ノンフィクションで見る戦後犯罪史
【2021~2025年】(令和3~7年)


【2021年】(令和3年)

日付 事件
4/28 概要 〈大阪21歳女性刺殺事件〉
 2021年4月28日午前6時50分ごろ、大阪府大東市のマンション2階に住む会社員の男性K(48)が真上の3階に住む大学4年生の女性(21)の部屋に、ベランダに掛けたはしごで侵入。女性の項頭部を鈍器で殴り、さらに自作した槍のような刃物で120か所以上刺して失血死させた。Kは自室に戻り灯油をまいて火を放ち、一酸化炭素中毒死した。被害者の女性とKとの間に接点はなかった。
 インターネット上では殺害された女性が騒音を立てていたという誹謗中傷が相次いだが、大阪府警の捜査の結果、騒音トラブルは一切確認されなかったことが判明。男性は軽度の総合失調症の疑いがあり、親族に上階の人に監視されているなどと話していた。Kの隣の部屋に住んでいた男性も、夜中に突然壁をどんどんと叩かれたことが何度もあり、恐怖を感じて事件直前に引っ越していた。また別のマンションでも、他人に見張られているなどの被害妄想を抱いていたことも判明した。
 2021年8月12日、Kは殺人や現住建造物等放火などの疑いで書類送検された。8月20日、大阪地検はKを不起訴処分にしたと発表した。
文献 「大阪21歳女性刺殺事件」(高木瑞穂、You Tube「日影のこえ」取材班『日影のこえ メディアが伝えない重大事件のもう一つの真実』(鉄人社,2022)所収)
備考   

【2022年】(令和4年)

日付 事件
7/8 概要 〈安倍晋三元首相銃撃事件〉
 2022年7月8日午前11時31分ごろ、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で安倍晋三元首相が自民党の参議院議員候補の選挙応援演説中、元海上自衛官で無職山上徹也(41)が安倍元首相の背後に近づき、手製銃で銃撃。山上はその場で取り押さえられ、殺人未遂の現行犯で逮捕された。安倍元首相はドクターヘリで奈良県立医大病院に運ばれたが、午後5時3分、死亡が確認された。山上は10日、殺人容疑で送検された。
 山上は取り調べに対し、母親が自宅を売却するなど、総額1億円を世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に献金して2002年に破産したため、旧統一教会を恨んでいた。そして安倍元首相が旧統一教会と近い関係にあると思い込んで、犯行に及んでいた。
 警察庁は8月25日、警護の問題点の検証結果と再発防止策をまとめた報告書を公表。警察の警護の不備が事件を招いたとして、警察庁は都道府県警による警護への関与を強める対策を決めた。警察庁の中村格長官、警備部門トップの桜沢健一警備局長は8月30日付で辞職した。奈良県警の鬼塚友章本部長や松浦克仁警備部長も辞職した。
 2023年1月10日、山上の鑑定留置が終了。1月13日、奈良地検は山上に刑事責任能力があるとして、殺人と銃刀法違反(発射、加重所持)の罪で起訴した。3月30日、武器等製造法違反、火薬類取締法違反、建造物損壊、銃刀法違反で追起訴した。選挙妨害の意図を立証するのが困難と判断し、公職選挙法違反罪での起訴を見送った。
文献 河出書房新社編集部『7・8元首相襲撃事件 何が終わり、何が始まったのか?』(河出書房新社,2022)

五野井郁夫・池田香代子『山上徹也と日本の「失われた30年」』(集英社インターナショナル,2023)

鈴木エイト『自民党の統一教会汚染2 山上徹也からの伝言』(小学館,2023)

鈴木エイト『「山上徹也」とは何者だったのか』(講談社+α新書,2023)

福田充『政治と暴力 安倍晋三銃撃事件とテロリズム』(PHP新書,2022)
備考  世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の高額献金問題に批判が高まり、2022年12月、悪質な寄付勧誘を規制する高額寄付被害救済・防止法が成立。同法の主要な規定は2023年1月5日に施行された。霊感で不安をあおるなど6類型の行為で「困惑」させることを禁止し、違反すれば刑事罰も科せるとしたほか、法人側に3項目の配慮義務も課した。
 宗教団体の信者を親に持つ「宗教2世」の被害にも注目が集まり、厚生労働省は2022年12月、親の信仰が理由であっても児童虐待に当たる場合の自治体向け対応指針を作成した。教団が信者間で行っている独自の養子縁組が養子縁組あっせん法に違反する疑いも浮上し、同省が調査を進めている。
 教団と政治家とのつながりにも注目が集まり、自民党は2022年9月、所属国会議員179人と教団との接点が判明したと公表した。国会で連日取り上げられ、政治問題に発展した。岸田文雄首相は10月、教団との関係について曖昧な答弁を繰り返した山際大志郎経済再生相を更迭。自身が代表を務める政党支部が教団の関連団体に会費を支出した問題などが浮上した秋葉賢也復興相も12月に更迭した。
 2022年8月、消費者庁が霊感商法などの悪質商法に対応する検討会の初会合を開いた。同10月に報告書をまとめ、宗教法人法に基づく教団への質問権行使や、消費者契約法に基づく「取り消し権」の適用拡大、寄付について一般的な禁止規定を定めた法制化の検討などを提言した。提言を受け、岸田文雄首相は永岡桂子文部科学相に教団への調査を指示。文化庁の専門家会議による基準策定を経て、永岡桂子文部科学相は2022年11月、世界平和統一家庭連合へ宗教法人法に基づく質問権を初めて行使。以後も数回再質問を行っている。
 手製銃が使用されたことを受けた対策の一環で、警察庁は2023年1月26日、インターネット上の有害情報について、サイト管理者などに削除要請を行う対象を3月から大幅に拡充すると発表した。銃器の製造や殺人・強盗の誘いなど7類型を対象に加える。要人テロや、各地で頻発している「闇バイト」による強盗などを防ぐ狙いがある。
 日本赤軍の元メンバーで映画監督の足立正生は、事件を題材とした映画『REVOLUTION+1』を製作。安倍元首相の国葬に合わせ、2022年9月26日に新宿で緊急上映した。
 世界平和統一家庭連合は2023年1月12日までに、418件、計十数億円の返金に応じたと公表した。
 2023年4月15日、和歌山県で選挙応援に訪れた岸田首相の街頭演説中、爆発物を投げつける事件が発生した。怪我人はなく、犯人(24)は現行犯逮捕された。

【2023年】(令和5年)

日付 事件
1/19 概要 〈「ルフィ」広域強盗事件〉
 2023年1月19日、東京都狛江市で女性(90)が殺害されているのが発見された。その後、2022年5月~2023年1月にかけ、東京、京都、山口、広島、千葉で同一のグループがSNSを通じた闇バイトでメンバーを募り、計8件の強盗を繰り返していたことが発覚。警視庁は実行犯を次々と逮捕するとともに、通信履歴からフィリピンの入館施設に収容されていた特殊詐欺グループの幹部らが「ルフィ」「ミツハシ」「キム」などと名乗りながらテレグラムを通じて指示していたことを突き止めた。また彼らによる特殊詐欺被害は全国で計60億円以上にのぼり、約70人が検挙された。
 2月、4人はフィリピンから強制送還され、特殊詐欺の窃盗容疑で逮捕された。その後、テレグラムのやり取りの一部を復元するなどして指示系統を突き止め、6月から12月にかけ、強盗事件全8件について4人を順次逮捕、起訴した。実行犯の一部は裁判が始まり、有期懲役が確定している者もいる。しかし、事件の全容はまだすべてが明らかになっているわけではなく、捜査は続いている。
文献 週刊SPA!編集部 特殊詐欺取材班『「ルフィ」の子どもたち』(扶桑社新書,2024)
備考  


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