推理作家4人会『殺人事件!トリック・犯人あて推理』


推理作家4人会『殺人事件!トリック・犯人あて推理』
(日本文芸社 ラクダブックス)




『殺人事件!トリック・犯人あて推理』 『殺人事件!トリック・犯人あて推理』
 気鋭の推理作家集団が読者に挑戦する「謎解き推理ゲーム集」!!

 著者:推理作家4人会
 (推理作家4人会:秋月達郎、新津きよみ、矢島誠、若桜木虔)

 日本文芸社 ラクダブックス

 発売:1993年6月22日初版

 定価:780円(税込み、初版時)





 作家という職業は、とても孤独な職業です。ふつうのサラリーマン諸氏のように、仕事の合間に隣や後ろを振り返って何気ない雑談をかわすということができません。ですから、ときおり仲間同士があつまって無駄話をせずにはいられません。私たちも、そうしたことにおいては例外ではなく、たまに群れつどっては食事の卓子を囲みます。当然、そこでかわされる話などは、まったく思慮分別のない内容です、ただ、ときには昼食会などに参加した作家たちによって、妙に話がまとまり、このような本が作られることもあるのです。
 ところで、食の文化というのものは、国によってさまざまな彩りがあります。
 ですが、午後のひとときを温雅に過ごすというのは、文化を享受した国々にあっては、どうやら共通したことのようです。かたむきかけた淡いひかりにつつまれ、おきにいりの茶を淹れながら、気のおけない友人たちと雑談をかわす。その際、茶のわきで、つつましやかに置かれているのが俗にいう茶請の菓子です。
 イギリスでいうならば、アフタヌーン・ティの折に摘むクッキーのようなものとなり、日本でいうのなら、品のよい和菓子とでもなるのでしょうか。ただ、そうした軽食品のなかで、かすかに風変わりなものがあります。
 中華料理でいうところの点心です。
 点心は昼食の異称でもありますが、もとをたどれば正食の前の簡単な摘みものでした。それは餃子であったり、肉饅頭であったりしました。ですが、この点心。ときによっては立派な昼食たりえることがあります。いわゆる飲茶会席です。点心は、一つひとつを眺めれば単なる摘みものの域を出ません。ですが、彩り豊かにいくつも卓子に並べられれば、それだけで充分立派な料理になるのです。
 この本には、二十一篇の「点心」が収められています。どの点心を最初に召しあがるかは、読者諸兄のお気の向くまま。ですが、すべての「点心」を読み終えられたときには、おそらく十二分な満腹感を味わうことができるでしょう。それでは、ご賞味ください。

(「はじめに」秋月達郎より抜粋)


【目 次】
Part1 謎のトリックを見破れ!!●稲村警部の快刀乱麻 若桜木虔
Part2 迷宮からの脱出!!●捜査一課沢村正明と麻美の大活躍 矢島誠
Part3 完全犯罪を阻止せよ!!●脇田警部の事件簿 秋月達郎
Part4 怪事件への招待状●新米刑事秋野僚子の名推理 新津きよみ


 作者名こそ「推理作家4人会」となっているが、「はじめに」の文章を見れば分かるとおり、推理作家点心会結成のきっかけとなったクイズ集である。個人では一冊丸々の本を作ることができなくても、集団で集まれば本を作り、出版することができるといういい事例でもある。もっとも、今回の作者4人はいずれもミステリの分野でノベルスを中心に幅広く活躍(?)していた面々であり、それなりの顔ぶれをそろえた作品集といってもいいだろう。本書以後は、それこそ名前がろくに知られていない新鋭ばかりを集めたクイズ集になってしまうのだが。
 登場する探偵役は、他のクイズ集でもおなじみの面々である。新津きよみはわからないが、他の作者はそれぞれ自分のオリジナルキャラクターなのだろう。
 若桜木はいつもどおりの物理トリックばかりである。長編ミステリなら現場の状況などをしっかり書き込むことができるので問題はないだろうが、このようなクイズ形式で物理トリックを使われると、問題文の説明不足が目立ち、クイズを解くという快感がない。
 矢島は他作家のトリックの引用が目立つ。クイズとしても簡単なものが多く、レベルを下げるばかりではないだろうか。
 秋月は、とてもじゃないがクイズで使用されるトリックとは思えないぐらい面倒なものばかりである。
 新津がいちばん、クイズにふさわしいトリックを使用していると思われる。ちょっと頭をひねるが、通常の知識で解けるものばかりである。

 本書をきっかけに、若手作家を中心とした推理クイズ集が多数出版されることになった。推理クイズの歴史的には、名前を残す一冊となるだろう。


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