時間を忘れる村


【問 題】
 週刊誌の記者である岡崎成美は、信州の北東部の山中にあるS村に行くことにした。短大時代の友人、熊谷蕗子がそこの民宿に嫁いでいたのだ。蕗子の希望で、成美は7月31日から1週間夏休みを取った。
 31日当日、夕方5時に成美はS村に到着した。ここはテレビもない田舎であるが、時間を忘れるために来た成美にとってはかえって好都合であった。風呂にゆっくり浸かって出、浴衣に着替えようとしたら腕時計の文字盤が曇ってよくわからない。部屋に戻って柱時計を見たら午後7時だった。一時間近くずれているので、腕時計を直しておいた。蕗子が食事を運んできて、話が弾み、気がついたら午後10時だった。蕗子はいったん部屋に戻ったが、話し足りなかったのか11時にはまた戻ってきた。結局夜中まで話し込み、蕗子は成美の隣で寝てしまった。
「おやじが冷たくなっている」
 と言う声で、目が覚めた。声は蕗子の夫の隆二だった。柱時計は午前六時を指している。蕗子は隆二とともに隆二の父が眠っていた母屋へ向かった。成美もあとをついていった。そのとき村の有線放送から「おはようございます、朝の六時です」と声が流れていた。
 隆二の父は奥座敷の布団の中で死んでいた。心臓が悪かったので、夜中に発作を起こしたものと思われた。近所の医者がやってきた。成美は医者が帰るときに訪ねた。
「おじいさんは何時に亡くなったのですか」
「昨夜の十一時半から十二時くらいでしょうか。死因は心不全だと思われます」
 成美はホッとした。隆二の父は蕗子に辛くあたっていたので、もしやと思ったのだ。
 成美は1週間後、もとの忙しい生活に戻った。

 成美は友人である樋口刑事にこの事を話した。 「帰って腕時計を調べてもらったんだけど、別におかしいところがないのよね。なんか一時間時間がごまかされた気がする」
「だけど有線放送も六時といったんでしょう」
「ええ、外からも聞こえてきたから、テープの声でもないし」
「もし一時間狂って先に進んでいたとしたら、蕗子さんが成美の部屋に来る前におじいさんを殺したという説も成り立つわけね。死因は心不全だから、濡れた紙で口と鼻をふさいだとしても十分可能だわ。もしかしたら、旅行者のあなたを利用した犯罪かもしれない」
 閉鎖的な村でおきた犯罪。何か、時間を騙されたような感じ。さて、樋口刑事はどのように推理をしたのか。


【解 答】
 S村ではサマータイムを導入していたのだ。8月1日になると、みなが一時間進めることになる。蕗子は31日夜から事前に一時間進めておいたのだ。だから有線放送と、柱時計の時刻は一致したのだ。

【覚 書】
 こんな村があるか! あきれてものがいえない。

 ※解答部分は、反転させて見てください。
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