殺し屋のジョッキ


【問 題】
 俺はちょっとは名の売れた殺し屋だ。今日も依頼客がやってきた。今日の客は若い男だ。
若い男「殺してほしいのは、この写真の男だ。私の叔父だが、私の父が亡くなった時に騙して会社を乗っ取ったのだ」
 男はかなり厚い束の金を俺に渡した。
殺し屋「いいだろう。では、契約成立を受けて、乾杯でもしようか」
 俺はジョッキを取り出し、ビールを注いだ。しかし男はビールを飲もうとしない。
殺し屋「なんだ、俺の酒が飲めないのか」
若い男「いや、その……」
殺し屋「毒でも入っていると思ったか。何なら俺が飲んでやろう」
 俺は左手でジョッキを掴むと、半分くらい一気に飲み干した。
殺し屋「いいか、こういうのは信頼関係が第一なんだ。一つ間違えると、お互い刑務所に行くことになるのだからな。わかったか」
 若い男は俺にビビったのか、それとも俺がビールを飲んでも平気な顔をしているからなのかはわからないが、俺の剣幕に押され、慌てて右手でジョッキを掴むと、残りを一気に飲み干した。
 するとどうだろう。若い男は血を吐きだしたのだ。
若い男「な、なぜ……」
殺し屋「馬鹿な男だ。この写真の男から、お前を殺してほしいと頼まれていたんだよ」
 若い男に俺の言葉が聞こえたかどうかわからないが、無念の表情で息を引き取った。あとは暗くなったら予定していた山の中の掘った穴に死体を捨てて埋めればいい。すでに準備はできている。若い男が持ってきた金は、ボーナスとしてありがたく受け取っておいた。
 さて、同じジョッキから同じビールを飲んだのに、なぜ先に飲んだ俺は無事で、後から飲んだ若い男が死んだか、わかるか? 俺が解毒剤を飲んでいたというわけではない。


【解 答】
 文中に書いている通り、俺は左手でジョッキを持った。俺は左利きなのだ。そして若い男は右手でジョッキを持った。だから、俺と男ではビールを飲む口の位置が違うのだ。俺はジョッキの飲み口の、男が口をつけるであろう位置に毒を塗っておいたのだ。もしかしたら若い男も左利きかもしれなかったが、同じジョッキから飲む場合、俺の口を付けたところから飲むようなことはまずしない。

【覚 書】

 藤原宰太郎の著書でよく出てくる推理クイズ。これはイラスト問題にしないと、すぐにわかっちゃいますね。

 ※解答部分は、反転させて見てください。
 ※お手数ですが、ブラウザの「戻る」ボタンで戻ってください。