2003年度私的日本ミステリベスト10
1.笹本稜平『太平洋の薔薇』上下(中央公論新社)
海洋冒険小説と国際謀略小説がミックスされた大傑作。小説の面白さを十分に満喫し、男たちの闘いに胸を打たれ、涙した一冊。
2.石持浅海『月の扉』(光文社 カッパ・ノベルス)
ハイジャックされた飛行機の中での不可能殺人事件。極めて論理的で、サスペンスあふれる本格ミステリの傑作。
3.岩井三四二『月ノ浦惣庄公事置書』(文藝春秋 第10回松本清張賞受賞作)
室町時代末の小さな村同士の土地争いを扱った公事とその裏に隠れた怨念を書ききった、新しい時代法廷小説の傑作。
4.山上たつひこ『追憶の夜』(マガジンハウス)
23年前の児童誘拐殺人事件に隠された裏側の暗い真実を探偵が追いつめる、正統ハードボイルド作品。
5.真保裕一『繋がれた明日』(朝日新聞社)
殺人事件の加害者の出所後を追う、地味だが丹念に書かれた佳作。似たようなテーマの某作品よりもこちらの方が上である。
6.横山秀夫『第三の時効』(集英社)
表題作のミスは痛いが、正調警察小説として高く評価されるべき連作短編集。
7.加納朋子『コッペリア』(集英社)
人形への偏愛を書ききった、著者初の長編ミステリ。
8.伊坂幸太郎『重力ピエロ』(新潮社)
ポップで軽快な犯罪ミステリ。著者の不思議感覚が今ここに花開く。
9.大倉崇裕『七度狐』(東京創元社 創元クライム・クラブ)
陸の孤島と化した過疎の村で起こる連続殺人事件。古き良き本格ミステリと落語に取り憑かれた狂気が重なり合う。
10.横溝正史『江戸の陰獣 お役者文七捕物暦』(徳間文庫)
表題作は、今まで私が読んだ横溝正史の時代物でも屈指の出来である。人形佐七ものに改稿された作品よりもずっとよい。秀逸なトリックと、切なすぎるラストが忘れられない。
【「ミステリエッセイ」に戻る】