1997年 10,000円で選ぶベスト・ミステリ




 これは、創元推理倶楽部通信で企画された「10,000円で選ぶベスト・ミステリ」に投稿した原稿です。10,000円(消費税除く)以内でベストを選ぼうという企画でした。ベストの選択に、当時の私の好みが出ていて、個人的に興味深いです。


1.馳星周『鎮魂歌−不夜城II』(角川書店) 1,500円
 第1作がフロックでないことを証明した傑作。


2.飯田譲治+梓河人『アナザヘヴン 上下』(角川書店) 上1,700円 下1,600円
 上下本にも関わらずノンストップで読める今年の最大の収穫。面白さだけなら今年の小説で一番。ほとんど評にあがってこないけれど、損はさせません。是非ともご一読を。SFホラーの大傑作です(けれどちゃんとしたミステリだよ)。


3.貴志祐介『黒い家』(角川書店 第4回日本ホラー小説大賞受賞作) 1,500円
 人の狂気だけでこんなに怖い話を書けるなんてと思わず感嘆してしまった。ミザリーよりも怖いという帯の評に偽りなし。


4.江戸川乱歩・横溝正史『覆面の佳人』(春陽文庫) 714円
 ついに刊行された幻の作品。確かに内容は破綻しているかもしれないが、そんなことは気にしない。我々が置き忘れていた冒険、浪漫が今甦る!


5.篠田真由美『原罪の庭』(講談社ノベルス) 860円
 今年の本格ミステリでは数少ない収穫。泣ける本格ミステリってなかなかありません。けれど今年の本格ミステリって、ホント不振でした。思わず膝をたたくような本格ミステリ、出ませんかね。『硝子の家』みたいな。


6.加納朋子『ガラスの麒麟』(講談社) 1,600円
 宝石箱のような短編集。ガラスのようにもろそうに見えて実は強く、光り輝くような素敵な作品ばかりでした。


 ミステリと普通小説の境目がどんどんなくなってくるのを象徴するような作品ばかりが目立っていた1年だったと思います。まあ、面白ければいいんですけれども。ただ、読み終わった後に爽快感を感じる作品が無くなってきているのはちょっとなあ。なんだかんだ言っても勧善懲悪が好きなんだと思う、日本人って。

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