カギは走った


【問 題】
 刑事たちはある事件の重要参考人として、上野という男をマークしていた。上野があるマンションにいるという情報を聞き、刑事の赤坂と馬場はマンションに向かった。そのとき、銃声が鳴った。赤坂と馬場は慌てて銃声が鳴った部屋に走った。マンションの入り口で、ある男が通りかかった。臭いと思った赤坂は、馬場にその男を尾行させた。
 銃声が聞こえたのは、神田という表札がかかっている部屋だった。赤坂はドアを開けようとしたが、鍵がかかっている。ちょうど訪れた管理人が持っている合い鍵を使って部屋に入ってみると、そこには上野の死体が転がっていた。死体は暖かく、たったいま殺されたばかりのようだ。
「ここは、神田五郎さんという人が借りている部屋です。このマンションの部屋の鍵は、全て電子ロックです。複製を作ることはできません。鍵は私と神田さんしか持っていないはずです。鍵がなければ、部屋へ入ることも、出ることもできません」
 管理人はこう証言した。部屋の窓にも鍵がかかっている。出入りはこのドアからしかできないはずだ。さきほどすれ違った男が怪しい。赤坂は馬場に連絡を取った。

 馬場はあるアパートの前にいた。
「先ほどの男は品川という男です。そこのアパートの二階の部屋に入り、それからは一歩も外に出ていません」
「よし、品川に聞いてみよう」

「品川、おまえは神田から鍵を借り、神田の部屋で上野を殺しただろう」
「めっそうもない。あのマンションには別の用事があって行っただけですよ。それに鍵は神田さんが持っているから、私は入れませんよ」

「馬場、君は品川を見張っていてくれ。私は神田の仕事先に行って来る」
 赤坂は神田の勤め先に向かった。その間、馬場はずっと品川を見張っていた。品川は一歩も部屋から外へ出なかった。

「神田さんですか」
「はい。大変な汗ですね。上着をお借りしましょう。そこにかけておきます」
「暑かったし、急いで走ってきたからな」
「ところでご用件は何でしょう」
「神田さん、あなたが借りているマンションの部屋のことですが、鍵はお持ちですか」
「はい、持っていますよ。これです」
「お借りしていいですか」

 赤坂は確かめたが、間違いなくマンションの部屋の鍵だった。神田はこの日、一日中勤め先にいたことは確認されている。しかし、動機といい状況といい、品川が犯人であることは間違いない。しかし銃声が鳴った後、品川は刑事にずっと見張られていたから、神田に鍵を渡すことはできなかったはずだ。では、どうやって品川は神田の部屋に入ることができたのだろうか。ただし、管理人は無関係であり、合い鍵は肌身離さず持っていた。




【解 答】
 品川も神田も、刑事にマークされていたのだから、接触することなどできるはずがない。品川と神田に接触した唯一の人間は、刑事の赤坂だけである。品川は、刑事が尋ねてきたとき、とっさに赤坂の上着のポケットに鍵を入れたのだ。赤坂が出ていくと、品川は電話で神田にそのことを知らせた。神田はうまく話しかけながら上着を脱がしてハンガーにかけさせるようにした。そのとき、ポケットから鍵を抜き取ったのである。

【覚 書】

 これは文章にするより、イラストや映像にすると映えるトリックですね。登場人物が少ないので、クイズにするとわかってしまいますが、ドラマ仕立てにして、トリックの一つとして使うと結構効果的だと思います。

 ※解答部分は、反転させて見てください。
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