被害者は話し中


【問 題】
 これはまだダイヤル式電話しかなかった昭和40年代の事件である。

 アパートの一室で殺人事件があった。解剖の結果、死亡時刻は午後2時30分~4時までの間とされた。
 捜査の結果、動機のある会社社長が容疑者として浮かび上がった。早速刑事たちが社長の元へ訪れたが、社長はこう答えた。
「私は午後3時に会社に戻った。その後、秘書に彼のところへ連絡を取ってくれと指示を出したが、彼のアパートの電話は話し中だった。たぶん、殺害されたのはその後だろう。私はずっと会社にいたから、彼を殺すことなどできない」
 秘書は社長の言葉を肯定した。
「社長の指示で、午後3時に男性のところへ電話をかけました。しかし話し中だったので、社長にその旨を伝えましたところ、ではもういいと答えられました。社長が帰られた午後3時以降、社長は帰宅するまで一歩も社長室を出ておりません」
 しかし刑事たちは、社長室に別の電話があることを発見すると、たちどころに社長のトリックを見破ったのである。社長は午後2時40分に男性を殺害後会社に戻っていたのだが、どうやって男性の電話を話し中にすることができたのだろうか。
 ちなみに秘書は無関係であるし、正しい番号で電話をかけている。


【解 答】
 社長は秘書が電話をかける前に、社長室の電話から被害社宅へ電話をかけたのである。アパートでは電話を取る人がいないわけだから、いつまでたっても電話は鳴りっぱなしである。この状態で他の人が被害社宅へ電話をかけると、話し中の状態になるのだ。
 電話の特性を知っていた社長が、アリバイ工作をしたのである。

【覚 書】

 古い推理クイズ本では時々見かけるトリックですね。他にも氷やドライアイスで受話器を上げておく、というトリックもあります。
 今では電話を使ったアリバイトリックなんて見あたらなくなりましたね。携帯電話に限らないことですが、新しい機械が普及されると、古いトリックは骨董品としての価値しかなくなります。

 ※解答部分は、反転させて見てください。
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