タンカー殺人事件


【問 題】
 原油を積んだマンモスタンカーがインド洋のど真ん中を航行中、船尾の甲板で、船医が死体となって発見された。背中をナイフで刺されていた。死亡時刻は昨夜の11時ごろだった。
 航行中での殺人事件であり、40人の乗組員は全員揃っていて、逃げた人はいない。犯人はこの中にいる。
 動機のあるものが二人いた。
 一人目は、ギャンブル狂の二等航海士、南田。タンカー内でもポーカーや花札で負けまくり、船医に百万円近い借金があった。ちなみに借金のことは船長以下、全員知っており、これ以上ギャンブルをすると首だと言われていた。そして船医が持っているはずの借用書がなかった。
 二人目は、船医の甥である無線士の西村。船医は独り者であり、身内は西村しかいなかった。船医は東京の一等地に土地と家屋があり、かなりの財産であった。西村は乗船前に交通事故をおこし、慰謝料の支払いに困っていた。
 さて、犯人はどちらか。


【解 答】
 犯人は無線士の西村である。
 殺人事件を隠したいのなら、死体を海に投げ捨ててしまえばよい。そうすれば、失踪か、事故か、殺人か、誰にもわからなくなってしまう。死体が見つからないからだ。
 ところが、犯人はわざわざ死体を船に残している。なぜか。
 死体を海に捨てたら、被害者は行方不明、失踪したことになる。通常、失踪した場合は七年経たないと、死亡が法的に認められない。つまり、西村は七年間、遺産を相続できないのである。
 だから西村は、一日も早く遺産がほしいため、あえて死体を船に残したのだ。

【覚 書】

 これが効果的に使われたのは、高木彬光『誘拐』にあるのですが、クイズのような形式では見かけたことがありません。もっとも、藤原宰太郎あたりが高木作品を読んでアレンジした可能性も十分ありますが。
 情報をいただきました。高木彬光の短編「幽霊の血」でも一部使われているようです。

 ※解答部分は、反転させて見てください。
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