高裁係属中の死刑事件


氏 名
岩倉知広
事件当時年齢
 38歳
犯行日時
 2018年3月31日~4月6日
罪 状
 殺人、死体遺棄
事件名
 日置市男女5人殺害事件
事件概要
 鹿児島県日置市の無職、岩倉知広(ともひろ)被告は2018年3月31日夕方、テレビを見るために近くに住む祖母(当時89)宅を訪れたが口論となった。31日から4月1日にかけ、岩倉被告は祖母の首を絞めて殺害。家にいた父親(当時68)が気付き、もみ合いになった末、父親の首を絞めて殺害。父親の車で、約400m離れた山中の空き地まで2人の遺体を運び、埋めた。
 4日午前、父親がアルバイト先を無断欠勤したため、派遣元のシルバー人材センター職員が父親の携帯電話に連絡するも繋がらなかった。
 6日午前10時ごろ、センター職員が父親の携帯電話に連絡するもつながらず。勤務先にも問合せし、欠勤が続いていることが判明。午前11時頃、別のセンター職員が祖母宅を訪れ、岩倉被告は父が大分に行っていると説明。正午ごろ、センターが緊急連絡先になっている岩倉被告の伯父へ、「数日前から出勤をしていないと連絡。薩摩川内市に住む伯父は仕事で県外にいたため、午後0時半ごろ、自身の妻(伯母)に安否確認を依頼。伯母(当時69)と近くに住むその姉(当時72)が祖母宅に向かったが、岩倉被告は2人の首を絞めて殺害。連絡が取れなくなったため、伯父は午後2時20分ごろ、日置市の知人男性(当時47)に安否確認を依頼し、知人男性が祖母宅を訪れるも、岩倉被告は知人男性の首を絞めて殺害した。
 伯父は午後2時49分ごろ、県警日置署に相談。午後3時45分ごろ、署員が祖母宅を訪れ、伯母と姉の遺体を発見。さらに別の部屋に倒れていた心肺停止状態の知人男性を発見。男性は搬送先の病院で死亡が確認された。
 4月6日午後6時55分頃、日置市内を一人で歩いていた岩倉知広被告を警察官が見つけ、任意同行を求めて事情を聞いた。岩倉被告が犯行を認めたため、県警は7日午前、知人男性への殺人容疑で岩倉被告を逮捕。8日午後、岩倉被告の供述に基づいて、祖母と父親の遺体が山林で見つかった。
 岩倉被告は子供のころに両親が離婚し、隣町で母親、妹と同居。高校中退後は職業を転々とし、22歳で陸上自衛隊に所属するも1年で依願退職。その後、数か月働いては辞め、貯金が減ったら短期の仕事を探すという生活を繰り返していた。2005年ごろから同居する母親に暴力を振るうようになり、2014年、母親は暴力に耐えかね、家を出て妹宅に住み始めた。岩倉被告は独り暮らしをするも、"仕事もしない男が昼間からブラブラしていて怖い"と近隣から苦情が来て、父親が引き取り、短期間祖母宅で同居。1年ほど前から祖母の持つアパートで独り暮らしをしていた。2018年2月に無職となった後は、父親から小遣いをもらって生活し、時折祖母宅で食事をしていた。知人男性は同じアパートの住人で数年前から住み始め、2階建ての計6室アパートに住んでいるのは2人だけだった。
 4月28日、父親と祖母に対する殺人容疑で再逮捕。5月19日、伯母とその姉に対する殺人容疑で再逮捕。鹿児島地検は6月1日から岩倉被告の鑑定留置を行い、精神鑑定を実施。2度の延長により2019年1月中旬まで鑑定留置を行い、岩倉被告に完全責任能力があると判断。鹿児島地検は2019年1月23日に殺人と死体遺棄の容疑で起訴した。
一 審
 2020年12月11日 鹿児島地裁 岩田光生裁判長 死刑判決
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2020年11月18日の初公判で、岩倉知広被告は伯母、姉、知人男性の3人の殺害について「間違いありません」と述べたが、父親については「包丁を持ち出したので、包丁を落とそうと組み合いになった」と主張。祖母についても「死亡原因が違う。殴って死なせてしまった」と述べた。
 冒頭陳述で検察側は「長年折り合いが悪かった祖母に一方的に暴力を振るったことが引き金となり、信頼していた父親にも裏切られたと感じ殺害した。それを機に、一方的に恨みを募らせていた伯父を殺害しようと考え、伯父の依頼を受けて安否確認に訪れた3人を立て続けに殺害した」と指摘した。
 弁護側は「10年以上前に妄想性障害を患い、犯行当時は病状が深刻な状態にあった。祖母や伯父を中心とする一派が迫害行為をしているとの妄想を前提とした反撃だった」などと主張。父親に対する行為も正当防衛が成立するとした。
 証人尋問には、5人の司法解剖に立ち会った法医学者が出廷。「いずれも首を強く圧迫したことによる窒息の所見がある」とし、祖母についても「亡くなってから首を絞めたとは考えられない」と証言した。
 19日の第2回公判で、証言台に立った伯父は、はっきりとした大きな声で被害者の人柄をそれぞれ語った。祖母については「優しく厳格な人だった」、父親のことは「15~20年前に足を骨折して引きずっていたが、仕事熱心な人だった」と振り返った。姉については「思いやりのある優しい人だった」と語り、妻(伯母)らの後に安否確認に来て殺害された近所の男性は「(仕事の)同僚で、人懐っこい人だった」と惜しんだ。また、妻のことを語った際は「一緒に旅行に行こうと話していたのに、もう会えない」などと話し声を詰まらせる場面もあった。事件当時について、伯父は、仕事で県外にいたため伯母と男性に祖母宅へ安否確認を頼んだのは自分だったと明かし「自分が行っていれば」と無念さをにじませた。そして、岩倉被告に対して「憎しみでいっぱい。極刑を望む」と述べた。弁護側は、岩倉被告が10年以上前から発症していた「妄想性障害」の影響で殺害した父親以外の4人が「自分を迫害する一派」だと思い込んでいたとし、出廷した伯父にも岩倉被告に対する嫌がらせ行為などの有無を確認したが、伯父は「想像もつかない。覚えがない」と話した。
 20日の第3回公判で、岩倉被告の母親が証人出廷し「私が(被告と)一緒にいれば(殺されるのが)最悪私一人ですんだのに」などと胸中を語った。
 24日の第4回公判で被告人質問が行われ、岩倉被告は弁護側の質問で自身が犯行に及んだ経緯を話した。岩倉被告によると、被告は2002年に自衛隊を辞めてしばらくした後、誰かが自分の悪口を言っている声が聞こえるようになったという。2014年に同居していた母親が被告の暴力に耐えかねて家を出て、同市のアパートで1人暮らしを始めた頃、伯父が悪口を言っている声が聞こえ、伯父が自分の悪評を周囲に広めようとしていると確信したとした。岩倉被告は、同級生を地元から転居させて孤立させようとしたり、自分の車を故障させたりなどの嫌がらせを受けたと主張した。岩倉被告は、伯父らの行動について「でたらめじゃない」と声を荒らげる場面もあった。そして、伯父の妻と妻の姉、近所の男性も伯父に協力する一派だと考え、祖母宅に数日間とどまったのは「執拗に嫌がらせなどをしてきた伯父に復讐するためだった」と強調した。岩倉被告は、祖母について、被告の母方の祖父母の悪口を言われたことについて腹を立て殴ったという。また、父殺害は左腕で首を絞め殺したことを認めたが、殺意を否定し「謝りたい」と話した。2人を山中に埋めた理由は「腐敗する姿を見たくなかった」と答えた。
 25日の第5回公判で起訴後に精神鑑定を行った鹿児島大学の赤崎安昭教授への証人尋問が行われた。赤崎教授は犯行時に岩倉被告は妄想性障害があったと診断。しかし、妄想性障害は極めて軽微だったとし怒りなどを発端とした人格特性が影響したと指摘した。弁護側が妄想性障害の程度が軽微だと判断した理由について質問すると、赤崎教授は重篤な妄想性障害であれば、嫌がらせなどに対しての抵抗を行うはずだが、岩倉被告は行動を起こしていないことから、軽微な妄想性障害だと診断したと話した。
 26日の第6回公判で起訴前に精神鑑定を行った県立姶良病院の山畑良蔵院長への証人尋問が行われた。山畑院長は弁護側の質問に答え、「犯行当時は生来の自閉スペクトラム症(ASD)に加え、重度の妄想性障害を抱えていた。深刻な精神状態にあった」と主張し、「親族らから水道水に毒物を入れられる」などの被告の妄想が行動に影響したと指摘した。山畑院長は、被告の生活の変化などから妄想性障害を発症した時期を2004年前後と推定。一時的に軽減することを繰り返し、長期的には悪化していたとした。病状の深刻さを踏まえ、統合失調症の可能性も示唆した。妄想性障害の悪化により、「思考・行動に異常があった」と指摘。弁護側から動機や行動選択への影響を問われ、山畑院長は「誤った考えに基づく病的感情は、当然行動に影響を与えている」と述べた。さらに岩倉被告が一昨年11月、精神鑑定のため入院していた病院で、同じ部屋の入院患者からも迫害されていると思い込み、首を絞める暴力をしていたとも証言した。
 27日の第7回公判で岩倉被告への質問が行われ、検察側は、父親が以前被告にうつ病に関する本を渡したことについて質問すると、被告は「自分は病気じゃないから読まなかった」と述べ「自分は病気だと思うか」との質問には「いいえ」と答えた。
 同日、遺族の意見陳述もあり、親族7人が法廷と書面で意見を述べた。父親の妹は法廷で「兄は口数は少ないが優しく、母は女手一つで私を育ててくれた。なぜ自首しなかったのか」と述べた。伯父の妻の娘は終始声を詰まらせながら「母たちがどれだけ痛くて怖い思いをしたか。人間がやることではない」などと話した。伯父の妻とその姉の弟は「姉2人を返せ!」と心情を訴えた。叔父夫婦の息子が岩倉被告に「遺族に何か思うことはないか」と問うと、被告は長い沈黙の後「逆に、なぜあんな陰湿なことをしてきたのか」と2回繰り返した。遺族はいずれも死刑を望むと話した。
 12月1日の論告で検察側は、「(親族に嫌がらせを受けているという)妄想は一部の動機形成の遠因となった程度で、軽微」と指摘。「犯行態様は極めて残虐かつ執拗で、むごたらしい」と指摘。いずれの犯行も被告の言動がそもそもの原因で「何の落ち度もない5人の尊い命が奪われた結果は極めて重大だ」とした。検察側は、最高裁が死刑適用に示した「永山基準」を説明して8項目それぞれに理由を述べ、「妄想性障害の影響などを最大限考慮したとしても、社会を震撼させた重大で凶悪な事案。死刑を回避すべき事情は存在しない」と結論付けた。
 同日の最終弁論で弁護側は六つの起訴事実のうち、父親の殺害は包丁を持ち出され心中を図ろうとしてきたことへの反撃行為で正当防衛が成立し、祖母の殺害は殴打行為によるもので殺人罪が成立しないと無罪を主張。2人の死体遺棄や他3人の殺害も「妄想性障害」の影響による心神耗弱で刑が減軽され、無期懲役が相当とした。また一審で死刑判決が出ても高裁で無期懲役となった過去の判例も示し、慎重な議論を求めた。
 岩倉被告は最終意見陳述で、「妄想の一言で全てを片付けられ、自分の発言をつぶされたのであれば納得いきません」と述べた。被告人質問と同様、迫害を妄想とする鑑定結果などへの不満を口にし、最後まで遺族に謝罪しなかった。
 判決で岩田裁判長は、焦点となった妄想性障害について、起訴後の鑑定が「妄想で嫌がらせを受けている親族に抗議をするなど、妄想が重ければしているはずの行動をしていない」として、信用できると判断。「被告は妄想に指示、支配される状況にはなく、抱いていた妄想も切迫したものではなかった」と退け、完全責任能力があったと認めた。そして「犯行には被告人の衝動的、攻撃的、他罰的な性格が影響したと見るのが合理的だ」とした。
 また岩田裁判長は、被告が首を絞め続けた行為などからいずれも殺意はあったとした。父親への正当防衛は、被告との年齢差や体格差などを踏まえて「被告が反撃行為に出ることが正当とされる状況ではない」として認めなかった。
 そして岩田裁判長は「妄想性障害の影響を考慮しても、5人の命を奪った事実は揺るがない。常軌を逸した凄惨な犯行だ。被害者らに落ち度はなく、人を殺害することへの抵抗感は感じられない。死刑を回避すべき特段の事情は見当たらない。生命をもって罪を償わせるほかない」と述べ、被告に極刑を言い渡した。
 死刑言い渡しの直後、弁護側に座っていた岩倉被告が検察側まで駆け込み、「お前のしていることは、許されんぞ」などと大声をあげ、被害者参加人として出廷していた親族にめがけて飛びかかろうとして取り押さえられた。

 弁護側は即日控訴した。
 2024年10月30日の控訴審初公判で、一審判決後に弁護側が請求し、裁判所が鑑定を依頼した東京科学大学の安藤久美子氏が出廷。証人尋問で、被告は2006年ごろに統合失調症を発症したと指摘。一連の犯行を「被告の現実的思考と病的思考を切り離して説明することは難しい」とした上で、「男女3人の殺害は、統合失調症の影響を受けている」とした。
 一審で鑑定を行った鹿児島大学医学部の赤崎安昭教授も出廷。証人尋問で、鑑定では統合失調症に特有の症状はみられず、妄想性障害と診断したと説明。「控訴後の鑑定は、裁判で出た証言に被告が影響されるなど、前提の異なった条件で行われている」と説明した。
 裁判所は、弁護側が請求した被告人質問を却下した。
備 考
 
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氏 名
青葉真司
事件当時年齢
 41歳
犯行日時
 2019年7月18日
罪 状
 建造物侵入、現住建造物等放火、殺人、殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反
事件名
 京都アニメーション放火殺人事件
事件概要
 さいたま市の無職青葉真司被告は2019年7月18日午前10時半ごろ、京都市伏見区の京都アニメーション第1スタジオに侵入し、殺意を持ってガソリンを従業員の体や周辺にまいてガスライターで放火し、3階建て延べ約691平方メートルを全焼した。建物内にいた70人のうち、逃げ遅れた36人が死亡、32人が重軽傷を負った。
 同日、京都府警は青葉被告の身柄を確保。青葉被告自身も全身に重度のやけどを負い、京都市内の病院に搬送された。20日、府警は殺人などの容疑で青葉被告の逮捕状を取得。同日、青葉被告は高度な治療が受けられる大阪府内の病院に転院。以後、計5回の皮膚移植手術が行われた。11月14日に元の病院に戻って治療やリハビリを続けた。
 2020年5月27日、府警は青葉被告を殺人他の容疑で逮捕した。京都地裁が午後に勾留請求を認め、青葉被告は医療設備の整った大阪拘置所に移された。6月9日、京都地裁での勾留理由開示手続きで、青葉被告はストレッチャーに横たわったまま出廷し、質問に答えた。京都地検は6月9日、京都地裁に鑑定留置を申請し、認められた。12月11日、鑑定留置が終了。16日、京都地検は青葉被告を殺人罪他で起訴した。その後弁護側申請による精神鑑定が行われ、2021年3月に終了した。
 2022年5月8日、第1回公判前整理手続きを実施。以後、裁判官、検察官、弁護人による水面下の調整が続けられた。8月31日、第2回公判前整理手続きが京都地裁で開かれ、青葉被告本人が出席した。この日で手続きが終了した。
一 審
 2024年1月25日 京都地裁 増田啓祐裁判長 死刑判決
判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 裁判員裁判。京都地裁は秘匿を申し出た遺族の意向を踏まえ、36人中19人の犠牲者の氏名などを法廷で非公開とする決定を出している。
 2023年9月5日の初公判における罪状認否で青葉被告は、「私がしたことに間違いありません」と認めた上で、「事件当時はこうするしかないと思っていた。こんなにたくさんの人が亡くなると思っておらず、現在はやり過ぎたと思っています」と述べた。青葉被告は車椅子に乗って出廷した。
 検察側は冒頭陳述で、青葉被告が京アニに応募した小説からアイデアを盗まれたとの妄想を募らせ、「人生がうまくいかないのは京アニのせいだ」として、筋違いの恨みによる復讐を決意したと主張した。続いて、青葉被告の経歴と事件に至る経緯が説明された。そして「小説を盗作されたり、公安から監視されたりしているといった妄想があったが、その妄想に支配されていたわけではなく、完全責任能力はあった」と強調した。
 弁護側は、起訴内容は争わないとしたうえで、事件当時は善悪を判断して行動を制御する責任能力が損なわれており、刑事罰に問えない心神喪失の状態だったとして無罪を主張。もしくは、責任能力が減退した心神耗弱の状態で刑を軽減するよう求めた。また、「これだけ多くの人が亡くなったのは建物の構造が影響した可能性もある」とも訴えた。

 6日の第2回公判で証拠調べが行われた。事件当時、青葉被告が確保された直後の、警察官とのやり取りが録音された音声記録で公開された。その後、青葉被告の家族、母親や兄などの供述調書を、検察官が読み上げた。
 青葉被告が自身の小説を京アニに「盗用された」と主張する3作品の一場面が上映され、スマートフォンで京アニ関連のサイトを閲覧していた履歴も説明された。
 『映画けいおん!』(2011年)では、女子高生が「私、留年しちゃった。これからは同級生」と言いながら、後輩に抱きつくシーンがある。この部分に関して、青葉被告は自分が応募した小説(注:応募は2016年)でも「最初のところに留年したと書いていた」と述べ、類似していることを主張。
 『ツルネ -風舞高校弓道部-』(2018年)は、弓道部の男子高校生たちが、自炊のために肉を買おうと店の中で「割引」のステッカーを貼っているものを買っているシーンがある。青葉被告は「自分が小説を書くためにネタを集めていたノートにそのシーンがあった」と説明した。
 『Free!』(2013年)は、水泳部が地区大会に出場が決まり、学校からその報告がなされ、校舎には「地区大会に出場」という垂れ幕が風になびいていた。「自分の小説の中では垂れ幕を垂らしたままで、自由な校風を意味している。垂れ幕がパクられた」と語った。
 「パクられたのは3つ以外にあるのか」と聞かれた青葉被告は「ありません」と答えた。
 弁護側は、青葉被告がコンビニ強盗の事件で刑務所に収容されてから、京都アニメーションで事件を起こすまでの約7年間の精神状態を中心に説明した。2013年7月以降の刑務所での記録によると、青葉被告は幻聴・幻覚・不眠などによるイライラに悩まされ、自殺のリスクが高い「要注意者」に指定。部屋で不審な動きをして職員に注意された際は強く反発するなど、10回以上も懲罰を受けたうえ、2015年10月には「統合失調症」と診断されたという。刑務所の中で京アニ作品を鑑賞し、2016年1月に出所する際のアンケートには、「1年後に作家デビュー、5年後に家を買う、10年後は大御所」と書き、自身の夢を抱いていたことが明かされた。
 出所後、青葉被告を担当した訪問看護の記録などによると、青葉被告は、主に不眠の影響で精神状態が常に不安定だったとし、2018年5月には、自宅アパートを訪れたスタッフに包丁を振りかざし、「付きまとうのをやめないなら殺すぞ」などと脅すこともあったという。室内には、破壊されたパソコン2台とプレイステーションが散乱していたほか、切り刻まれた革ジャンパーや布団が散らばっていたという。
しかしその後、2019年3月に突然連絡が取れなくなり、事件に近づく約3か月間、面会できなかったという。担当していた訪問看護師は、青葉被告が薬を服用できていないことから、対人トラブルが起きないか懸念していたことも説明された。

 7日の第3回公判で、弁護側からの被告人質問が行われた。
 事件直後の青葉被告と、現場に駆けつけた警察官のやり取りについて「(事件の動機を聞く警察官に対し)『お前らが知ってるんだろ』と3回、同じようなことを言った。『お前ら』とは誰のことか」との問いに、青葉被告は「警察の公安部になります。火災では即座に警察が呼ばれず、救急車や消防車が現れ、その後で警察が呼ばれる。早く来たので公安だと思った」と説明した。弁護人が、警察官がインターネット掲示板の書き込みを知っているとの認識だったのかと聞くと、青葉被告は「そうなります」と述べた。
 その後は青葉被告の生い立ちについての質問が続いた。

 11日の第4回公判で、弁護側からの被告人質問が行われ、青葉被告が小説を書き始め、京アニに作品を応募しようとした経緯を説明した。
 青葉被告によると、小説を書き始めたのは2009年。2007年に窃盗事件などで有罪判決を受けた後、兄の紹介で働き始めた郵便局内で、自身の犯罪歴が周囲に知られていると感じたのがきっかけだったという。郵便局を3カ月で辞め、生活保護を受けながら昼夜逆転の生活の中で、「夜に京アニのアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』を見て、小説を書こうと思った」という。その後、京アニが創設したばかりの「京アニ大賞」に応募しようとした。「京アニ大賞は始まったばかりだった。下りではなく、上りのエスカレーターに乗りたいと思い、自分で前例や足跡を作っていけると考えた」と述べた。「ここなら最高のアニメーションが作れる。最高のシナリオがあれば、最高の物語を作れると考えた」ことも理由に挙げた。
 応募前、ネット掲示板「2ちゃんねる」で京アニ関連の書き込みを調べ始めた。そこで京アニの女性監督による書き込みを見つけたとし、直接やり取りをするようになったと主張した。小説へのアドバイスをもらうなどしたといい、女性監督に対する当時の思いを「はっきり言って恋愛感情です」「ラブであります」と述べた。だがその後のやり取りの中で、「自分の過去の犯罪を知って『レイプ魔』と言われた」自身の犯罪歴を想起させる書き込みをされたとし、青葉被告は「京アニが探偵を雇って過去の犯罪歴を調べた」「犯罪歴をばらされた経験があるから、(小説を)京アニにも送れないし、作家で食べていくことは不可能」などと考えたと説明した。「それで犯罪をやることになった」と続け、2012年にコンビニ強盗事件を起こした経緯を明かした。
 実刑判決を受け服役中、青葉被告は服役していた刑務所の中で刑務官から「あの人がナンバーツー」と紹介を受けたと説明。「ナンバーツー」は「ハリウッドやシリコンバレーに人脈があり闇の世界に生きる」人物だと青葉被告は説明した。なお刑務所の中で青葉被告は医師から精神障害と診断された。その頃は「警察の公安部につけられていると思っていた」などと回顧。過去に与謝野馨財務相宛てにメールを送ったことを持ち出し「(自分は)国家の判断に携わった人間だから、身辺調査されることになったのではないか」と振り返った。出所後にパソコンを買って再び小説を書き始め、2016年、長編と短編を京アニ大賞に応募。その後、京アニに自作が盗用されたと考えるようになったという。
 この日は京アニ作品『Free!』『映画けいおん!』の映像の一部が流され、弁護側が、青葉被告がその映像を見た当時、どう感じたかを尋ねた。
 『Free!』(2013年)で「水泳部」「柔道部」と書かれた垂れ幕が校舎に掲げられた場面が映された。青葉被告は、自身が書いた小説に垂れ幕を掲げる学校が登場すると説明。その小説は京アニ大賞に応募していないが、「(何らかの方法で)すでに流出した原稿からパクられたと考えざるを得ない」と説明した。
 『映画けいおん!』(2011年)で主人公が後輩に「私、留年したよ」と伝える場面。青葉被告は、自身の応募作に「お前、このままだと留年だぞ」との会話があるとし、「(映画を見た)当時はパクられたのかなとの感覚だった」と述べた。

 13日の第5回公判で、弁護側からの被告人質問が行われた。
 青葉被告は落選した当時の心境について、「頑張って書いたのに通らなかったのかと思い、がっかりしたし、裏切られたと思った。受賞まではしなくても、編集者から目をつけられて、何かしら依頼があるとは思っていた。そこ(京アニ)に送ったのは間違いだと思った」と答えた。さらに誰が落選させたかとの質問については、十数秒間黙り込んだ後、自身を警察に監視させていたとする闇の人物「ナンバー2」の圧力によるものと答え、「自分に発言力を持たせたくなかったのでは」などと持論を展開した。その後、『ツルネ』を見てアイデアが盗用されたと感じ、「最悪なことを考えないといけないと思った」と述べた。青葉被告は事件1か月前に、また自宅のあったさいたま市の大宮駅で無差別殺人事件を計画しており、その理由について、「大きな事件を起こさなければ、京アニが(作品を)パクることをやめないと思った」などと述べた。計画を中止したのは、「大宮駅前に行くと、人の密集度が低く、刺しても逃げられてしまうことは即座に分かった。大きな事件にならないと判断してやめた」と語った。

 14日の第6回公判で、検察側、弁護側からの被告人質問が行われ、秋葉原無差別殺傷事件への思いや、事件当日、一度はためらいながら犯行に及んだ経緯を詳述した。
 青葉被告はガソリンによる放火を思い立ったのは2018年11月、京アニ作品『ツルネ』をテレビで視聴し、自分の小説が盗まれていると考えた時期だったと説明。ガソリンを使った放火殺人を計画した理由について、2001年の武富士弘前支店での放火殺人事件などを参考にしたと説明。「多くの人を殺そうとしたのか」という質問に「間違いない」と答え、「秋葉原事件の加藤智大元死刑囚が頭にあった」とも述べた。
 弁護側から京アニを標的にした理由を聞かれ、闇の人物「ナンバー2」とつながりがあるとし「原稿を落とされたり内容をパクられたりと、根に持つ部分が一番大きかった。最後に狙いたいのが、京アニだった」と言及。「パクることをやめさせるには、スタジオ一帯をつぶすしかないと考えた」などと述べた。事件直前の心境について、京アニ第1スタジオ近くで十数分間、路地に座ってそれまでの人生を振り返ったといい、「殺人をするか迷った。自分のような悪党にも良心の呵責があった。でも、ここまで来たらやろうと思った」と答えた。

 19日の第7回公判で、検察側からの被告人質問が行われた。
 青葉被告は2009年5月に無職となった後、京アニの作品『涼宮ハルヒの憂鬱』の文庫本を参考に小説の執筆を始めたと説明。7年をかけ、「最高のシナリオ」と思った長編小説『リアリスティックウェポン』と短編小説「仲野智美の事件簿」を京アニに応募したが、2017年に落選し、翌2018年1月にアイデアを書きためたノートを燃やしたと明かした。小説が落選した心境を聞かれ、「小説は真面目に生きるための一筋の希望だった。つっかえ棒がなくなり、やけになり、よからぬ事件を起こす方に向かった」と振り返った。
 検察官から「京都に来てからも公安に監視されていると感じていたか」尋ねられると、「京都に着いてから監視はない。監視されていたら犯行できなかった」と述べた。
 検察官から罪状認否で「やり過ぎた」と述べた真意を問われると、「30人以上亡くなった事件を鑑みると、いくら何でも小説一つでそこまでしないといけないのかという正直な気持ちが今はある」と答えた。犯行当時、第1スタジオにいた社員への思いを問われると、「作品を盗ったということは全員同じ」と説明。検察側の「同罪ということか?」との質問に、「そういう解釈で間違いない」と答えた。

 20日の第8回公判で、遺族からの被告人質問があった。
 遺族から「事件前に放火殺人をする対象者に、家族、とくに子どもがいることは、知っていましたか?」との問いに青葉被告は「(しばらく無言のあと)申し訳ございません。そこまで考えなかったというのが自分の考えです」と答えた。
 別の遺族の代理人から「あなたにとって(以前語った)『ためらい』や『良心の呵責』とは何を意味するのですか?」との問いに青葉被告は「それなりの人が死ぬだろうと」と答えた。さらに代理人から「人が死ぬとわかっていたものの、被害者の立場では考えなかったということですね?」と聞かれ、青葉被告は気色ばみながら「逆にお聞きしますが、僕がパクられた時に、京都アニメーションは何か感じたんでしょうか?」「逆の立場になって考えて、パクられたり、『レイプ魔』と言われたことに、京アニは良心の呵責も何もなく、被害者という立場だけ話すという理解でよろしいでしょうか?」と裁判長の静止にもかかわらず質問をした。
 また別の遺族からは「あなたが『盗作された』と言うアニメが作られた後に入社しました。そういう職員(社員)がたくさんいたことは考えなかったのですか?」と聞かれると青葉被告は「すみません、そこまでは考えておりませんでした」と答えるも、「京アニがパクっていることや社風を知らずに入って、金をもらって稼いでいる時点で、知らないことに関しては『どうなのか』と思う」と述べた。また「『死ね』と叫んだのは、娘も含め第1スタジオの社員全員に言ったのか」と尋ねたこと対し、「そう思います」と応じた。
 別の遺族の代理人からは、「秋葉原(連続殺傷)事件は犯罪史に残っています。放火殺人をすることで犯罪史に名前を残そうとしたんですか」と問われ、「そういうことは考えなかった。(秋葉原事件の犯人は)ひどい家庭環境で育ってきました。そういう部分で共感しました」と答えた。

 25日の第9回公判で、裁判官と裁判員からの被告人質問が行われた。
 青葉被告は裁判員から「『やってやった』なのか、『火を付けてしまった』という気持ちか」と放火時の心境を聞かれ「ある種『やけくそ』という気持ちじゃないと出来ない。一言で言うと、やけくそという気持ち」と述べた。
 「現在は京アニに対してどう思っているのか」と聞かれ、「何度か述べたように、やり過ぎではないかと。作品を盗まれたからといって、人の命を奪うほどのものだったのか」「何度となく人に恨みを抱いてきたが、実際に命を奪うことは軽いものじゃない。意外と悩むこともある」と語った。
 また弁護側からの質問に『2018年11月、テレビで偶然「ツルネ」を見て「実際に(京アニが)パクりをやっているんだと考えた」と答えた。
 裁判員から「京アニの従業員の方々は、各部署で専門が違っていて、違う部署だと(盗作の)内容を知らない方もたくさんいたと思うが、そのことは青葉被告自身は知ろうとはしなかったのか」と聞かれると、青葉被告は20秒ほど沈黙した後、「知ろうとしなかった部分はあります」と答え、「青葉被告が知ろうとしなかったことは罪にはならないのか」との問いかけには「至らない部分で、努力が必要な部分だと思います」と答えた。

 27日の第10回公判では、1階にいた京アニ社員2人の証人尋問が匿名で行われた。
 1人目の女性社員は、「知らない男が入ってきて液体をかけ、大声で『死ね』と言って火を付けた」と青葉被告が放火した瞬間を説明。「オレンジ色の炎が天井まで上がり、社員3人を包んでいくのが見えた」と話した。女性は逃げ込んだ女子トイレの小窓から他の2人とともに救助された。
 2人目の男性社員は、放火された直後、上階の社員に避難を促すため階段で2階に上がった。押し寄せる煙に意識がもうろうとなる中、2階の窓枠からぶら下がり、飛び降りて避難。その後、1階の様子を見て「猛烈な煙で壊滅的だと思った」と振り返った。

 10月2日の第11回公判で京アニの八田英明社長の証人尋問が行われた。八田社長は、「当社は人様のアイデアを盗むような会社ではない。被告の思い込みで事件が起き、断腸の思い」と述べ、小説を盗用されたとする青葉被告の主張を否定した。螺旋階段の設置目的については「アニメを作る上でコミュニケーションは大切。各階が同じ雰囲気になるようにした」と説明した。
 弁護側の質問に対し、青葉被告の小説は、1次審査で落選した説明。応募要項を満たしているかや400字くらいにまとめたあらすじで選考するため、落選した作品の中身に目を通すことは「まずない」と述べた。
 弁護側は建物の防火体制についても質問した。事件後、3階から屋上に向かう屋内階段で19人が折り重なるように倒れて見つかり、屋上に出る扉は閉じた状態だった。扉が開けにくい構造だったのではないかとの質問に対し、社長は「私は開けたことがない。簡単に開くと認識していた」と言及。火や煙の回りを早めたとされる螺旋階段の危険性については「認識していなかった」と述べた。
 続いて京都市消防局員の証人尋問が行われ、事件前の査察の結果を基に証言。検察側からの質問に対し、第1スタジオには消火器や非常警報設備が正しく設置されており、消防法や建築基準法上の不備はなかったと証言した。京アニによる半年に一度の点検も行われていたとした。
 弁護側は「屋上に向かう階段に段ボールが積まれ、人が1人通る幅しかなかった」という被害者の供述調書を読み上げた上で尋ねた。消防局員は「物はない方が良いに決まっている」と述べたが、「階下へ避難するのが基本で(屋上への階段は)避難経路として通常は見ない」と指摘した。螺旋階段について「煙は縦に広がる方が速く、影響がないとはいえないと思う」と述べた。

 11日の第12回公判で証人尋問を踏まえた被告人質問があり、青葉被告が八田社長の証言に対し、落選後に京アニの女性監督がブログで自身の作品に触れていたとし、「京アニが応募作品を読んでいないということはないと思う。社長の立場上、ああ言うしかない」などと反論した。青葉被告は小説の落選に関し、「京アニが自分の作品を落とす仕事を請け負い、見返りにかなりのお金が流れたのではないか」との主張も展開。京都府宇治市にある京アニ第5スタジオの建設にそのお金が流れたとの持論を展開した。落選を指示したのは、これまでの公判で繰り返し語ってきた闇の人物の「ナンバー2」とした。
 増田啓祐裁判長から放火直前の心情を問われると、「京アニなんかなくなればいいと思っていた。(小説を)パクられたことを考え、それなりの死傷者が出ればいいと思っていた」と説明。
 裁判官から事件前の想定を聞かれ、青葉被告は「(秋葉原無差別殺傷事件などを例に)上限で8人くらい。2桁までは考えなかった」と語った。そして「螺旋階段がある認識はなかった。1階だけが燃えた認識で、ここまで(被害が)大きくなるとは思わなかった」と語った。
 弁護側からの質問で、36人の犠牲者数は逮捕状を読みあげられたときに初めて知ったと語った。全焼した同スタジオの写真も見たといい、「まさかここまで大きくなるとは思わなかった」などと語った。

 23日の第13回公判では2回目冒頭陳述があり、検察、弁護側双方が刑事責任能力に絞った意見を述べた。
 検察側は「他人のせいにしがちなパーソナリティーから、京アニに筋違いの恨みを募らせたことが犯行動機の基盤」と指摘。青葉被告が「良心の呵責があった」と事件直前に放火をためらう思いを公判で述べたことを受け、「逡巡したかどうかは大きな判断材料だ」と善悪を判断する能力があったと強調した。そして「放火殺人を計画した行動は合理的。妄想の影響はなく、被告自身の判断で行われた」と完全責任能力を主張した。
 弁護側は、「妄想が犯行に圧倒的に影響しており、責任能力に疑いがあれば、無罪か刑を軽減するべきだ」と訴えた。また弁護側は、和田医師は起訴前に検察側の依頼で鑑定した一方、岡田医師は弁護側が集めた資料も加えて鑑定したと強調し、「基礎資料に偏りがないか、不足した情報はないか注意してほしい」と裁判員らに訴えた。
 続いて、起訴前に検察側の依頼で被告を精神鑑定した大阪赤十字病院の和田央医師の証人尋問が行われた。和田医師は、2020年6月9日~12月11日の間、25回の面談と、被告人の母や兄妹、主治医、訪問看護師などに話を聞いて検討した鑑定結果を報告した。
 和田医師は鑑定主文で、「「妄想性パーソナリティ障害」被告人が犯行の対象に京都アニメーションを選んだ点には、京アニに対する被害妄想が影響したが、それ以外には精神障害の影響は認められない」とした。
 和田医師は被告の性格の4つの特徴を挙げた。①極端な他責傾向(他人のせいにする)②誇大な自尊心をもつ③不本意な気持ちから攻撃的な態度に転換④一度思い込むと修正が困難。
 さらに和田医師は、青葉被告の妄想の特徴についても4つに分析した。①現実世界においては、興味・関心を持つ領域のみに出現する。②その解釈の内容はその時々の心境、置かれた状況と密接に関係する。③妄想内容は現実世界のできごとに関連していて、明確に指摘できる。④妄想内容は被告の判断で行った行動の結果と、性格傾向で決定される。よって、妄想は被告の言動にほとんど影響を及ぼしていないとした。
 和田医師への尋問で、弁護側は「他人のせいにする」との鑑定結果を追及。青葉被告の幼少期やアルバイト時代にそうしたエピソードはないと指摘すると、和田医師は「成育歴をうかがい、臨床的な経験に基づいて申し上げた」と反論した。

 26日の第14回公判では、弁護側の求めで起訴後に鑑定した東京医科歯科大の岡田幸之医師の証人尋問が行われた。岡田医師は、起訴後の2021年9月3日~2022年2月28日、3時間×12回(計36時間)の面接に加え、母や兄との面接や、京都地裁、京都地検、弁護人からの資料一式で判断した。
 岡田医師は鑑定主文で、「「妄想性障害/妄想症」1.相反する証拠があっても変わることのない強い確信(=妄想)を慢性的に持っている。2.この妄想が慢性的に生活に影響をもたらしている。3.この妄想以外に精神障害はない。 ※詐病は認められない」とした。
 岡田医師は、青葉被告は慢性的・持続的に妄想が見られる「重度の妄想性障害」と診断した上で、妄想の類型として①被愛型(例:恋愛感情を持つ)、②誇大型(例:有名人と関係があると思っている)、③被害型(例:陰謀、つけられている、嫌がらせをされているなどの確信)の3つの特徴に当てはまり、「混合型」と診断されると示した。また、被告の妄想が「現実にありえない=奇異でない」ものであることから、統合失調症ではないとした。
 岡田医師は、「"公安警察やナンバー2に監視されている"などの妄想から被告が孤立していたことや、"自分の小説を落選させた上、京アニはアイデアをパクりまくって利益を上げ続けている"などの妄想から、『こうした状況を終わらせるか、今のまま続けるかどちらか選ぶしかない』と考え火をつけた」と話し、▼「応募した小説が落選した」という現実に対し、"故意に落選させられた"などの被害妄想を持ったという被告の「思考」的側面や、▼猜疑心や独善性が強く、怒りやすく攻撃行動しやすいという被告の「行動特性」については、それも「妄想世界で被害を受けていることのいらだちも関係している」などと、精神障害と犯行の関係について説明し、「妄想は犯行の動機を形成している」との鑑定結果を示した。
 岡田医師は検察側の質問に対し、重度でも直ちに刑事責任能力の有無が決まるわけではないとした上で、青葉被告の妄想に犯行を直接指示する内容はなかったとも言及。青葉被告が事件前に実行するかどうか迷うような発言を鑑定時にしたことも踏まえ、「これからやることは犯罪だと理解していた」と語った。また被告が放火殺人という手段を選んだことへの評価については、「病気と関係なく、彼自身が選んだことだと思う」などと答えた。

 30日の第15回公判では、両医師の証人尋問が行われた。
 検察側から、犯行当時の行動に妄想が与えた影響を問われた和田医師は「(青葉被告が盗用されたと主張する)京アニに抗議するといった現実的な行動を何一つしていない」とし、「妄想の影響はほとんどない」と証言した。これに対し、岡田医師は「京アニの女性監督に好かれている」「闇の組織とつながっている」といった妄想には相互に関係性があると指摘。「(自らでは)訂正できない思い込みが認められる。(妄想で)盗用されたと思っていたので本件が起きたと考えている」との認識を示した。ただ、放火殺人という手段を選び、ガソリンなどを調達したことについては「妄想は関係ない」とも述べた。
 青葉被告の妄想の特性にも言及した。和田氏は「その時々の感情が色濃く反映されたもので、現実的な出来事に付随して発生している」と分析。一方、岡田氏は「複数の妄想が相互に関連している。非常に強固で訂正できない」とし、社会生活への影響も生じていると述べた。2人とも被告の妄想が詐病である可能性は否定した。
 裁判員の一人は、岡田教授が「妄想は実行行為に影響していない」とする点について「妄想がなかったということか」と尋ねた。岡田教授は「妄想は慢性的に頭の中にあり、事件を起こそうという動機を作る意味で関わった。だが、火を付けると決めることには関係していない」と答えた。

 12月6日の第16回公判で中間論告と中間弁論が行われた。
 検察側は、青葉被告の妄想は被告の攻撃的な性格や感情を色濃く反映していると主張。「善悪を区別する能力を凌駕する重さではない」と指摘し、「不満をためると攻撃に転じやすい被告の性格により、コンクールに小説が落選したことなどで京アニに筋違いの恨みを募らせ、復讐を決意したことが動機の本質だ」と述べた。そして被告が犯行直前の心境について、「良心の呵責があった」と述べた点にも着目。「被告は『(犯行を)やる、やめる』のラリーを繰り返すなど逡巡し、思いとどまることもできた。その思考に妄想の影響があったとは言えない」とし、精神鑑定を行った医師2人が「犯罪と理解できていた」と証言したことも踏まえ、3日前から下見や用具の準備をした経緯も「首尾一貫して妄想の影響はなく、計画的に自らの意思で放火を実行した」として改めて完全責任能力があると主張した。
 被害者参加制度を利用する遺族や代理人も意見を述べ、検察側と同様の主張を展開した。亡くなった京アニ社員の父親は「作品を盗用されたという被告の思い込みと放火殺人には飛躍があるが、犯行は被告の偏った性格によるもので、妄想が影響したとは考えられない」などと訴えた。被害者ら16人の代理人を務める弁護士10人も連名で意見をまとめ、女性弁護士が代表して「京アニへ応募した作品が落選したという現実の出来事を受け止めきれず、疑念から妄想が発展しただけだ」などと述べた。
 弁護側は、検察側の請求に基づき、起訴前に大阪赤十字病院の和田央医師が行った精神鑑定を「信用できない」と主張した。和田医師が「妄想が犯行に与えた影響は限定的」と証言した点について、弁護側は「闇の人物に関する妄想が考慮されておらず恣意的だ」と問題視。東京医科歯科大大学院の岡田幸之教授による起訴後の鑑定で、青葉被告について「妄想と現実に全く区別がつかない」とし、「妄想が犯行動機を形成し、犯行の背景に影響した」との証言が信用できるとした。そして青葉被告は少なくとも10年以上は妄想の世界を前提に生きており、被告の性格にも妄想が強く影響しており、「妄想性障害は重度だったと認定すべきだ」と反論。「京アニに作品を盗用された」と思い込むなどした結果、追い詰められたと説明した。また、検察側が強調した犯行直前の「ためらい」は「善悪を区別できたこととイコールではない。悪いと思っていても、妄想の世界では区別がつかないこともある」と反論。その上で、「直接犯行を命じる妄想がなくても、闇の人物などの『訂正不能な妄想』の圧倒的な圧力によって動機が形成され、犯行を思いとどまる力はなかった」と述べ、刑事責任を問えないと強調した。

 27日の第17回公判で3回目となる冒頭陳述があり、検察、弁護側双方が量刑に絞った意見を述べた。検察側は「筋違いの恨みによる類例なき凄惨な大量放火殺人事件だ」と断じ、「多数の犠牲者や被害者を出した結果の重大性や犯行の計画性に着目するべきで、遺族の処罰感情も強い」と指摘した。弁護側は「死刑求刑の可能性がある」とし、裁判員に向けて、青葉被告に死刑を科すことが「憲法が禁じる残虐な刑罰にならないかを念頭に置いてほしい。人を殺すことは悪いことなのに、なぜ死刑が正当化されるのか考えてほしい」と訴えた。そして「たくさんの悲しみや怒りに触れ、多くの遺族や被害者の立場になって考えることは、これまでの審理で確定した事実を押し曲げる危険がある」とし、処罰感情に影響を受けすぎないよう求めた。
 この後行われた被告人質問で青葉被告は弁護側から公判で感じたことを問われ、「あまりにも浅はかだったと思っている。被害者一人ひとりに顔があり、生活があり、病院で苦しんでいる人、子どもがいるのに亡くなった人がいると痛感した。後悔が山ほど残る事件になった」と述べた。鑑定医の証言について感想を聞かれた被告は「(自分の主張に)自信がなくなった。目の前にあったことが事実でないかもしれない」と供述。さらに、被害者の調書や事件の写真など弁護人から差し入れられた証拠には一通り目を通したとして「現実として受け止められず、逃げている気持ちはある」と話した。検察側が後悔という発言の真意を検察側が尋ねると、「(京アニへの)恨みと憎しみを晴らしたからといって、『やってやった』『ざまぁみろ』という思いはなく、逆にこれで良かったのかと思うところが残る」と答えた。さらに「反省しているのか」と質問すると「最初に取り調べを受けた時から全部話してきた。弁護士に黙秘してもよいと言われたが、話すことは話すという形で、自分の反省とさせてもらっている」とした。
 遺族も心情などを尋ねたが、弁護側が「被害感情の立証が終わった後に質問するべきだ」と述べた後、青葉被告は一転して「今は差し控える」などと繰り返し、質問に答えなかった。その後、「なぜこのような事件を起こしたのか、本当の理由が知りたい」「一番重い判決が出ることを信じている」などの遺族7人の供述調書や意見陳述書が読みあげられた。

 29日の第18回公判で遺族6人が直接意見を述べ、8人の供述調書や意見陳述書が読みあげられた。「厳しい結論を望む。被害者に大切な人がいるという当たり前のことを理解してほしい」「謝罪や反省は求めない。謝罪や反省で償える罪ではないから」「弁護人から、「死刑制度を前提に考えなくてはならない」と冒頭陳述でありました。結論から言うと、今回の裁判と死刑制度を一緒に議論することは適切ではありません。議論は別の場所で行っていただきたいです」「一人一人の命を奪ったことで多くの人に影響を与えたことを考えてほしい」「極刑を求める。恐怖や絶望、悲しみを被告にも味わってもらいたい」「この事件で36人だけが亡くなったとは思っていない。ここにいる家族、ここに来られない家族の心も殺した」などの厳しい言葉が並んだ。

 30日の第19回公判で遺族7人が直接意見を述べ、10人の供述調書や意見陳述書が読みあげられた。「「恨みの中で住み続けてはいけない」と言われても、そういう暮らしをしている家族もいる。最も重い刑になるのは当然だ」「人々を元気にするアニメ作品を作る人の命を奪うのは、単なる殺人の範ちゅうではない。万死に値することだと思う」「小説家の夢を否定されたからと裁判で話していたが、息子の夢や人生を奪ったのはあなただ。ただの逆恨みではないか。36人という数字でなく、一人一人に特別な人生があったことを知ってほしい」「私たちは裁判を見守ってきた。被告人や弁護人の発言、態度で傷つけられても、ずっと黙って見守ってきた。黙っているからと言って誤解しないで」「娘の無念さを思うと、極刑を望む」「被告が償える罪には限りがあり、死刑で死んだとしても娘は帰ってこない。帰ってくるなら無罪でもいい」「被告や弁護人から、建物の構造や避難訓練の方法で亡くなったと言われることも耐えがたく感じる」「この国の、この時代に定められた法にのっとり、命の裁きを受け、罪を償うことを願っている」「死刑でも許せないが、この国に死刑以上の罰則がないので仕方がない」「(子供へ歌った子守唄を歌った後)被告人には最も重い死刑を望む。結実たちの命は、被告人の命よりも軽んじられることはなかったよと伝えたいからだ。強くて優しい母でいたいが、この気持ちだけは決して変わらない」などの厳しい言葉が並んだ。被告の言動や弁護人に対しての抗議を述べる言葉もあった。

 12月4日の第20回公判で遺族4人と被害者4人が直接意見を述べ、4人の供述調書や意見陳述書が読みあげられた。「犯人がしたことを許すことができない。どういう精神状況でも、許すことができません」「死刑になっても(犠牲者)36人に対し、犯人は1人。奪われた命がすごく軽く思える」「心からの反省や謝罪を期待することはない。正しい裁きが下されることを信じる」「被告は極刑になっても償いとしては不十分だが、判決としてはこれしかない。自分の生涯が終わるその一瞬まで36人の命と負傷者、家族に心からの謝罪をし続けてほしい」「あなたに対して36回死を与えることもできない。死刑すら生やさしい。あえて死刑を望むとは言わない。償いようのない現実に苦しみながら生涯を終えてほしい」「罪を償うことは死刑しかあり得ない」「裁判でのあなたの発言は身勝手な主張ばかりで、謝罪や心からの反省はない」「あなたが盗作したと主張する「ツルネ」のシナリオを決める打ち合わせに参加していた。そこで、あなたの小説の話が出たこととは一度もない。誰もあなたの小説を読んでいなかった。盗作は思い込み。第1スタジオにいた人たちも無関係だ。勝手な思い込みで36人を殺害した。それを心に刻んでほしい」「死をもって償ってほしい。あなたには生きたまま火に焼かれて死んでほしい。裁判官、裁判員には、見合った判決にしてほしい」などの厳しい言葉が並んだ。

 6日の第21回公判における被告人質問で、検察官に「遺族らに思うことはあるか」と問われると、青葉被告は「申し訳ございませんでしたという言葉しか出てきません」と述べ、犠牲者や遺族らに対し、初めて謝罪の言葉を述べた。謝罪の気持ちがいつ芽生えたのかと聞かれると、しばらく考えた後、「弁護人と面会している時、裁判が始まる前あたり」と説明。これまで明確に述べてこなかったと指摘されると、「やりすぎだった」との自身の供述に触れ、「『やりすぎ』という形で言っているということ」とした。意見陳述などで多くの遺族らが極刑を求めたことについては、「その通りに、それで償うべきととらえている部分があります」と述べた。
 弁護側は、青葉被告自身が事件で重いやけどを負い、周りの介助を受けてきたとし、心境に変化があったかと尋ねた。青葉被告は「昔ほど徹底的にやり返したいという考え方は減った。早く拘置所に来ていれば、こんな事件を起こさなかったのではないか」と答えた。
 被害者参加制度を利用した遺族は、京アニ作品「涼宮ハルヒの憂鬱」への思いを問われ、青葉被告は「今も好きであり、手本にするべき作品だと思うが、出会わなければ事件を起こし得なかった」と答えた。青葉被告が主張する「京アニによる盗用」が今も許せないのかと質問には、「そういう感情は薄れてきた」とし、京アニに対しては「犯罪をやった当初は怒りが残っていたが、今は申し訳ない気持ちが大きい」と述べた。一方、遺族の代理人弁護士が「多くの死傷者が出ると思わなかったのか」と質問すると、青葉被告は「構造上のせいにするわけではないが、火が早く回りすぎて多くの人が亡くなったと聞き、ツキや運がなかったことも否定できない」と述べた。
 裁判長から「ご遺族の方々、助かった被害者の方、あなたからそういう方に何か声をかけようとしたら、どういうことを言いたいか」と問われ、「申し訳ございませんでした」「やはりそこまでしなければならなかったのかという思いがどこかにある」と答えた。

 12月7日の論告求刑公判で、検察側は「36人の尊い命が奪われ、34人が命を奪われかけた。日本刑事裁判史上、突出して被害者数が多い」と述べた。そして「地獄さながらの状況にさらされた恐怖、絶望感は筆舌に尽くしがたい。亡くなった被害者の無念さは察するにあまりある」と述べた。また、「被害者の多くは非常に重篤な後遺症を伴う全身やけどなどの傷害を負った。被害にあった精神的苦痛のほか、同僚の多数が亡くなったことによる苦しみも極めて大きい」とし、さらに「アニメ制作の拠点が全焼して全従業員の4割が被害にあい、会社にも甚大な損害を与えた」とした。
 さらに「犯行態様は残虐で、従業員を一瞬にして阿鼻叫喚の渦に巻き込む非道極まりない犯行だ」と非難。動機についても「筋違いの恨みこそが犯行動機の本質。人生の行き詰まりを何の落ち度もない京アニらに責任転嫁する、理不尽そのもので身勝手極まりないものだ」と非難した。
 妄想の影響については、「現実ベースで生じた筋違いの恨みを強化した程度」であり、影響程度は限定的と主張した。さらに青葉被告が事件3日前に居住地の埼玉から京都に移動し、ガソリンを購入するなど犯行の準備をしたと指摘。事件直前、現場近くの路地で十数分間逡巡したことも挙げ、「引き返すこともできたのに実行した。強固な殺意を犯行まで抱き続けた」と主張した。そして「被害者遺族らの処罰感情も強く、社会駅影響も大きい」「反省の弁も極めて皮相的」として極刑を選ぶべきと述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、被告の首の皮がやけどで薄くなっていることを踏まえ、絞首刑は憲法で禁じられている残虐な刑罰に当たると主張した。また責任能力について、被告は永年妄想性障害に苦しまれ、さらに事件前4か月間は服薬もせず、妄想や幻聴が生まれ続けている状況だったと主張。心神喪失、もしくは責任能力が大きく減退している状況で無罪を選ぶべきと主張。仮に心神耗弱にも至らないと判断されても、それにほぼ近い状態であり、減軽すべきと述べた。
 さらに被告は建物の中の人数やスタジオの構造も知らず、大きな被害を及ぶことは想定していなかったとして、「前代未聞の大変な火災が起こるということを被告は当時予期できていなかった」と訴えた。
 そして「被害者遺族の処罰感情は、十分にくみ取られるべきものだが、守られる一線があり、考慮は限定的にするべきだ。処罰感情が峻烈だからといって、死刑にしてはいけない」と主張し、「被告には改善の可能性があり、服薬の継続で精神状態が安定した。周囲のサポートで、感謝の気持ちも生まれており、死刑を選択するべきではない」と訴えた。
 最終意見陳述で青葉被告は、「質問などに答えることは自分のできる範囲でやってきたので、この場において付け加えることはございません」と述べた。

 2024年1月25日の判決で増田裁判長は、「有罪判決ですが、主文は後回しにします」と最初に述べた。
 起訴前の鑑定の中で、妄想に関する部分については、その時点で「闇の人物」の妄想などを供述していなかった点で採用できないとした。その上で、起訴後の鑑定を重点的に検討。家族の証言やアルバイト時の行動などから、「青葉被告は独善性、猜疑心が強い、怒りやすい、攻撃行動をしやすいという性格傾向があると認められる」とした。そして「小説を盗用されたなどの被告の妄想から、京アニや監督を攻撃するという動機の形成に影響している」とした。しかし、「攻撃の範囲や京アニ全体への放火殺人という手段を選択した点には影響しておらず、秋葉原事件の犯人に共感するなど自身の考え方や知識から選択しており、妄想の影響はほとんど認められない」とした。また「犯行直前に逡巡したり、犯行準備時は人との接触を最小限にとどめるなど、合理的な行動をとり、善悪を区別していた」とした。そして「犯行当時、善悪を区別する能力やその区別に従って犯行を思いとどまる能力は、いずれも著しく低下していなかったと認められ、完全な刑事責任能力があった」と認めた。
 また、絞首刑を合憲とした過去の最高裁判例を引用し、「絞首刑自体は残虐な刑罰にあたらず、憲法に違反しない」と述べ、弁護側の主張を退けた。
 そして、「36人の命が奪われた結果は重大で悲惨」「生命の危機にひんした34人の被害者らが受けた肉体的、精神的苦痛もまた重大」と指摘。さらに「全従業員の4割が被害に遭い、2割が亡くなり、売り上げや作品の制作ペースは半分以下となった」として会社に与えた損害も重大と述べた。また建物の構造などの影響は限定的で、ガソリンを使って放火した青葉被告の刑事責任が減じられるものではないと、弁護側の主張を退けた。
 そして「強固な殺意に基づく計画的な犯行で、残虐非道。会社や被害者に一切の落ち度はない」と強く非難。「遺族の多くが厳重な処罰を訴え、極刑を望むことも当然」とし、「著名なアニメ作品を生み出し、感銘を与えていた会社の社屋を全焼させ、社会に衝撃を与えた」と述べた。そして「罪責は極めて重く、動機の形成に妄想性障害が影響している。一応の反省の情を示したことを最大限考慮しても、死刑を持って臨むしかない」とした。
 増田裁判長は最後に「主文を告げます。被告人よろしいですか」と確認した。語気を少し強めて「被告人を死刑に処する」。2度繰り返した。青葉被告は大きく頭を下げた。説諭はしなかった。

 青葉被告の弁護人は、1月26日に控訴した。青葉被告本人も、2月7日付で控訴した。
備 考
 青葉真司被告は2012年6月、茨城県のコンビニで販売店員に包丁を突き付け、2万円余りを奪った。約10時間後に自首。懲役3年6月の実刑判決を受けて10月、水戸刑務所に入った。出所3か月前の2015年10月には担当医が統合失調症と(確定)診断した。2016年1月に出所し、更生保護施設に移った。
 本事件を受け総務省消防庁は省令を改正し、ガソリン小分け販売時には身元と使用目的を確認することを義務付けた。
 京都市消防局は生存者への聞き取りなどに基づき2020年3月、放火被害に遭った際などに命の危険を低減させる方法を列挙したマニュアルを策定。他市の消防局でも独自の避難マニュアルを作成したり、京都市マニュアルを生かした訓練や指導を実施している。
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氏 名
佐藤翔一
事件当時年齢
 36歳(2021年10月15日逮捕当時)
犯行日時
 2020年2月2日
罪 状
 強盗殺人、住居侵入
事件名
 宇佐市親子強盗殺人事件
事件概要
 大分市在住の会社員、佐藤翔一被告は2020年2月2日午後7時22分~56分の間に、大分県宇佐市安心院町に住む農業の女性(当時79)方に侵入。午後10時20分までの間に、女性と長男で郵便配達員の男性(当時51)の首などを包丁やはさみで多数回突き刺して殺害したうえ、女性の現金を少なくとも約54,000円を奪った。
 佐藤被告と親子に面識はなかった。佐藤被告はかつて宇佐市に住んでおり、土地勘もあった。
 翌日、男性の同僚から連絡を受けた近所の人が、カーテンに血が付いているのを見つけて通報した。警察官が2人の遺体を発見し、県警は5日に捜査本部を設置した。
 大分県警は2021年10月15日、佐藤被告を強盗殺人容疑で逮捕した。
一 審
 2024年7月2日 大分地裁 辛島靖崇裁判長 死刑判決
判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2024年5月20日の初公判で、佐藤翔一被告は「全てやっていません。僕は犯人ではありません」と起訴内容を否認し、無罪を主張した。
 検察側は冒頭陳述で、「被告は家族に内緒にしていた消費者金融の借金約160万円の返済に困り窃盗に入ろうと考えた。山あいの一軒家に窃盗に入ろうと考え、遅くとも事件2日前までに被害者方に狙いを定めて盗みに入ると決めたと述べた。そして犯行当日は、「温泉に行く」などと家族にうそを言い、1人で車に乗って自宅を出発。その途中、ロケーション履歴を利用したアリバイ工作のために、位置情報を表示するスマートフォンを宇佐市安心院町にある史跡の駐車場に放置した」と主張。そして、「被害者方付近の道路脇に車を駐車し、2日前に購入した運動靴、ゴム手袋、ジャンパーを身に着けるなどして家に侵入。2人と出くわしたことから殺害して現金を奪った。その後、ダイニングの床の上に掃除機をかけ、そのヘッド部分を持ち去り、複数人の犯行に見せかけるため、被害者方にあった4種類の履物による足跡を残した。犯行後、被告は放置していたスマートフォンを回収。由布市内のコインランドリーでジャンパーや持ち去ってきた履物を洗濯し、ゴミ集積場に投棄。翌日には借金の返済として現金1万4000円を入金した」と説明した。事件当日に佐藤被告が運転していた車のトランクから被害者のDNA型と完全に一致する血痕が検出されたことや、現場に残された足跡のうちの一つについて、被告が事前に購入していた運動靴の底の模様と一致したなどと主張。そして事件3日後には、自ら警察に嘘の電話をかけアリバイ工作などを行ったと指摘。被告が「事件の2日前にプロレスマスクをした男から謝礼と引き換えに動画撮影の協力や運動靴の購入を頼まれ、事件当日は血の付いた服や靴などの処分を依頼された」などと供述した点について、検察側は「信用できない」と主張した。
 弁護側は「公訴事実記載の事実については存在しない。被告は被害者方に侵入していないし、殺害もしていない」と反論。佐藤被告が事件当時に現場近くにいたのは、事前に宇佐市内で出会った覆面をした集団の依頼を受けて車の運転などをしていたからだと主張。「(佐藤被告は)事件当時、複数の覆面の第三者と指示を受けて一部行動を共にしていて、謝礼と引き換えに撮影に協力するということになっていた。この複数の第三者が真犯人だと思う。事件後に借金は返済し、また自ら警察に情報を提供。犯行を示す証拠がなく、事件に巻き込まれた可能性がある」などとして、検察側の証拠は不十分であり、被告の無罪を訴えた。
 21日の第2回公判で、司法解剖をした大分大医学部の名誉教授が証人尋問に出廷。尋問を受けた名誉教授は「致命傷を負ってから女性は5~15分後、男性は30分~1時間後に亡くなった」と推定。「単独犯で殺害は十分に可能」と述べた。一方で弁護側の質問に対し、複数犯説も否定しなかった。2人には死後、千枚通しなどで多数の傷が付けられていたことも明らかになった。凶器は他に菜切り包丁、はさみ、木製の箸が使われたという。
 23日の第3回公判で、被告の母と妻が弁護側証人として出廷した。妻は事件当日夜の被告の行動について、夕方に温泉へ行くと言って外出した後、連絡が取れない時間があった。深夜に帰宅した後、翌日の午前4時半頃に買い物へ出かけた。普段と変わった様子は無かった」と証言した。そして妻は、事件から3日後の2020年2月5日朝、被告から「自分は宇佐の事件に巻き込まれたかもしれない」と自宅で言われたと説明。妻が被告から聞いた話によると、被告は1月31日、謝礼を受け取る代わりに「ユーチューバー」を名乗るプロレスマスク姿の人物に車を貸した。事件当日の2月2日にも協力を頼まれたため、撮影用の運動靴を買って、覆面姿の3人に車と靴を提供。数時間後に戻ってきた1人から「トランクにごみを積んだ」と告げられ、確認すると血の付いた服があった。被告は「コインランドリーで洗って処分した」と妻に説明したという。妻は「おびえているように見え、すぐに警察に情報提供をするように勧めた」。被告は自ら通報し、同日午後9時ごろまで警察で事情聴取を受けた。妻は「夫はやっていないと信じている」と無罪を訴えた。
 24日の第4回公判における証拠の取り調べで、検察側は、佐藤被告の車は2019年3月ごろから民家近くの道路を通るようになり、7月以降に頻度が増えた。カーナビの位置情報から、事件当日の2020年2月2日午後7時20分ごろから午後10時20分ごろまで、現場周辺に停車していたと説明した。一方で、同じ時間帯に被告のスマートフォンの位置情報は直線距離で2.9km離れた駐車場を示していた。検察側は「被告はスマホを駐車場に置いて、車で民家に向かった。その後、スマホを回収した」と述べ、アリバイ工作の可能性を主張した。被告は3日未明から4日夜にかけて、インターネットで「宇佐市 事件」「プロレスマスク」「死刑回避」を検索。ほかに刑事事件に強い弁護士や、車に血液が付いた場合のしみ抜き方法、警察に逮捕される前兆なども調べていたと説明した。また検察側は、佐藤被告が事件翌日に大分市内の店で雑巾などを購入し、その次の日には別府市内の店で洗剤などを買う様子が映っていた防犯カメラの画像を公開した。
 この日は事件当時、捜査にあった警察官が証人として出廷。佐藤被告が事件直後の事情聴取で「プロレスマスクの男からハサミを渡されたが、血が付いていなかったと説明していた」と証言した。凶器には包丁やハサミなどが使用されているが、当時、公表されていなかった。取り調べた警察官は「佐藤被告は興奮した様子でハサミも凶器になると話していた」と供述内容を明らかにした。一方、弁護側は「供述調書の内容について被告に確認していない」と指摘した。
 27日の第5回公判で、鑑定を担った県警科学捜査研究所の職員が出廷出廷。家の中にあったバッグや固定電話に付いていた血痕について、DNA鑑定の結果、殺害された親子のものだったと説明した。そして証人尋問で、「佐藤被告の車のトランクに女性のDNA型と一致する血痕があった」と説明した。弁護側は被告の車のトランクから発見された結婚について質問。職員は「血痕からは佐藤被告や被害者親子とは異なるDNAがみつかった」と話した。第三者の男性の血痕については「大きさは1~2ミリ。男性とも被告の型とも合わず、誰のものかは分からない」と述べた。検察側からの質問に対し、職員は「同じDNAは被害者の自宅からは出ていない」「由来がわからないDNAが検出されることもある」と証言した。検察側はこの日、室内に残された女性のショルダーバッグや財布などに付いた血痕の鑑定結果を示したものの、佐藤被告と一致するDNA型はなかったと述べた。また、殺害現場のダイニングルームにあった掃除機の中には6本の毛髪が残っていた。このうち、血の付いた1本からは女性と男性双方のDNA型が検出された。残る5本は「十分な細胞が毛根になかった」などの理由で鑑定できなかったと述べた。
 29日の第6回公判で、現場で見つかった足跡や、血の付いた靴下痕の証拠調べが始まり、分析を担当した県警職員が出廷した。 職員は「鑑定できた靴下痕22個のうち、13個は靴下の特徴から殺害された男性のもの」と証言。残り9個については「繊維の特徴から同じ種類のものと言えるが、誰の足跡か特定まではできない」と説明した。これに対し、弁護側は鑑定方法について「被害者の足のサイズをきちんと測定していない」などと信頼性について反論した。
 30日の第7回公判で現場に残された血の付いた靴下痕3つの証拠調べが行われ、鑑定を担当した産業技術総合研究所の研究者が出廷した。研究者は「日本人の成人男性の平均データと比べて被告の足幅は非常に広く、小指に珍しい特徴があり、靴下痕と同一の物であっても矛盾しない」などと説明した。弁護側は「足裏の比較対象を予め日本人の男性に絞っていて、鑑定方法に偏りがある」などと、鑑定結果の不十分さを指摘した。
 31日の第8回公判で、現場に残された靴の足跡の証拠調べがあり、分析を担当した県警職員が出廷した。県警職員は「運動靴の足跡は、被告が購入した靴とおおむね同じ特徴で、矛盾はない」と証言した。これに対し、弁護側は「靴底の足跡からは誰が履いていたかは分からない」と反論した。
 6月10日の第9回における被告人質問で、佐藤被告は弁護側からの質問に対する新たな証言として、事件当日、動画撮影のためにユーチューバーを名乗るプロレスマスクの男たちと合流し、このうち1非血を車に乗せて現場近くまで移動したと説明。その後、男から「交通事故があり撮影ができず、運動靴や血の付いた服の入ったゴミ袋を処分してほしい」と頼まれ、コインランドリーで洗濯してから捨てたと説明。また、佐藤被告の携帯電話に「殺人犯が捕まるまで」と検索履歴があったことに対し、プロレスマスクの男と、現場付近にいたことなどから「大量殺人をなすりつけられて自分が誤って捕まるのではないかと不安になった」と説明した。公判の最後で佐藤被告は「証拠の全てに目を通して信じてほしい。僕は犯人ではありません」と改めて無実を訴えた。
 11日の第10回公判における被告人質問で、検察側がこれまでの「プロレスマスクの男に車を貸した」という供述と内容が変わっており、矛盾していると質問、佐藤被告は供述が変わっていることを認めたうえで、「現場付近にいたと言ったら、男から報復と自分の関与を疑われると思ったから」と説明した。また、この男の連絡先を聞かなった理由については、「報酬をもらったので、わざわざ自分にいたずらをするとは思わなかったので。聞かなかった」と話した。男から処分を依頼されたと主張する血の付いた服などについては「交通事故で飛び散った血を拭く際に服を使ったと聞いた。話を信じていた」と述べた。
 12日の第11回公判における被告人質問で、検察側は供述内容が変わったことについて、再度質問、佐藤被告は「男たちは大量殺人犯でその濡れ衣を着せられると思った。自分と家族が男から襲われると思ったから」と説明した。また、弁護側からの質問では「自分が疑われているので、法廷で真実を言うように弁護士のアドバイスに従った」と話した。被害者参加人として遺族の男性が、殺害された親子に対しての思いを質問すると、佐藤被告は「悲しい事件だが、遺族が本当の犯人を目の当たりにしていないことが不幸で残酷な事実。証拠の一つ一つに目をつむらず、ちゃんと見てほしい」と述べ、引き続き、無罪を主張した。
 17日の第12回公判で検察側の論告に先立って行われた被害者遺族の意見陳述で、遺族3人が出廷。女性の次男は「被告が犯人だと確信している。荒唐無稽な主張は被害者をさらに苦しめる。真実が分からないことが苦しい。犯人を絶対に許せない」と語気を強め、「なぜ殺されたのか、事実を説明してほしかった。私たちの傷は一生消えないし、被告を許すことは一生ありません」などと意見を述べ、死刑を求めた。事件当時高校生だった男性の娘は事件直前、男性から進路について「応援するけん、頑張れよ」と声をかけてもらったばかりだった。死後、父親が自分の名義で貯金をしていたことが分かり、「父にありがとうと言いたいが、かなわなくなった。悔やんでも悔やみきれない」と話した。男性の妻も「(夫は)今でも生きている気がする。もっと娘の話をしたかった」と声を震わせた。
 論告で検察側は、佐藤被告には妻らに隠していた借金があり、「盗みに入るという動機に結びついた」と強調。現場で見つかった血液の付着した靴下の足跡が被告の足形と類似していたほか、被告の車の中にあった遺留物から被害女性とDNA型が一致する血液が検出されており、現場に残された足跡も佐藤被告が事前に購入していた運動靴と一致していたと主張。また、事件当日、宇佐市内の駐車場にスマートフォンを放置して位置情報を利用したアリバイ作りをし、事件翌日には自身の口座に計4万円、消費者金融に14,000円を入金したことなどに触れ、「被告が犯人であると認められる」と述べた。そして「別に犯人がいるかのようなウソのストーリーを重ね、客観的な証拠と矛盾があればその都度上塗りし続けて供述が変遷するなど、全く信用できない」と主張。「被告には借金があり無関係の被害者の自宅に窃盗に入り、2人に出くわしたため殺害した。強い社会的非難に値する残虐で極めて強固な殺意に基づく犯行で、人命の軽視も甚だしい。落ち度のない2人の命が失われた結果は重大で、遺族の処罰感情も強い。事件に向き合う姿勢は皆無。更生の可能性は乏しく死刑が相当」と述べた。
 最終弁論で弁護側は、弁護側は複数の凶器が使用されたことに言及し、「(単独犯とすれば)凶器を不必要に変更している」として複数犯の可能性を指摘した。また被告の車の中で見つかった血痕の鑑定で、被害者2人と被告以外のDNA型が検出されたことなどから、第三者の犯行だと反論した。佐藤被告が自ら警察に事件について話したことも「メリットがなく、犯人であればあまりに不自然」とした。そして「検証が不十分で被告のものではない。検察の主張は被告が犯人ではなくても説明が可能だ。被告が犯人であることの決定的な事実はない」と無罪を訴えた。
 最終意見陳述で佐藤被告は「この法廷でうそはありません。犯人がとても憎い。無実の人間が犯人として仕立て上げられている現実に恐怖しかない。僕は犯人ではありません。全ての証拠を先入観なく見てほしい」と述べ、改めて無罪だと訴えた。
 辛島裁判長は主文を後回しにし、判決理由を読み上げた。
 辛島裁判長は、「被害者宅付近に事件当時あった同被告の普通乗用車のトランクから、被害女性の血液が採取されたことは、被告が犯人であることを強く推認させる」と指摘。さらに「被害者宅に残された靴下の足跡と被告の足の形が、特徴的な形状が共通している。さらに室内にあった運動靴の跡は、被告が2日前に購入したものと特徴が似ている。そして被告が事件の2日後に靴を捨てた不審な行動を加えると、被告が被害者方に存在していたと強く推認できる」と述べた。また、「事件の翌日、翌々日に「灯油に火をつける」「殺人犯が捕まるまで」「血液 車 落とすには」などと検索していたことは、犯行の隠滅工作を図ったものと評価できる」とした。
 奪われた金額については、検察側は女性の日記やレシートなどから約88,000円と主張したが、弁護側の主張通り、記録に残らない支出がなかったとは言い切れないとしたうえで、「被告が事件翌日に自身の口座に入金した約40,000円と、消費者金融に返済した約14,000円の計約54,000円が奪われた金額である」とし、さらに「特段の臨時収入があったわけではなく、54,000円の現金を手にしていており、被告が消費者金融から借り入れしていたことを妻や両親に話していないことから、借金返済に充てる資金欲しさに侵入計画したとしても不自然ではない」と動機を述べた。
 被告の供述の信用性については、「プロレスマスクを被った見ず知らずの男から声を掛けられたのに、依頼に応じて車で送迎したり、血の付いた衣類が入ったビニール袋を処分するという内容自体、余りに不自然、不合理である」と批難。さらに「供述通りであると、男らは無関係の被告を犯行に巻き込んでいるが、発覚のリスクを増大させるものであり、到底考えられるものではない。被告の供述は信用できない」と被告の主張を退けた。
 弁護側の複数犯主張に対しては、「犯人は証拠隠滅工作の一環で多数の足跡を残した可能性が考えられる。また証人の科学捜査研究所職員の供述によれば、さまざまな荷物や人が乗る車内から第三者のDNA型が検出されるのは、ありふれた事象といえる。また被害者宅から被告の毛髪や結婚、指紋が見つかっていないことは、犯人が殺害後に掃除機をかけるなどの隠滅工作を行ったと合理的に推認できる」と否定。さらに被告が事件後間もなく、自ら上司や妻、警察に事件の話をしたことについても、「被告がプロレスマスクの男に車を貸すなどした虚偽の弁解を考え出し、それに沿った行動を取ったとの見方も成り立ち得る」として、不自然ではないとした。
 以上から、裁判長は「被告が本件の犯人であると優に認められ、合理的な疑いを差し挟む余地はない」と結論付けた。
 量刑については「被害者2人をはさみなどでそれぞれ数十回刺すなど極めて強固な殺意に基づく執拗かつ残酷なもの。何ら落ち度のない2名の生命が奪われた結果は重大で、遺族らの悲痛な感情は理解できる。自己中心的で身勝手な動機に酌量の余地はなく、生命軽視の態度は強い社会的非難に値する。種々の証拠隠滅工作に及び、公判でも不合理な弁解を続け、反省の態度を示していない。刑事責任は極めて重大だと言わざるを得ない」と断じた。そして「侵入当初から殺害を計画していたものではないこと、前科がなかったことなどを考慮しても、死刑を選択することはやむを得ない」と述べた。

 弁護側は即日控訴した。
備 考
 
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