S・K(24) | 富山県立山町の元陸上自衛官でアルバイト店員のS・Kは、2018年6月26日午後0時50分頃、アルバイト先のファストフード店で注意してきた店長を複数回殴り、けがを負わせた。店を無断で早退したSは午後2時頃、富山市の富山中央署奥田交番で裏口ドアを叩き、勤務中でドアを開けた交番所長の警部補(当時46、事件後警視に2階級特進)をナイフでいきなり襲い、数十か所刺して殺害した後、拳銃を強奪。Sは交番内や住宅街をうろつき、午後2時25分頃、約100m離れた市立奥田小の正門付近で、奥田小の耐震工事に派遣されていた60代の男性警備員に銃弾2発を発射したが命中しなかった。さらに、近くにいた別の警備員の男性(当時68)の頭を撃ち殺害した。 | 殺人、窃盗、殺人未遂、銃刀法違反、傷害、公務執行妨害 | 2021年3月5日 富山地裁 大村泰平裁判長 無期懲役 |
裁判員裁判。Sは逮捕時の被弾で脊椎などを損傷して下半身が不自由となり、車椅子で出廷した。検察側は警部補殺害を強盗殺人で起訴。Sは公判ですべて黙秘し、弁護側は「拳銃を奪おうとする意思は殺害行為の後に生じた」として警部補への強盗殺人罪は成立せず、殺人と窃盗の罪に当たると主張した。 裁判長は強盗殺人罪の適用を認めず、殺人と窃盗の罪に当たるとした。そして完全責任能力は認めるも、自閉症スペクトラム障害の影響を汲むべき事情として認めた。そして人を殺害した事件のうち死刑及び無期懲役が宣告されたものを中心に比べて検討した結果、極めて重大なものであるとまで評価することができず「死刑を選択することがやむを得ないとまでは言えない」と判断した。 |
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2022年3月24日 名古屋高裁金沢支部 森浩史裁判長 一審破棄、差戻し 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
検察側は拳銃を奪う目的があったとして、強盗殺人罪が成立すると死刑を求めた。弁護側は「発達障害の影響で刑事責任能力が著しく低下していた」と主張し、有期刑を求めた。 裁判長は被告の供述などから警察官への強盗殺人罪の成立を認めた上で、「殺人罪と窃盗罪の認定にとどめた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある」として、無期懲役とした一審判決を破棄し、審理を地裁に差戻した。 |
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2024年3月11日 最高裁第二小法廷 岡村和美裁判長 被告側上告棄却、差戻し確定 |
上告ができる理由にあたる判例違反などがないとだけ判断した。 | ||||
M・Y(53) | 福島県伊達市出身、住所不定、無職M・Yは2020年5月31日午前7時55分ごろ、福島県三春町の国道288号脇で、地元の清掃活動のボランティアをしていた同町に住む会社員の男性(当時55)と会社員の女性(当時52)を準中型免許を持たずに準中型トラック(約2.5t)で、いったん通過して150m先でUターンし、時速約60~70キロまで加速しながらはねて殺害した。現場は、ほぼ直線の片道一車線だった。M・Yは2日前に福島刑務所を出所したばかりだった。 | 殺人、窃盗、道路交通法違反(ひき逃げ) | 2021年6月24日 福島地裁郡山支部 小野寺健太裁判長 死刑 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判員裁判。裁判長は「当時、時速60から70キロメートルの速度に加速させてはねていて、被告は殺害の意欲こそなかったものの、被害者が死亡する蓋然性が高いことを認識していた。意図的に犯行に及んでおり、殺意も明白だ。長く刑務所に入っていたいという身勝手な動機に酌むべき事情はなく、犯行の残虐さなども考えると、場当たり的で稚拙な面があったことは否定できなく高度の計画性が認められないことを踏まえても、計画段階から人が死亡する可能性を認識して実行した点に人命軽視の度合いの強さが表れており、責任は誠に重い。死刑の選択がやむを得ないとの結論に達した」として死刑を言い渡した。 | |
2023年2月16日 仙台高裁 深沢茂之裁判長 一審破棄・無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
判決で裁判長は、一審同様に明確な殺意があったと認定。一方で、「長く刑務所に入るという目的が達成できればよかったのであり、他人の生命を侵害すること自体から利益を得ようとしたわけではない」「犯行に場当たり的な面があり、稚拙」「被害者2人が死亡する危険性が極めて高いが、殺害の意欲までは認められない」「生命軽視の態度や姿勢は明らかだが、甚だしく顕著とまでは言い難い」として、「過去の判例からも、死刑となった事件に匹敵するとまでは言えない」と述べた。 | ||||
2024年5月27日 最高裁第一小法廷 堺徹裁判長 検察側上告棄却、確定 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判長は、「究極の刑罰である死刑の適用は慎重に行わなければならないという観点を踏まえる必要がある」と指摘。その上で「綿密な計画や周到な準備に基づき、確実に遂げるべく実行した犯行とは言えない。刑事責任は誠に重いものの、犯情を総合的に評価すると、死刑を選択することが真にやむを得ないとまでは言い難い」と述べた。 | ||||
N・S(53) | 特定危険指定暴力団工藤会トップで総裁のN・S被告と、ナンバー2で会長のT・F被告は他の被告と共謀して以下の事件を起こした。
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銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂) | 2021年8月24日 福岡地裁 足立勉裁判長 死刑 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
N・S被告とT・F被告は無罪を主張した。 判決は、「(事件を)配下の組員が独断で行うことができるとは考えがたい。両被告の関与がなかったとは到底考えられない」として共謀を認めた。両被告の工藤会の立場において、対外的にも組織内においても、総裁のN被告が最上位の扱いを受け、会長のT被告がこれに続く序列が厳格に定められていたとした。そして重要な意思決定は、両被告が相互に意思疎通しながら、最終的にはN被告により行われていたとした。 量刑について、元漁協組合長を殺害した事件は極めて悪質と断じ、目的のために手段を選ばない卑劣で反社会的な発想に基づき、地域住民や社会一般に与えた衝撃は計り知れないと述べた。またその他の3事件も組織的・計画的な犯行で、人命軽視の姿勢は著しく、被告はいずれも首謀者として関与しており、極刑はやむを得ないとした。 |
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2024年3月12日 福岡高裁 市川太志裁判長 一審破棄・無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
N・S被告は無罪を主張したが、T・F被告は(3)(4)について無断で指示したと主張を変更した。 判決は、(1)についてN被告がトップを務めていた工藤会の傘下組織「田中組」の意思決定のあり方は証拠上認定できず、N被告の発言など間接証拠についても「推認力に乏しい」と判断した。一方、(2)(3)(4)については一審判決を支持した。そのうえで「死刑は維持しがたいが、3事件のみでも刑事責任は非常に重い」として無期懲役が相当と結論づけた。 |
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検察・被告側上告中。 | |||||
K・A(34) | 横浜市の病院の看護師だったK・A被告は2016年9月15日~19日ごろ、入院患者の女性(当時78)、男性(当時88)、男性(当時88)の点滴に消毒液を混入して、同16~20日に殺害した。同18~19日ごろには殺害目的で投与予定の点滴袋5個に消毒液を入れた。 | 殺人、殺人予備 | 2021年11月9日 横浜地裁 家令和典裁判長 無期懲役 |
裁判員裁判。裁判長は被告の責任能力について「犯行時は(発達障害の一種の)自閉スペクトラム症の特性があり、うつ状態にあった」と認定した一方、弁護側が主張した統合失調症の影響は否定。完全責任能力があったと認めた。計画性を認め、動機も身勝手と非難。一方、犯行動機の形成過程については、情状酌量の余地を認めた。そして公判の経過とともに被告が贖罪の意思を深めていったことも重視。更生可能性も認められると判断した。 | |
2024年6月19日 東京高裁 三浦透裁判長 検察・被告側控訴棄却 |
裁判長は被告の完全責任能力は認定し、弁護側の心神耗弱の主張は退けた。しかし、自閉スペクトラム症の特性があったことなどから、「看護業務の中で感じた不安や恐怖は身体の不調を来すほど大きかった」と指摘。死刑については「真にやむを得ないと認められる場合でなければ、許されない」と指摘。動機が作られる過程に「被告の努力ではいかんともしがたい事情が色濃く反映していた」とし、更生の可能性を認めて極刑を回避した一審の判断に「誤りがあるとは言えない」と述べた。 | ||||
上告せず確定。 |