凶器で殴って2週間のけがをさせた。さらに別の共犯3人と共謀し、11月26日午後9時ごろ、甲州市に住む貴金属買取店店長の男性(当時36)宅に侵入し、帰宅した男性の頭や胸などを棒状の物で強打して殺害し、店の鍵1束と乗用車1台(約503,000円相当)などを奪った。翌日遺体を埋め、さらに男性が店長を務めていた昭和町の貴金属買取店に侵入。商品の貴金属を奪おうとしたが、警備システムが働いて警備員が駆け付けたため、何も取らずに逃走した。他に強盗や窃盗、詐欺などの事件を起こしている。 強盗殺人、強盗致死、強盗致傷、建造物侵入、窃盗、窃盗未遂、詐欺他 2019年11月8日
甲府地裁
横山泰造裁判長
無期懲役
 裁判員裁判。検察側は「謝罪の言葉がない。犯罪性向は根深く、更生可能性はない。極刑を回避する理由はない」と死刑を求刑。弁護側は強盗殺人、強盗致死などについて被告が覚えていないと無罪を主張、関与を認めた強盗致傷や窃盗など別の事件については、被告が若いことから有期刑を求めた。
 裁判長は、「2つの命が失われた重大な事件の主導的立場だった」と指摘。しかし「計画性に乏しく、甲府市の事件では重大な暴行に関与したことまでは認められない」とし、「死刑がやむを得ないとは認められない」と述べた。

2020年12月1日
東京高裁
平木正洋裁判長
検察・被告側控訴棄却
 判決で裁判長は、一審判決の事実認定に誤りはないと判断。計画性については相応に高いと一審と異なる判断を示した。しかし、殺意を持って被害者の命を奪ったのは1件で「犯行当時、22歳から24歳と若く、死刑の選択には、ちゅうちょを覚えざるを得ない」とした。検察側は、甲州市の事件にのみ関わった共犯者が無期懲役となった点からも、量刑は軽いと主張したが、「直ちに被告を死刑にすべきことにはならない」とした。
2021年5月19日
最高裁第一小法廷
木沢克之裁判長
被告側上告棄却、確定

K・H(25)  新潟市の会社員、K・H被告は2018年5月7日午後3時過ぎ、下校途中で友人と別れ自宅から300m地点を一人で歩いていた小学2年生の女児(当時7)に軽乗用車をぶつけて車に乗せ、駐車場に止めた車内でわいせつな行為をした上、意識を取り戻した女児が大声を上げたため、首を手で絞めて殺害。遺体をJR越後線線路に遺棄し、電車にひかせた。 殺人、強制わいせつ致死、死体遺棄、死体損壊、わいせつ目的略取、電汽車往来危険、児童買春・児童ポルノ禁止法違反 2019年12月4日
新潟地裁
山崎威裁判長
無期懲役
 裁判員裁判。裁判長は、争点となった殺意の有無について、首を絞めたのは大きな声を出した女児を気絶させる目的だったと認定するも、首を絞める行為は人が死ぬ危険性が高いことを指摘し、殺意を認めた。また強制わいせつ致死罪も成立するとした。量刑について、究極の刑罰である死刑の適用には慎重な判断が必要で、過去の裁判例との「公平性の確保」にも留意するとした最高裁の判断に沿って検討。極刑を望む遺族の処罰感情に「できる限りこたえたい」としつつ、裁判員裁判で審理されたわいせつ目的の殺人では、死刑判決が出ていないことや、殺害に計画性が認められないことなどを重視。同種事件に比べ際立って残虐とは言えず、無期懲役が相当とした。
2022年3月17日
東京高裁
大善文男裁判長
検察・被告側控訴棄却
 検察側は強い殺意があったとして死刑を主張。弁護側は殺意がなく、反省しているとして有期懲役を求めた。
 裁判長は、一審同様「未必の故意」にとどまるも殺意を認定した。量刑については、計画性が認められないことや過去の同種事件の量刑傾向などを踏まえ、一審判決の量刑判断は相当とした。また、「弱者を狙った無差別な事件で、無期懲役の判断は動かない」と弁護側の主張も退けた。
2023年12月20日
最高裁第一小法廷
安浪亮介裁判長
被告側上告棄却、確定



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