2000年 10,000円で選ぶベスト・ミステリ
これは、創元推理倶楽部通信で企画された「10,000円で選ぶベスト・ミステリ」に投稿した原稿です。10,000円(消費税除く)以内でベストを選ぼうという企画でした。ベストの選択に、当時の私の好みが出ていて、個人的に興味深いです。
1.井上夢人『オルファクトグラム』(毎日新聞社) 1,900円
2.古処誠二『少年たちの密室』(講談社ノベルス) 820円
3.横山秀夫『動機』(文藝春秋) 1,571円
4.森達也『放送禁止歌』(解放出版社) 1,800円
5.関口苑生『江戸川乱歩賞と日本のミステリー』(マガジンハウス) 2,500円
6.石崎幸二『日曜日の沈黙』(講談社ノベルス) 740円
日本のミステリは末期症状である。島田荘司などは己の信奉者のみを信じてミステリを書き続けている。霧舎巧、氷川透、柄刀一などは己の殻に閉じこもり、ごく一部のミステリ読者を対象にしたミステリを書くことが最良と勘違いしている。西澤保彦、森博嗣、京極夏彦などは過去の作品を読んでいることを前提としたミステリしか書けなくなっている。ハードボイルド、冒険小説は有力な新人が出現せず、壊滅状態といってよい。まさに世紀末である。だからこそ、リバイバルブームは衰えないのだ。ミステリが一般の読者を対象にしたエンタテイメントであることを、現代の作家は忘れないでほしい。
井上は、「嗅覚」という文字に表現しにくいテーマを取り上げ、しかも良質なエンタテイメントに仕立て上げた。まさに脱帽である。古処は今年の新人王。『UNKNOWN』も含め、巧妙なミステリを提供してくれた。横山は久々に短編の快感を味わうことが出来た作品集。まだ二冊目なのに、既にベテランの技術と味を持っている。『放送禁止歌』は純粋なミステリではないが、この探求心こそ、今のミステリ作家が忘れているものである。関口はここ数年でもっとも刺激的な評論。好き嫌いの好みが激しいのが難点だが、日本ミステリ界を振り返るには最適の書である。石崎はあえて本格ミステリの矛盾点を笑いの対象に設定した点を買った。もし本人が「本格ミステリ」を書いたと言うのであれば、即刻ベストから外すつもりである。
本来なら曾我佳城を入れるところだが、“新刊”とは言えないと判断し、外した。
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