松田美智子『整形逃亡 松山ホステス殺人事件』(幻冬舎アウトロー文庫)


発行:2000.2.25



 稀代の犯罪者・福田和子。十七歳で強盗。獄中でのレイプ被害。二度の結婚と離婚。四児の出産。美人ホステス殺害。家財道具の強奪。全国指名手配。十五年間の整形逃亡。時効寸前に逮捕。男、金、酒、売春、嫉妬、見栄、虚言癖。複雑な生い立ちから劇的な逮捕まで。人間のあらゆる負の業を抱えた罪深き女の想像を絶する半生とその実像の全て!(粗筋紹介より引用)
 1999年2月に幻冬舎から刊行された『福田和子はなぜ男を魅了するのか 松山ホステス殺人事件』の「第一部 愛人」を加筆訂正、改題。

 福田和子は1982年8月19日、元同僚であったホステスを殺害。自首を勧めた夫に手伝わせ、ホステスの部屋からほとんどの家財道具を強奪。しかも夫に隠れて男と付き合うために借りた部屋に運ばせたというのだから、大した度胸である。24日、捜査の手が伸びてきたことを知った和子は逃亡。金沢へ向かい、整形手術を受ける。その後、老舗菓子店の内妻におさまり、長男を呼び寄せたが、素性がばれ、逮捕寸前に逃亡。その後全国を放浪。時効21日前の1997年7月29日、福井で逮捕された。
 本書は福田和子の生い立ちから逮捕、起訴されるまでの半生を書いたものである。
 福田和子に関しては、新聞、雑誌、著書など様々な形で語られている。本人による著書もある。まさに語り尽くされているといってもいいだろう。事件そのものは珍しいものではない。家財道具一式まで強奪してしまうのはたしかに珍しいが、それでも普通の強盗殺人事件であろう。福田和子の凄いところは、その後の逃亡生活である。整形手術を受けながら15年間、見事なくらいうまく逃げ回っていた。一度は正体がばれ、逮捕されそうになるも寸前で逃亡するところは、彼女の逃亡生活のハイライトである。事件そのものよりも、その後の逃亡生活・逮捕によって、福田和子は犯罪史上に名を残すことになる。
 本書は女性による福田和子を語った作品である。しかし、女性ならではの視点というものはあまり感じられない。松田美智子は、他にも女性を主眼としたノンフィクションを書いているのに、女性ならではのアルファを加えているという印象がまるでない。丹念に書いているという印象しかないのだ。女性だからこそわかる女性犯罪者の心理というものを書いてほしいと思うのだが、その願いは未だ叶えられていない。

 福田和子受刑囚は和歌山刑務所に服役中の2005年2月末、刑務所内で倒れ、和歌山市内の病院に搬送されたが、3月11日、脳梗塞のため死亡。享年57。
 彼女は逃亡という形で刑を拒否し、死という形で無期懲役を拒否したのかもしれない。


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