走行距離


【問 題】
 これは数十年前の話である。
 隣町の宝石店で強盗事件が起きた。犯人は車で逃走。残念ながら車のナンバーは分からなかったが、強盗に入った時の人相から、斉藤が容疑者としてあがった。早速刑事が斉藤のところへ向かった。
「お前、昨日隣町で強盗をしただろう」
「私は知りませんよ、強盗なんて」
「車はお前の友人から借りたやつじゃないか。型式が目撃証言と一致したぞ」
「そんなはずはありません。確かに昨日、共茂から車を借りて隣町に行きましたけれど、乗ったのは30kmでした。まちがいありません。隣町の宝石店まで車で往復すると40kmはありますから、往復なんてできませんよ」
「お前が30kmしか走っていないという証拠なんかないだろう」
「共茂はケチだから、走行距離をいつも控えているんです。そしてその分、ガソリン代と車の消耗代まで請求するんですよ。だから借りたくはなかったんですが、昨日は買い物で車がどうしても必要だったから、仕方ありません」
 そこで刑事は、三軒隣に住む共茂のところに話を聞きに行った。
「ええ、間違いありません。確かに斉藤は30kmしか走っていませんでした。ここにメモも残しています」
 共茂のメモには走行距離が細かく書かれており、貸す前と後の差は確かに30kmだった。しかも車を見ると、貸した後の走行距離のままとなっている。
 目撃証言からすると、犯人は斉藤としか思えない。しかし、斉藤は車で宝石店まで行くことができなかった。ではどうやって斉藤は宝石店まで行くことができたのか。
 共茂は共犯者ではない。また、同じ型式の別の車を準備したわけでもない。共茂の家から宝石店までは途中山道ばかりであり、町に降りるまで他の交通手段はない。


【解 答】
 斉藤は途中から車を約10km、バックで走らせたのだ。車をバックで走らせれば、走行距離にはカウントされない。山道なので、他の人にも見られずに済んだ。

【覚 書】

 藤原宰太郎などの推理クイズでよく見る一本。最も今は無理ですね。かなり昔のトリックです。このトリックの応用編もあります。
 元ネタが判明。オースティン・リプレイ『続推理試験』(荒地出版社)の推理クイズ「教室で」でした。もっとも、さらにその元ネタがあってもおかしくはないですが。何かで読んだ記憶があるので。

 ※解答部分は、反転させて見てください。
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