若桜木虔ほか『犯人探し推理ゲーム』


若桜木虔ほか『名所旧跡殺人事件の謎』
(二見書房 WAi-WAi文庫)




『名所旧跡殺人事件の謎』 『名所旧跡殺人事件の謎』

 著者:若桜木虔ほか

 二見書房 WAi-WAi文庫

 発売:1994年11月25日初版

 定価:500円(初版時 税込み)





 中国料理の点心のように、何種類も集まれば、バラエティに富んだ料理になる。
 そうやって集められたのが、『推理作家点心会』のメンバー八名の手になるこの一冊です。この本には参加していませんが、命名者は秋月達郎さんです。
 ひとつひとつは短いけれども、中身まで軽いわけではありません。
『ショートショートは長編とおなじ重さをもっている。十枚のショートショートは、別にエピソードを増やさなくとも、描写を細かくするだけで、四、五十枚は書けるのだ』
と都築道夫さんも書いておられます。
 このなかの一話一話も、すべて四、五十枚から八十枚は満たせるものばかり。あるいは、四百枚の長編に匹敵する掘り出し物もあるかもしれません。
 しかも、一冊のなかに四十三編、どっさり入っています。
 さて、女主人公は旅行ライターの光葉葵、もちろん飛びきりの美人。
 男性は、葵に同行するカメラマンの水戸満邦。
 ふたりの間柄は、友情以上恋人未満。
 もう少し正確にいえば、「コンビを組んで長いが、関係はキス以上に進んでいない。そのキスも、葵が酔っぱらって、水戸の頬にチュッとしただけである。水戸の方は恋人気分だが、葵はまだ彼の本性を見極めている最中なのだった」(新津きよみ『京都のタンポポ』より)
 ふたりの恋の行方も気になりますが、行く先々で事件が発生します。あるときは光葉葵が、あるときは水戸満邦が、事件解決の糸口をあなたに提供するでしょう。旅行ライターですから、全国をまわっています。したがって、日本国内の名所案内にもなっています。
 几帳面に前から順序よく読まれてもよいのですが、順番にこだわらず、お好きな名所、興味ある名所から、足の向くまま、解いていかれるのもよいでしょう。あるいは目をつぶってパッとひらいたページから読まれても、キラリと光るミステリーがどこにでも並んでいます。
 私自身は、犯人側から描く倒叙物が多かったので、トリックに焦点を当てて短くまとめるこうしたものに最初はとても苦労しました。一年ほど前に誘われたときは、こんな枚数で書けるわけがないと、不安でもあり、むずかしくもありました。その後、若桜木さん、矢島さん、新津さんの初代メンバーを中心に、若干メンバーが入れ替わりながら、何冊か関わらせていただくうちに、けっこう楽しんで書けるようになりました。
 今回は、日本各地を歩くルポライターが主人公ですから、ちょっとした風景描写を入れるとき、自分自身がそこを旅したときの思い出がよみがえり、それが、また楽しいことのひとつでした。
 今度は世界名所案内にしたいね、できれば取材に出かけたいものだと、点心会のみなさんと話したりしています。
 何人かで書くためにバラエティに富んでいること、ひとつひとつに長編の重みがあること、名所案内を兼ねていること。この本は二重三重におトクになっています。
 どうぞ、お楽しみください。

(「はじめに」メンバーを代表して 牧南恭子 より)


【目 次】
 第1章 トリックを看破せよ!
 第2章 アリバイの壁をくずせ!
 第3章 密室のカラクリを解け!
 第4章 死者のメッセージを解読せよ!
 第5章 現場に隠された「謎」に挑戦!


 執筆者は若桜木虔、矢島誠、新津きよみ、牧南恭子、庄村敦子、創田仁、奈加村知子、夏野百合の8名。
 せっかく共通する二人の主人公を登場させながら、各執筆者によって性格付けがバラバラ。これではせっかくの配役が台無しである。せめて名前の呼び方くらい統一できなかったのか。もう少し事前打ち合わせをするべきであり、お粗末である(何回書いたかな、これ)。
 クイズの方であるが、既存のトリックからの引用ものや、知識さえあれば推理の必要がないもの、さらにはデータが少なすぎて解答しようがないものなど、解く方からしたら面白くないものが多い。機械トリックを用いたものは、問題の説明が不足しているため、解くことが出来ないものが多い。また解答そのものに首を捻るクイズも多い。とくに問題の中の年月日を書いていないまま、それが大事なキーワードになっているクイズを出題するというのは反則である。
 名所を舞台にと書かれているが、別にその場所でなくてもよかったんじゃないという問題があるのは許せるけれど、市名だけ出て、あとは名所すら案内していないクイズがあるというのはさすがに卑怯じゃないだろうか。
 まえがきに偽り有りとはこのことである。

 今までの著作では「推理作家点心会」名義だったのに、本書ではその名義が使われていない。とりあえず作家全員の名前を表紙に出したかったのだろうか。それとも、別の理由があったのだろうか。
 いずれにしても、本作品から「推理作家点心会」名義は用いられなくなる。


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