3つの金庫


【問 題】
 これは、デジタル時計がまだ出回っていない頃の話である。
 ルパンはある日、ホームズから呼ばれてある一軒家に行った。
「いったい何の用だい、ホームズ君」
「ルパン君、君はどんな金庫でも開けることができると豪語していたね」
「もちろん、15分もあればどんな金庫でも開けることができる」
「ならば、この3つの金庫を開けてみてくれないか。1つ15分以内だ」
「中には何が入っているのだ?」
「空っぽだよ」
「何?」
「実はある金庫メーカーが、ルパンでも開けられない金庫、というキャッチコピーで売りたいと言ってきたのだ。そこで本当にルパンでも開けられないのかどうか、試してほしいという依頼が来たというわけだ」
「なんとまあ、大胆て不敵なメーカーだな。僕に開けられない金庫なんてあるわけないだろう」
「もちろん、ただでとは言わない。3つとも15分以内に開けられたら、賞金として5万ドルを進呈する。もっとも、ルパンが15分かかった、というフレーズは使わせてもらうけれどね」
「まあ、それくらいはかまわない。やる気が出てきた」
「最初はこれだ」
 ホームズは、一つ目の金庫を見せた。ルパンは道具を取り出し、さっそく取り掛かかろうとしたが、
「ちょっと待ってくれ。時間はこれで計ってくれ」
と砂時計を取り出した。
「懐中時計より場所を取らないし、正確だし、一目でわかる」
「なるほど、いいだろう。念のため、一回目はこちらでも時間を計るよ」
 ルパンはさっそく取り掛かった。
「結構苦戦しているようだね、ルパン君」
「最新型だから、難しいな」
 砂時計の砂がどんどんなくなっていく。
「オーケイ、開けるよ」
 ルパンが金庫を開いたのは、砂時計の砂がちょうど落ち切った時だった。
「さすがルパン君。ぴったり15分だ。この砂時計も正確だね」
「そうだろう」
「では二つ目だ。頑張ってくれたまえ」
 ルパンは二つ目に取り掛かる。ルパンが金庫を開けた時、砂時計の砂はまだ少し残っていた。
「やはりルパン君の前では、最新型の金庫も敵わないかな。だが三つ目がある。油断するなよ」
「すまないが、暖炉の火をもっとくべてもらえないか。今日は寒いので、このままだと手が動かなくなる」
「おっと、それは失礼した」
 ホームズはひっくり返そうとした砂時計を暖炉の上に置き、暖炉に薪を大量に入れた。
「どうだい、ルパン君」
「よし、だいぶ暖かくなった。では、3つ目も始めようか」
 ルパンは3つ目に取り掛かった。ところが、砂が落ち切ったのに、ルパンはまだ金庫を開けることができなかった。
「おい、ルパン君。全部砂が落ちたよ」
「おかしいな、さっきと同じペースでやっているのだが」
 ルパンは必死に取り掛かり、約1分後に金庫を開けることができた。
「ホームズ君、何か細工をしたのか」
「おいおい、何も細工なんかしていない。それは君も見ているだろう」
 確かにそうだ。砂時計はルパン自身が用意したものだ。細工のしようがない。金庫自体は仕掛けこそ違えど、似たようなものだ。なぜ開けられなかったのか悩んでいたが、
「ホームズ君、君のトリックに引っかかるところだった。僕は15分以内で金庫を開けることができていたはずなんだ」
「ははは、気づいたかい、ルパン君。もっとも、僕は何の細工もしていないがね。とはいえ確かに君の言うとおり、金庫を開けることができていたはずだから、賞金は君のものだ」
 ホームズは潔くルパンに賞金を渡したのである。ではなぜルパンは、最後の金庫だけ時間をオーバーしてしまったのだろうか。



【解 答】
 ホームズが砂時計を暖炉の上に置いたので、ガラスが膨張し、砂が早く落ちてしまったのだ。

【覚 書】

 藤原宰太郎の著書でたまに見る推理クイズ。今じゃ骨とう品みたいなトリックになってしまいましたが。
 元ネタはエドワード・D・ホックの短編「犯罪作家とスパイ」です。

 ※解答部分は、反転させて見てください。
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