判決、死刑──。最愛の妻子が殺害されたあの日から、九年。司法への義憤を抱え、時に死すら考えながら、長き日々を苦闘し続けた、一人の青年の軌跡。光市母子殺害事件、圧倒的な事実と秘話で綴る感動の記録。(帯より引用)
【目 次】
プロローグ
第1章 驚愕の光景
第2章 死に化粧
第3章 難病と授かった命
第4章 逮捕された少年
第5章 渡された一冊の本
第6章 破り捨てられた辞表
第7章 生きるための闘い
第8章 正義を捨てた裁判官
第9章 凄まじい検事の執念
第10章 明るみに出たFの本音
第11章 「死刑」との格闘
第12章 敗北からの道
第13章 現れた新しい敵
第14章 熾烈な攻防
第15章 弁護団の致命的ミス
第16章 辿り着いた法廷
エピローグ
あとがき
《光市母子殺害事件》経過
光市母子殺害事件について知らない人はほとんどいないだろう。簡単に書くと、1999年4 月14日に山口県光市で、当時18歳1か月の少年が主婦(当時23歳)を殺害後姦淫、さらに泣き叫ぶ娘(生後11か月)の乳児も首を絞めて殺害した事件である。求刑死刑に対し一・二審では無期懲役判決だったが、最高裁で差し戻し。その後21人に及ぶ弁護団が結成され、一部では「荒唐無稽」とまで言われた弁護活動を繰り広げたものの、差し戻し審で死刑判決。その後、最高裁で死刑判決が確定した。2013年2月現在、死刑囚となった元少年は再審請求を提出している。
本書は、事件の被害者である主婦の夫、本村洋が哀しみと絶望の中で司法へ戦いを繰り広げた9年間を綴ったドキュメントである。
本事件はその残酷さや犯人の年齢もさることながら、被害者遺族である本村が様々なアピールをつづけ、犯罪被害者の権利を訴えつづけた点も特筆すべき事項である。同時に本村が死刑判決を求めて訴え続けたことも重要である。
はっきり言ってしまえば、当時の量刑の流れだったら死刑求刑すらなかったかも知れない。ましてや死刑判決が出ることなど、まずなかっただろう。
本書は本村の活動の記録であるとともに、本村の変換の記録でもある。「司法に絶望しました。控訴、上告は望みません。早く被告を社会に出して、私の手の届くところに置いて欲しい。私がこの手で殺します」と記者会見で語った男が、裁判における本人の目の前で「天網恢々、疎にして漏らさず」と静かに語るようになった。これを本村の成長と語るのは簡単だろうが、実際はちょっと違うと思う。とはいえ、他に置き換える適当な言葉も思いつかない。
もう一つこの本について書くべき事は、本村を支え続ける人が多数いたということだろう。今まで犯罪被害者は泣き寝入りすることが多かった。犯罪によって傷つけられ、マスコミによって蹂躙され、そのまま周囲から忘れ去られてしまう。特にこの事件では被告が名前を出すことのできない少年であったこともあり、世間から隠されるという隠蔽度は更に増していたはずだった。しかしこの闘いは、孤独の闘いではなかった。本村の必死の訴えを、支え続ける人がいた。耳を傾けてくれる人がいた。だからこそ本村の訴えが政府まで動かし、「犯罪被害者保護法」「改正刑事訴訟法」「改正検察審査会」が国会を通過したのだ。被害者に理不尽な裁判所の対応に、風穴を開けることができたのだ。
この本は当然のことながら、被害者遺族である本村の視点に沿った描き方となっている。Fを支援する人々や、死刑に反対する人々から見て、本書をどう思うのだろう。Fの弁護人に対する書き方への反論はあるかも知れない。しかし、被害者遺族の思いについて、真っ向から立ち向かうことができる人物がいるだろうか。
最後の方で殺害された主婦の母親は「この世の中から"死刑"がなくなったら、どのくらい怖いかわかりません。人を殺した人間は、死刑になるしかありません。社会にとって死刑はどうしても必要なんです」と述べたことが書かれている。また本村も「死刑がなければ、これほど皆さんがこの裁判に注目してくれたでしょうか。死刑があるからこそ、Fは罪と向き合うことができるのです」と語っている。
そしてFは、作者の門田との面会でこう語っている。「僕としては何度でも償えるだけ償いたい。僕は殺めた命に対して、命をもって償うのはあたりまえのことだと思っています。僕は死ぬ前に、ご迷惑をおかけした人や、お世話になってきた人に、きちんと恩返しをして死刑になりたいと思っています」。
死刑という刑がなければ、Fは自分の行為について顧みることはなかっただろう。そしてこの裁判がここまで注目されることもなかっただろう。
死刑について語りたいことがある方、少年犯罪について語りたいことがある方、犯罪被害者遺族について語りたいことがある方は、ぜひとも一度手に取ってみることをお勧めする。
作者の門田髀ォは1958年、高知宇検生まれ。中央大学卒業後、出版社に勤務。雑誌メディアを中心に、政治、経済、司法、事件、歴史、スポーツなどの幅広いジャンルで執筆し、著書に『裁判官が日本を滅ぼす』(新潮社)、『甲子園への遺言』(講談社)などがある。本書は、出版社を退職し、独立後の第1作となる。
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