死刑確定囚(2024年)



※2024年に確定した、もしくは最高裁判決があった死刑確定囚を載せている。
※一審、控訴審、上告審の日付は、いずれも判決日である。
※事実誤認等がある場合、ご指摘していただけると幸いである。
※事件概要では、死刑確定囚を「被告」表記、その他の人名は出さないことにした(一部共犯を除く)。
※事件当時年齢は、一部推定である。
※没年齢は、新聞に掲載されたものから引用している。

氏 名
遠藤裕喜
事件当時年齢
 19歳
犯行日時
 2021年10月12日
罪 状
 住居侵入、殺人、殺人未遂、現住建造物等放火
事件名
 甲府夫婦殺害放火事件
事件概要
 甲府市の当時19歳だった遠藤裕喜被告は、通っている定時制高校の後輩女性に一方的な好意を寄せていたが、交際を断られLINEをブロックされたことから、家族を皆殺しにして後輩女性を拉致しようと考えた。2021年10月12日午前3時半ごろ、甲府市の10歳代の後輩女性の家に1階の窓の施錠を外して侵入し、1階で寝ていた後輩女性の会社員の男性(当時55)とその妻(当時50)の胸を鉈や果物ナイフで何度も刺して失血死させた。さらに言い争う声を聞きつけ2階から降りてきた中学生の次女の頭をなたで叩いて約1週間の怪我を負わせ、台所付近にライター用オイルをまいて火をつけて全焼させた。近くの住宅など計4軒の窓や壁などにも延焼した。2階にいた後輩女性(夫婦の長女)は次女とともにベランダから屋外に逃げ出して無事だった。
 遠藤被告は2020年秋ごろ、高校の生徒会で長女と出会った。2021年9月ごろ、友人から長女が遠藤被告を尊敬していると聞かされ、好意を抱くようになった。9月30日、長女に交際を申し込み、返事は保留されたがLINEのアカウントを交換した。しかし10月1日、長女は交際を断った。それでも遠藤被告はデートに誘い、プレゼントを贈るなど積極的に迫るも、8日に長女から改めて交際を断られ、LINEをブロックされた。9日に長女を脅すために果物ナイフ2本と手斧などを購入。10日には長女を拉致するために場所の下見を行い、逃走先を探した。さらに食料品や日用品も購入。11日、長女を高校で待ち伏せ。午後7時過ぎ、長女が別の女性と手をつなぎハグする様子を目撃し、別の男性と親しくしていると激昂。そのまま長女の後を追い、自宅を突き止めた。12日午前0時過ぎ、ライターやライターのオイル缶などを購入。そのまま徒歩で長女の家に向かい、犯行に及んだ。
 遠藤被告は事件後、車で逃走。山梨県身延町の空き家で身を隠し、被害者や自分の両親に謝罪の手紙を書いた。高校の教員が長女から遠藤被告について相談されたと話したことなどから、容疑者として浮上。遠藤被告は12日午後7時ごろ、現場から約30km離れた身延町内の駐在所に出頭した。
 10月13日、県警は次女への傷害容疑で逮捕。11月2日、現住建造物等放火容疑で再逮捕。22日、夫婦への殺人容疑で再逮捕。
 12月8日、甲府地検が刑事責任能力を調べる鑑定留置を開始。2022年3月7日、鑑定留置終了を発表。11日、地検は遠藤被告に責任能力があるとして、家裁に送致。4月4日、家裁が刑事処分相当と判断し、遠藤被告を検察官送致(逆送)。8日、地検が殺人罪などで起訴し、遠藤被告の氏名を公表。特定少年の氏名公表の、全国初のケースとなった。
一 審
 2024年1月18日 甲府地裁 三上潤裁判長 死刑判決
控訴審
2月1日に弁護側が控訴するも、同日本人控訴取下げ。検察側控訴せず、2月2日に確定。
拘置先
 東京拘置所
裁判焦点
 裁判員裁判。
 検察側は「生活の平穏が著しく害される恐れがある」として、刑事訴訟法に基づいて被害者を特定する情報の秘匿を申し出て地裁が認めた。公判では検察側、弁護側双方とも被害者の実名を伏せた。
 2023年10月25日の初公判における罪状認否で、遠藤裕喜被告は何も語らなかった。
 検察側は冒頭陳述で、被告が夫婦の長女に交際を断られたことなどを逆恨みして、長女の目前で家族を皆殺しにしようと考えたと指摘。次女の頭を狙っていることなどから殺意があったとした上で、「犯行動機に不合理さはなく、計画して犯行に及び、状況に応じて一貫して行動していた」「警察から逃げられないと考えて出頭するなど不合理な点はなかった」「精神鑑定の結果、精神障害は認められない」として、責任能力があったと主張した。
 弁護側は夫婦の殺害、放火行為を認めた。ただし次女への襲撃については「不意に現れたための反射的な1回きりの攻撃で、頭を狙ったわけでもない」などと殺意を否定し、殺人未遂ではなく傷害罪にとどまると主張した。そして父親に体罰を受けるなど複雑な環境で育ち、学校でもいじめにあっていたと説明。複雑な家庭環境で精神的に不安定だった中、夫婦の長女からSNSをブロックされたことがきっかけとなって人生に絶望し、「現実から逃れる手段として事件を起こした。事件当時は心神耗弱状態にあった」と訴えた。
 遠藤被告は検察側の冒頭陳述では、目を閉じて下を向いたまま、約30分にわたり両手で耳をふさぎ続けた。弁護士が自身の生育歴などを説明した際は、何度もはなをかみ、ティッシュペーパーで目元をぬぐうしぐさも見せた。
 26日の第2回公判で、警察官が当時の捜査状況を証言したほか、検察側が夫婦が強い力で襲われたなどとする医師の供述調書を読み上げた。
 27日の第3回公判で、検察側から2021年11、12月に県内の警察署で遠藤被告を立ち会わせて行った犯行再現の様子が読み上げられた。
 30日の第4回公判で、近くに住む男性が証人として出廷し、当時の様子を証言した。
 31日の第5回公判で、次女の供述調書が読みあげられた。また次女を診察した医師の証人尋問も行われ、当時の状況やけがの様子が示された。
 11月1日の第6回公判で、検察側は放火の状況をまとめた捜査報告書を朗読した。
 2日の第7回公判で、長女の供述調書が読みあげられた。
 8日の第8回公判で、法医学の専門医が出廷。遠藤被告は次女に鉈を強い力で振りかざしており、当たり所によっては1回の殴打で死亡する危険性があったと指摘した。
 9日の第9回公判で、検察側は遠藤被告と長女のやり取りなど、犯行までの経緯を明らかにした。
 10日の第10回公判で、検察側は遠藤被告が出頭時に持っていた、長女や警察、家族らに宛てた計6通の手紙を読みあげた。長女宛には、「全て僕の逆恨みです」などと記し、謝罪する内容だった。初めて弁護側の証拠調べが行われ、被告の生育環境や学校での様子が明かされた。
 13日の第11回公判で、初の被告人質問が行われたが、弁護側は「今回の事件のことを話すことはできるか」「事件に関係なく何か話すことはできるか」などと6回質問したが同被告はうつむいて一切答えず、手続きは5分ほどで終了し、そのまま閉廷した。
 14日の第12回公判で、再び被告人質問が行われた。弁護人からの15回の質問にうつむいたまま答えず、その理由を尋ねられると「社会に戻るつもりがないから」と初めて言葉を発した。その後の検察官からの被告人質問にも遠藤被告は答えなかったが、今の発言の詳細を問われるも、遠藤被告は「答えたくありません」とだけ告げた。さらに検察官から「長女や次女に二度とかかわらないと約束できますか」との質問には「かかわることはありません」と答えた。三上裁判長から「裁判官や裁判員からも聞きたいことがあるが、答えることはできますか」と聞かれると「答えたくありません」と述べ、4日間を予定していた被告人質問は2日で終了した。
 15日の第13回公判で、検察側は遠藤被告の事件後、2021年11~12月の供述調書を読みあげた。絶望した遠藤被告が、長女を襲おうとし、その後、長女だけでなく家族全員の殺害を計画する経緯を説明した。長女宅で人として本当にこんなことをしていいか10分ほど葛藤したこと、両親を殺害したあと長女と次女を殺害するため2階へ行ったが、2人はいなかったと話していたことも明らかにした。
 16日の第14回公判で、検察側は遠藤被告の鑑定留置後、2022年3月の供述調書を読みあげた。被害者に「本当に申し訳ない」としていた心境については、「正直そこまでの気持ちは持っていない。罪を軽くするためにおおげさに話した」と語った。また「罪を軽くするためにうそをついていた」とし、「罪を軽くする気がなくなったので本当のことを話します」と述べた。計画や動機では、長女の前で家族を殺害し、連れ去って拷問や乱暴をするつもりだったと説明。凶器は、父親への最初の攻撃でハンマーを使ったと述べた。次女を襲う時は「顔や目が見えている中で、頭部をたたきつけた」と述べ、放火の際は早く燃え広がるよう毛布で炎をあおったとした。
 20日の第15回公判で、遠藤被告を精神鑑定した医師と、弁護側の求めで鑑定した臨床心理士が証人出廷。
 医師は、遠藤被告は攻撃的な非行を繰り返す「行為障害」、養育者との愛着が形成されないことで対人関係に問題が生じる「反応性愛着障害」、持続的な虐待などが原因で発症する「複雑性PTSD」があったとし、「犯行当時に精神的な病気はないが、精神障害はあった」と説明。幼少期の指導要録などを元に、「発達障害は否定する」と述べた。遠藤被告が長女の行動を観察したり、尾行したりして計画を立て、犯行の準備をしていたことなどから、自身の行為をコントロールできているとし、「精神障害が被告の判断や行動に影響を与えたとはいえない」と結論づけた。
 臨床心理士は、遠藤被告は、希望していない就職先を母親から勝手に決められ、少しでも良い就職先に行きたいと愚直に努力してきたことが報われず、絶望を感じるなど「限界状態だった」と指摘。長女との交際が唯一の望みだったが断られ、「怒りを一気に晴らそうとして、危害を加えようと考えた」などと犯行動機を分析した。更生可能性についても言及。被告自身が被害者意識を強める中で夫婦ら被害者に対して反省の弁がなく、事件に向き合えていないとし、「自身の重大な行為に向き合わせるためには、過去に傷ついた経験を整理していくことが大切になり、専門家の根気強い関わりが求められる」などと述べた。
 21日の第16回公判でも、遠藤被告を精神鑑定した医師と、弁護側の求めで鑑定した臨床心理士が証人出廷。
 医師は、遠藤被告は幼い頃から動物虐待を繰り返す「行為障害」があり、「(事件を起こす)アクションをしやすくなっていた」と説明した。ただ、善悪を判断する力はあり、行動をコントロールする力は低下していたが、「健康な人でも起こる程度」とした。
 臨床心理士は遠藤被告との面接で、重大な事件を起こした認識はあるものの、被害者の思いを想像する力が欠けていると分析。事件を起こした原因に、厳しい家庭環境から逃れたいという考えがあったとし、「それを抜きに事件は理解できない」と指摘した。
 被告がこれまでの公判で黙秘してきた理由を「社会に戻るつもりがない」と答えたことについて裁判官から質問があり、検察側の証人の医師は「元々いた場所の居心地が良くなく、どういう所だったのか理解したのではないか。戻るに値せず、とらわれの身だが安心して過ごせるという気持ちにつながっているのではないか」と分析した。
 24日の第17回公判で、検察側は次女、夫の姉の調書を提出。次女は「犯人が外に出てくると思うとそれだけで怖い。どうか姉と私が安心して生活できるようにしてほしい」と訴えた。その上で、「無期懲役で外に出てくる可能性があるのなら、死刑を望む」と厳罰を求めた。事件後に長女と次女を引き取った夫の姉も極刑を求めた。
 長女と次女の主治医の調書も提出された。長女と次女はPTSDを発症。長女はフラッシュバックが毎日のように続き、泣いてしまうと何も手に付かなくなる状況で、次女は悪夢にうなされるなどの症状があり、学校に登校できない状態であると語られた。
 27日の第18回公判で、検察側は長女の調書を提出。長女は「ブロックせずにいたら事件は起きなかったのでしょうか」と自分を責めていることを明らかにした。そして「父と母を返して。妹を元に戻して」。遠藤被告を到底許すことができないと訴えた。「無期懲役でも外に出てくる可能性がある。私を殺しに来ると思うと怖い。一生外に出てきてほしくないし、確かな保証がほしい。安心して生活できる未来をください」と厳罰を求めた。
 28日の第19回公判で、弁護側の求めによる被告人質問が行われた。弁護側が動機について聞くと「いろいろなことに疲れていた。長女とのLINEが後押しになって、逃げだそうと決めた」と答えた。母親に「家を出るなと束縛され、暴言を吐かれることが嫌だった」ほか、不本意な就職先を一方的に決められ、家と将来から逃げたかったとした。また、「長女を拷問することに興味があった」とし、検察側からの質問に「長女の目の前で家族を拷問し、殺した時の表情を見てみたいという興味があった」と説明。放火したのは「証拠隠滅もあるが、警察と戦闘するまでの時間稼ぎだった」と述べた。事件前、自分の母親を殺害しようと考えていたことも明かした。長女やその家族についてどんな感情を持っているのか尋ねられると、「こっちが悪い、向こう(被害者側)は悪くない」と述べた。なぜ悪いと思うのかという質問には「法律で禁止されているからです」と答えた。遺族の苦しみは「正直、よく分からない」と答えた。
 裁判員からの質問で、謝罪の言葉はない理由について「自分の判決にとって、そっちの方が心証が悪くなるからです」と答えた。発言するようになった理由については、鑑定を行った専門家の話を聞いて「少し違うと思い、そこだけは伝えようと思った」と説明した。また、通学先の高校で長女を待ち伏せしていたところ、一緒にいた人物を交際相手だと思い込んで怒りを覚えたと鑑定医は説明したが、「そこまでの怒りはないです」と話した。
 別の裁判員が、出頭時に持っていた手紙に「死んで償いたい」と書かれていたことに触れ、今もその気持ちがあるかを問うと、「よくわからない」と答えた。また別の裁判員が、罪の重さや謝罪の気持ちを持って生きていくのかを尋ねると「考えてないです」。裁判長からその理由を尋ねられると「生きているのがもう嫌だからです」と涙を流した。裁判長からは「仮に事件直前の自分に声をかけるなら何と言うか」と質問され、「死んでおいた方がいい。(裁判で)いろいろ昔を思い出すのがつらいから」と話した。
 12月4日の第20回公判で、長女が別室から音声と映像を送る「ビデオリンク方式」で意見陳述。長女は「巻き込んでしまった家族にどう償えばいいのか、どう責任を取ったらいいかをずっと考えている」と自分を責め続けていると説明した。なぜ家族が襲われたか、裁判で遠藤被告が話す動機を聞いても少しも納得できなかったといい、「もう一度、犯人に問いたいです」と話し、「何で家族なの。(被告の)生い立ちを聞きましたが、何も悪くない父や母、妹と関係があるのでしょうか」と話すとともに、法廷で謝罪しない遠藤被告を「自分は悪くないと考えているとしか思えない。目を背けて逃げている」と非難した。そして「元の笑顔あふれる妹に戻ってほしい。望みはただそれだけです」と述べた。量刑に関しては、「怖いから、言いません。裁判官、裁判員の皆様、妹の心と体を守ってください」と結んだ。
 父親の姉は書面で意見陳述し、代理人弁護士が代読した。法廷での遠藤被告の姿から更生の意欲は全くなく、可能性もないと感じたといい、「亡くなった弟夫婦があまりにかわいそうでならない」とつづった。「2人の無念さを思うと極刑を望む。天国にいる2人も娘たちを守るために極刑を望んでいるはずだ」と訴えた。
 11日の論告求刑公判で、検察側は精神鑑定の結果から、「精神障害が犯行に影響を与えたとはいえない」と主張。道具の用意や逃走先の確保、証拠隠滅で放火を考えるなど周到な計画性が認められるほか、状況の変化に対応しながら一貫して目的に沿った行動をしていたとして、「完全責任能力があったことは明白だ」と指摘した。被告がなたで夫婦の頭などを繰り返したたきつけた犯行は「異常な執拗性が際立っている」と指摘。夫婦が動かなくなった後も攻撃を続けていたとし、「ひとかけらの慈悲もなく、非人間的で、甚だしく生命を軽視した残虐な行為」と非難した。犯行動機については「長女への恋愛感情が実らず、怒りを覚えた。筋違いで理不尽な逆恨みだ」と指摘して批判。被告が長女を傷つけるため、長女の家族全員を殺害することを決意したと主張した。遠藤被告の公判での態度について「2年以上が経過しても反省の態度は見られず、現在まで罪に向き合う姿勢や謝罪の気持ちは皆無だ」と批判。強く極刑を求める被害者遺族の心情を「当然のことだ」と支持した。「事実から目を背け、立ち直る機会を放棄し、改善更生の余地は全くない」と主張した。
 弁護側は最終弁論で、次女への殺意を否定し、傷害罪であると主張。被告が家族からの心理的虐待や学校でのいじめなど不安定な環境で育った影響を受け、「極端な性格や、自分の感情をうまく表現できない傾向を持っていた」と説明し、被告は心神耗弱状態であったと訴えた。犯行動機について「長女から交際を断られ、現実から抜け出せないと考え、感情が爆発してしまった」と主張。背景に不遇な成育環境があるとして、「今回の事件の動機の全てを被告のせいであると断言できるだろうか」と訴えた。また事件当時19歳であり、特定少年でも少年と変わらず、少年としての特質を見失わないでほしいと述べた。極刑を望む遺族らの心情については「公判で明確な謝罪もなく、そのような思いを致すことは当然」としつつも、被告の傾向から「反省しないのではなく、反省することができない」と強調。まずは被告に事件と向き合わせることが大事だと訴え、「残された人生を被害者への謝罪や贖罪にあてるべきで、責任の重さを分からせることが社会の責務。謝罪させないまま死刑にすべきでない」と極刑回避を求めた。
 遠藤被告は最終意見陳述で「控訴しません。それだけです」とだけ述べた。
 判決で三上裁判長は、動機について、夫婦の長女に交際を断られたことをきっかけに、犯行に及んだと認定した。争点となった次女への襲撃について、凶器のなたは、高い殺傷能力があり、一度の攻撃でも命を奪う危険性が高く、「被告も認識していた」として殺人未遂を認めた。
 次に責任能力について捜査段階に精神鑑定をした医師の証言などをふまえ、遠藤被告は愛着障害などの精神障害があったが、判断や行動に影響があったとはいえず、行動をコントロールできていたと指摘。長女に対する拷問や自らの逃亡に向けて準備し、状況に応じながら事件をやり遂げているとして、理非善悪を弁識し、それに従って行動する能力を著しく減退させる精神障害はなかったといえ、完全責任能力があったと認めた。
 量刑について、遠藤被告が不安定な家庭環境で育ったことや、養父や実母から虐待とも言える対応を受けていたことを挙げ、「複雑で厳しい境遇だったことが動機に影響を与えたと考えられる」とした一方、事件当時に被告が自らの判断で行動していたと指摘。「成育環境が動機に影響を与えているとしても限定的だ」とした。そして「強固な殺意に基づく執拗かつ残虐な犯行。ガスボンベ9本を置くなどした放火も危険性が高い。動機は極めて自己中心的で理不尽というほかない」と非難した。また19歳という年齢は「自動車の運転免許取得が許されるなど、一定程度社会の一員として行動することが期待されている年齢」と説明。被告自身もアルバイトをして大人と関わるなどの社会経験を積み、就職を控えるといった生活をしていたと指摘。死刑を回避すべき決定的事情とは言えないとした。さらに、事件から2年余り経っても「社会に戻るつもりがない」、反省や謝罪は「わからない」と述べているとし、更生可能性は低いと指摘。「2人の命が奪われ、きわめて重大な結果。残された遺族の被害感情の峻烈さ、社会的影響の大きさなどを考えると、刑事責任は極めて重大だ。死刑を選択することが真にやむを得ないと判断した」と述べた。
 最後に裁判長から「考えることを諦めないでください」と語り掛けられると、遠藤被告は手で目元を拭うしぐさも見せた。

 弁護人が控訴期限の2月1日に控訴した。しかし同日、遠藤被告は控訴を取り下げたため、2月2日に死刑が確定した。
備 考
 2022年4月施行の改正少年法は、犯罪行為をした18、19歳を「特定少年」と位置づけ、家裁から検察官送致(逆送)となる対象事件を拡大したり、起訴後の実名報道を可能にしたりした。事件当時19歳だった遠藤裕喜被告は、「特定少年」として全国で初めて、起訴時に氏名が公表された。
 「特定少年」として初めての死刑判決ならびに初めての死刑確定。21世紀生まれで初めての死刑確定。
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