スパンの誤算


【問題】

 怪盗アルレーヌ・スパンは、なにをやってもどこかひとつぬけていた。あのときの仕事もそうだった。
 東京都内にしては珍しく木立の多い静かな高級住宅街。晴れ渡った空には月も星も見えず、街灯も消えていた。その屋敷の門灯も、家の中の灯りも消えていた。屋敷の住人は老人夫婦とお手伝いさんの三人だけ。猫は三匹いるが、犬は飼っていない。泥棒にとってこれほど安全な家はない。
 スパンは黒いダービー・ハットに黒マント、黒覆面といったいでたちで、ボストン・バックから、七つ道具のひとつ、万能ノコギリを取り出すと、屋敷の板塀をごりごりと切り始めた。穴を開けて忍び込もうというのである。慎重に、慎重にノコギリを使ったから、音に気が付いた人間はいないはずだ。
 ところがである。ノコギリを使い始めてものの二十秒も経たぬうちに、スパンはあっさり捕まってしまったのである。いったい、どこに手抜かりがあったのだろうか。

【解答】

※解答部分は、反転させて見てください。

 文章をよく読めばわかるはずだ。晴れ渡った空には月も星も見えず、街灯も消えていたのである。そう、今は白昼なのだ。黒マント、黒覆面という格好では怪しまれるに決まっている。ノコギリを使い始めたとたん、通行人が気付いて近くの交番に通報、警官が駆けつけたのである。

【覚書】

 実際にこんなミスをする泥棒がいるはずはない。問題文にワナを仕掛けたタイプのクイズである。だが、叙述トリックは極端にいってしまえば、こんなようなものなのである。


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