パイを食った男


【問 題】
 私は久々に友達の山本を訪ねることにした。山本は大学時代の数学研究室の同期だった。山本は町はずれにある四階建てのアパートに住んでいる。二階の九号室だ。ところが行ってみると、その部屋は空き家になっていた。私は一階にいる管理人のおばさんに尋ねてみた。
「山本さんなら、二週間前に殺されたよ」
 私は新聞を読まないので全然知らなかったのだ。
「ナイフで刺されちゃってね。ちょうど給料日だったらしく、通帳から下ろしたお金が全部盗まれていたらしいよ」
「犯人は誰なんだ?」
「いまだに分かんないよ。私はお菓子作りが好きでね。よくアップルパイなんか作ったけれど、彼は必ずといっていいほど食べてくれて、おいしいと言ってくれたのに。あんないい人を殺すなんて」
 おしゃべりなおばさんは鼻をすすりながら、また話し続けた。
「なんでも、前の晩に半分食べ残してあったパイを、両手にしっかり握って死んでいたらしいよ。警察も不思議がっていた。瀕死の人間が、なぜわざわざパイなんか握って死んだのか」
「犯人の心当たりは何もないのか?」
「絶対ここの住人だよ。私は犯行時刻の前夜から管理人室にいて見張っていたけれど、誰も出入りしなかったんだ。ところが、このアパートには部屋が60室もあるし、夫婦で住んでいる部屋もあるから、全部で100人以上いるんだ。だから警察も苦労しているみたいだよ」
「四階建てで60室もあるということは、一階には15室あるんだな」
「そうだよ。一号室から十五号室まであるんだ」
「じゃあ、犯人がわかったよ。山本はしっかりとメッセージを残していたんだ」
 さて、犯人は何階の何号室の人間か?


【解 答】
 山本はとっさの機転で、パイを掴みダイイング・メッセージを残した。山本は数学研究室の出身である。パイといって思い付くのは円周率のπだ。πは3.14159265……と続くが、普通は3.14の近似値で計算される。つまり、犯人は三階の十四号室の人間だ。

【覚 書】

 ダイイング・メッセージがちょっと単純なので、藤原宰太郎オリジナル問題の様な気がします。子供向けには最適な問題だと思います。
 元ネタが判明しました。ウィリアム・ブルデンの短編、「ダシール・ハメットを読んだ男」でした。ただしあくまでヒントのみで、実際の使われ方は違います。

 ※解答部分は、反転させて見てください。
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