警視庁の元中堅幹部が、なぜ連続殺人という重大犯罪に走ったのか。警察仲間の人気もので、結婚披露宴の司会を165回もする記録保持者、自称〈警視庁宴会部長〉の沢地和夫―その事件にいたる点と線をたどっていくと、意外な人間模様がうかびあがる。警察官犯罪の原点を綿密な取材で明かすルポルタージュ。(粗筋紹介より引用)
元警視庁警部、沢地和夫、45歳。強盗殺人・死体遺棄、有印私文書偽造・同行使、詐欺の罪状で起訴された。警視庁の中堅幹部にまでなった男が、退職後4年、事業に失敗して巨額の借金を背負い、その返済に困って金融商売の男女二人を次々に誘いだして殺害し、死体を埋め、金を奪った。
「西の広田、東の沢地」と揶揄される。警視庁幹部は自嘲気味に言う。沢地が逮捕される2ヶ月前、1984年9月に京都市内で派出所の警察官からピストルを奪って射殺し、さらに大阪に飛んでサラ金会社の社員も射殺、73万円を奪って逃げた京都府警の元巡査部長、広田雅晴。2006年現在、ともに死刑判決が確定し、そしてともに再審請求中である。
本書は、澤地和夫(本書では略字体の沢地が使われている)の犯罪を克明に記録したものである。本書のたった4ヶ月後に、澤地自身が『殺意の時』(彩流社)を書いている。事件の大まかな背景に大きな違いはない。ただ本書では、澤地の生い立ちから警察官になるまでが、そして警察官時代の人気者だった澤地の素顔が克明に書かれている。周りにいる友人、知人、先輩たちは、なぜ彼に金を貸したのか。その答えがこの本の中にある。
澤地自身が書いたよりも客観的に、澤地の姿が本書では描かれている。本書では、元警察官であった澤地を糾弾することはない。ただ淡々と、澤地の犯罪を語っているだけだ。そのことがかえって、澤地が犯した罪の恐ろしさが浮かび上がってくる。
自らの主観を交えず、徹底的な取材記録を元に、事実を描いていく。簡単なようで、それが一番難しい。
本書は1987年に講談社より刊行された単行本の文庫化作品である。補章として、1987年の裁判における情状証人として澤地の母が法廷に立ったときの様子が新たに記されている。そして二人の息子のその後が簡単に記されている。
作者の宍倉正広サンケイ新聞の記者として活躍。本書が発行された当時はサンケイ新聞編集委員。
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