1998年 10,000円で選ぶベスト・ミステリ




 これは、創元推理倶楽部通信で企画された「10,000円で選ぶベスト・ミステリ」に投稿した原稿です。10,000円(消費税除く)以内でベストを選ぼうという企画でした。ベストの選択に、当時の私の好みが出ていて、個人的に興味深いです。


1.貴志裕介『天使の囀り』(角川書店) 1,700円


2. 鈴木光司『ループ』(角川書店) 1,800円


3.二階堂黎人『人狼城の恐怖 第四部』(講談社ノベルス) 1,100円


4.山田正紀『神曲法廷』(講談社ノベルス) 1,100円


5.藤木稟『ハーメルンに哭く笛』(トクマノベルス) 1,000円


6.清涼院流水『コズミック』(東京創元社) 1,800円


 通勤が車になってから読書量はがた落ちです。通勤電車の中は最大の読書スペースであったことに今更ながら気付きました。
 今年、本当に面白いと思ったのは『天使の囀り』だけです。他にあげた5冊も不満はいっぱいあります。今年は新本格に限らず、本格全滅の年でした。ホラーやサスペンスにハードボイルド、どれも充実していたようですが、本格で文句なく面白かったと言えるのは全くありません。たくさん待たせて、どんどん長くなって、結局つまらない。文章少しは吟味しろよって言いたくなります。西澤保彦や森博嗣のような量産型もどんどん薄くなっていきますね中身が。それにミステリと普通小説の境目がさらになくなっているのも気になります。ミステリフィールドに帰ってきてほしいですね、北村薫は。
 評論家たちの暴走も気がかり。議論だったらいいんだけれども、どう見てもただの揚げ足取り合戦のような気がします。特に笠井潔はいったいどうしたんだろう。浦賀和宏まで本格にはいるようじゃ何がなんだかわかりません。
 もっと素直にミステリを読みたい。もっと素直なミステリが読みたい。ミステリがどんどん迷宮に落ちていくような気がします。

【「ミステリエッセイ」に戻る】