横川和夫、保坂渉『かげろうの家―女子高生監禁殺人事件』(共同通信社)


発行:1990.11.10




【目 次】
第1章 都会のなかの聖域
第2章 父親役に疲れて
第3章 孤立無援のなかで
第4章 夫婦葛藤のはざまで
第5章 暴力の果てに
第6章 ほんとうの豊かさとは


 本書は、1988年に発生した女子高生コンクリート詰め殺人事件のルポルタージュである。少年4人が帰宅途中の女子高生を監禁。41日間に亘って凌辱を繰り返したあげく、ショック死した少女をドラム缶にコンクリート詰めにして登記したというショッキングな事件である。
 第1章は裁判を通した事件の概略を、第2章から第5章までは犯人4人それぞれについて、過去から犯罪までを、裁判や家族、本人の証言を通しつつ描いている。第6章は、8人の専門家へのインタビューが載せられている。
 本書では、事件の詳細な概要は語られておらず、犯人たちがなぜ犯行に至ったのかについて、様々な証言を基に犯人たちの姿を描いている。四人たちの家庭はいずれも平均的な家庭であったが、そんな四人の少年がなぜそんな衝撃的な事件を引き起こしたのか。作者は親と子の断絶、教師に切り捨てられる教育、人間関係を築けない孤立、愛に飢える姿などを浮き彫りにしている。それは社会の歪みに対する訴えともなっている。
 本書では、被害者である女子高生については何も描かれていない。両親たちから取材が応じられなかったこともあるし、犯人側からの証言が事実かどうか確認する術がなかったというのもある。それは正しい判断だっただろう。もし女子高生について触れることがあったなら、犯人たちの背景を冷静に考えることができなくなっていたに違いない。
 ただ、だからといって犯人たちに同情する気にはなれない。行った行為は極悪非道と言って良い物だからだ。ただ、その点について、ここで触れる必要は無いだろう。本書はそのような極悪非道な犯人の過去を明らかにすることで、現在の日本社会の歪みをあぶりだそうとしたものだからである。

 なお犯人たちは、1991年7月、東京高裁でAに懲役20年、Bに懲役5年〜10年、Cに懲役5年〜9年、Dに懲役5年〜7年の刑を言い渡され、確定している。
 その後、改姓したBは2004年5月に逮捕監禁致傷で逮捕され、2005年3月1日に東京地裁で懲役4年の実刑判決を受けている。主犯Aは『週刊文春』によると、2013年1月に振り込め詐欺の「受け子」として逮捕されたが、完全黙秘したため、1月31日に不起訴で釈放されたとある。
 彼らはいったい刑務所で何を学んできたのだろうか。犯行内容と比較して、そんな軽い刑でよかったのだろうか。


 横川和夫は1937年、小樽市生まれ。1960年、共同通信入社。1971年に文部省を担当して学校教育のあり方に疑問を感じ、教育問題と、学校や家庭から疎外された少年少女の取材を続け、85年、論説県編集委員に。
 保坂渉は1954年、甲府市生まれ。79年、共同通信入社。宇都宮、北九州、横浜支局を経て86年、東京本社社会部へ。
(いずれも執筆当時のプロフィール)


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