98年8月28日、俺は満期3年の実刑を終え、栃木の黒羽刑務所を出所した。逮捕されたときの罪名は「死体損壊・遺棄」。そう。俺があの『埼玉愛犬家連続殺人事件』で主犯・関根らとともに人肉をサイコロのようにカットし、人骨を粉になるまで焼き尽くした山崎だ。
俺は知っている。まだ世間には知らされていない関根の凶暴な素顔を。その恐るべきやり口を。そして、未だ解決していない数々の行方不明事件の真相を……。
たぐいまれなく凶悪殺人事件でありながら、阪神大震災・オウム事件の影で注目度の低かった『埼玉愛犬家連続殺人事件』。その共犯者が自ら綴る驚愕の書。(粗筋紹介より引用)
本書は1999年6月、山崎永幸名義で出版された『共犯者』(新潮社)を改名、改題した作品である。
『埼玉愛犬家連続殺人事件』は埼玉県熊谷市のペッショショップ「アフリカケンネル」の経営者であった関根元、そして元妻で離婚後も内縁関係を続けていた風間博子が1993年4月から8月まで、4人を連続して殺害した事件である。経営者である関根元は、犬の売買をめぐってのトラブルが耐えなかった。警察は密かに内定を続けるが、物証は全くない。ただ、同業者として関根の仕事を手伝っていた山崎永幸の供述から、1995年1月5日、関根と風間を死体遺棄の容疑で逮捕する。
1994年1月には大阪で起きた別の愛犬家連続殺人で上田宜範が逮捕されたことから、マスコミはこの事件を大々的に取り上げるも、1995年1月17日には阪神大震災が勃発。さらに3月20日には地下鉄サリン事件が起きたことから、本事件はほとんど忘れ去られていった。
本書は関根・風間両名の共犯者として、死体遺棄・損壊を手伝った山崎永幸自らが事件の全貌を綴ったものである。山崎は書く。関根はもっと殺している、と。「ボディは透明だから、わかりっこない」。山崎は共犯者として、関根の素顔を一つ一つ明かしていく。関根の周りには、数々の行方不明者がいる。ただ、ボディが透明だから、わからないだけだ。
ちなみに事件の方は、関根、風間の両者とも犯行を否定している。しかも殺人の実行者は山崎であると訴えている。ただ、一審では両者とも死刑判決。二審でもその判決結果は変わらないだろう。
犯行に携わった一人が書くノンフィクションものは、どこまでが真実で、どこまでが嘘なのかわからない。“真実を書く”といいながらも、薄れている記憶もあるだろうし、勘違いもあるだろう。それに、本当に真実かどうかわからない。もしかしたら自分に都合のよい書き方をしている部分があるかもしれない。真実というものは、常に闇の中にある。だが、表に出てこない“真実の一つ”がこうして世に出てくることは、ノンフィクションのいいところである。
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