週刊SPA!編集部 特殊詐欺取材班 『「ルフィ」の子供たち』(扶桑社BOOKS新書)
発行:2024.3.1
被害総額60億円。大規模特殊詐欺、強盗、殺人。通称「ルフィ」事件にかかわった実行犯12人の素顔。あまりに短絡的で、心も懐も貧しくなった~現代日本の写し鏡「広域特殊詐欺事件」実行犯たちの知られざる素顔に迫る! フィリピンに潜伏し、指示をしていた今村磨人をはじめとする4人の幹部が強制送還され逮捕されたが、未だ被害は減っておらず、いまだに日本を震撼させている広域特殊詐欺事件。2023年1月19日、狛江で強盗殺人事件が発生した。「ルフィ」を名乗る今村たちから指示を受けた、実行犯による犯行であった。実行犯、カネの受け子、アポ電などのかけ子など、犯人逮捕で次第に明るみになっていった構造。実行犯たちはいったいどうそうした犯罪に関わるようになったのか? そこに透けてくるのは、犯行の動機はあまりにも短絡的で、周囲の環境の悪さだった。逮捕されたのは20代を中心とする若者であった。闇バイト、貧困、若者たちが直面していたものとは? ルフィ周辺からどう指示され、どう仲間を集め、犯行に至り、逮捕されたのか? 実行犯たちの親族、近隣を訪ね歩き、その素顔に迫ったルポルタージュ。(作品紹介より引用)
2024年3月、刊行。
【もくじ】※容疑者の年齢は逮捕当時
まえがき 広域連続強盗事件とはなにか
資料 ルフィらが関与・起訴された事件
第1章 逃げてばかりの人生――加藤臣吾(24歳・職業不詳)
第2章 連続強盗の代償──永田陸斗(21歳・土木作業員)
第3章 自衛官の父との確執――U(23歳・自称タレント)
第4章 住所不定、陸上自衛官――N(23歳・自衛官)
第5章 4人の子と3人の“妻”――F(34歳・柔道整復師)
第6章 ルフィを壊滅させた女――S(33歳・飲食店勤務) Y(27歳・風俗店勤務)
第7章 “ナミ”の帰還――T(28歳・飲食店勤務) K(25歳・無職)
第8章 ルフィ後の強盗事件――U(20歳・とび職) E(20歳・専門学校生) T(22歳・とび職)
第9章 ルフィの正体――今村磨人(38歳・職業不詳)
あとがき
(前略)
警察庁の発表などによると、彼ら(注:今村磨人、渡邉優樹、藤田聖也、小島智信の4人をトップとした詐欺グループ)がだまし取ったカネは、2018年11月から2020年6月までで60億円あまりにのぼった。ただ、この間、フィリピン当局によって、詐欺の拠点が摘発を受けると、新型コロナウイルスの世界的な流行も加わり、日本からかけ子を呼び寄せることが難しくなった。さらに、日本国内で特殊詐欺対策や啓発が進んだことで、だまし取る金額が目減りしていくと、特殊詐欺よりも確実にカネを奪うことができる手段として、強盗が選択されるようになったとみられる。
ルフィたちによる強盗事件がセンセーショナルに受け止められたのは、空間的にも時間的にもそれまでの常識を超えた、こうした犯行の実態にあったことは間違いない。 一方、この犯行の〝主役〟は4人のルフィだけではない。2023年12月時点で、日本の警察当局による広域連続強盗事件の捜査は一応の区切りを迎え、8つの事件が立件されている。そして、ルフィたちの指示に従った実行役として44人の男女が逮捕された。2023年12月6日付朝日新聞によると、8件の被害総額は約1億7300万円に及ぶ一方、報酬を受けとることができた実行役は半数以下の19人にとどまり、彼らが手にした金額も、被害総額の1割あまり、約2000万円でしかなかったという。
犯罪に加担した彼らの末路に同情することはできない。彼らの多くは、SNSで「日当100万円」などという闇バイト募集の投稿に惹かれてルフィたちに連絡を取っている。カネに目がくらんで足を踏み入れた先で、金品を奪うだけでなく、高齢者に暴力を振るい、その果てに殺害に至ったケースもある。
だが、ルフィたちによって犯行に駆り立てられた挙げ句、ちり紙のように使い捨てられた人生があったことも事実だ。
本書は、44人の実行役のうちの9人と、類似犯3人、そしてひとりの指示役の人生に焦点をあてたルポルタージュである。記者たちは、彼らの肉親や友人、職場の仲間らを訪ね歩き、その証言に耳を傾けた。彼らの物語を憐れむのか、自業自得だと得心するのか、被害者のことを思って怒りの感情をあらわにするのか。本書が明らかにする事実をどう受け止めるかについては、この本を手にとってくれた読者の判断に委ねたい。
ただ、この事件の取材を通して、ひとつだけ記者たちが期待したことがある。それは、膨大な広がりをもつこの事件に関わった男たち、女たちを追うことで、この時代のイメージが浮かびがらないか――ということである。脚光を浴びることになった重大事件、凶悪事件には、否応なく、その時代がまとう空気や匂いが封じ込められる。ルフィと、彼らの指示によって操られたその“子どもたち”が引き起こした広域連続強盗事件もまた、そうした事件の系列に連なるに違いないはずだからである。
(「前書き」より引用)
世間を震撼させた通称「ルフィ」事件で、詐欺や広域連続強盗事件で捕まった者たちを追ったルポルタージュ。執筆当時(2024年1月)までの内容となっているため、多くの被告についてはまだ裁判の結果が出ていない。そのため、第5章のFのように、ルフィ事件では処分保留となっている者まで書かれている結果となっている。
事件の内容については確定判決がほぼ出ていない時点だったため、先のFのように、実際とはずれがあることは否定できない。ただし、事件を起こすまでの過去については、調べることができる。もちろん限界はあるだろうし、その後に明るみになった事実もあるだろう。あくまでこの時点で明るみになった内容、という前提を考慮する必要がある。
そういう“途中経過”を本にするのは怖い部分もあるだろうが、出版社にとっては世間が忘れないうちに本を出そう、というところもあると思う。まさに「鉄は熱いうちに打て」なんだろう。
事件に手を出して使い捨てにされた実行役の過去を見ると、人というのはより手っ取り早い方に流されるのだろうと思ってしまう。それはいつの時代も変わらない。犯罪に手を染める人だけでなく、その周りにいる人も倫理観がおかしくなっているのかもしれない。ただ、未来への計算ができるかできないかの違いだけで。
事件全体を詳しく知るには物足りない。しかし、詳しく知るための参考にはなるかもしれない。今後、ルフィ事件のより詳細な真相を記すときには、参考文献には載るぐらいの一冊であることは間違いない。
なお本では目次も実名となっているが、すでに判決が確定していることもあり、無期懲役判決を受けた二人と指示役を除き、イニシャルに変えている。まあ、検索すればすぐに実名は判明するのだが。
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