佐藤翔一 | |
36歳(2021年10月15日逮捕当時) | |
2020年2月2日 | |
強盗殺人、住居侵入 | |
宇佐市親子強盗殺人事件 | |
大分市在住の会社員、佐藤翔一被告は2020年2月2日午後7時22分~56分の間に、大分県宇佐市安心院町に住む農業の女性(当時79)方に侵入。午後10時20分までの間に、女性と長男で郵便配達員の男性(当時51)の首などを包丁やはさみで多数回突き刺して殺害したうえ、女性の現金を少なくとも約54,000円を奪った。 佐藤被告と親子に面識はなかった。佐藤被告はかつて宇佐市に住んでおり、土地勘もあった。 翌日、男性の同僚から連絡を受けた近所の人が、カーテンに血が付いているのを見つけて通報した。警察官が2人の遺体を発見し、県警は5日に捜査本部を設置した。 大分県警は2021年10月15日、佐藤被告を強盗殺人容疑で逮捕した。 | |
2024年7月2日 大分地裁 辛島靖崇裁判長 死刑判決 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) | |
裁判員裁判。 2024年5月20日の初公判で、佐藤翔一被告は「全てやっていません。僕は犯人ではありません」と起訴内容を否認し、無罪を主張した。 検察側は冒頭陳述で、「被告は家族に内緒にしていた消費者金融の借金約160万円の返済に困り窃盗に入ろうと考えた。山あいの一軒家に窃盗に入ろうと考え、遅くとも事件2日前までに被害者方に狙いを定めて盗みに入ると決めたと述べた。そして犯行当日は、「温泉に行く」などと家族にうそを言い、1人で車に乗って自宅を出発。その途中、ロケーション履歴を利用したアリバイ工作のために、位置情報を表示するスマートフォンを宇佐市安心院町にある史跡の駐車場に放置した」と主張。そして、「被害者方付近の道路脇に車を駐車し、2日前に購入した運動靴、ゴム手袋、ジャンパーを身に着けるなどして家に侵入。2人と出くわしたことから殺害して現金を奪った。その後、ダイニングの床の上に掃除機をかけ、そのヘッド部分を持ち去り、複数人の犯行に見せかけるため、被害者方にあった4種類の履物による足跡を残した。犯行後、被告は放置していたスマートフォンを回収。由布市内のコインランドリーでジャンパーや持ち去ってきた履物を洗濯し、ゴミ集積場に投棄。翌日には借金の返済として現金1万4000円を入金した」と説明した。事件当日に佐藤被告が運転していた車のトランクから被害者のDNA型と完全に一致する血痕が検出されたことや、現場に残された足跡のうちの一つについて、被告が事前に購入していた運動靴の底の模様と一致したなどと主張。そして事件3日後には、自ら警察に嘘の電話をかけアリバイ工作などを行ったと指摘。被告が「事件の2日前にプロレスマスクをした男から謝礼と引き換えに動画撮影の協力や運動靴の購入を頼まれ、事件当日は血の付いた服や靴などの処分を依頼された」などと供述した点について、検察側は「信用できない」と主張した。 弁護側は「公訴事実記載の事実については存在しない。被告は被害者方に侵入していないし、殺害もしていない」と反論。佐藤被告が事件当時に現場近くにいたのは、事前に宇佐市内で出会った覆面をした集団の依頼を受けて車の運転などをしていたからだと主張。「(佐藤被告は)事件当時、複数の覆面の第三者と指示を受けて一部行動を共にしていて、謝礼と引き換えに撮影に協力するということになっていた。この複数の第三者が真犯人だと思う。事件後に借金は返済し、また自ら警察に情報を提供。犯行を示す証拠がなく、事件に巻き込まれた可能性がある」などとして、検察側の証拠は不十分であり、被告の無罪を訴えた。 21日の第2回公判で、司法解剖をした大分大医学部の名誉教授が証人尋問に出廷。尋問を受けた名誉教授は「致命傷を負ってから女性は5~15分後、男性は30分~1時間後に亡くなった」と推定。「単独犯で殺害は十分に可能」と述べた。一方で弁護側の質問に対し、複数犯説も否定しなかった。2人には死後、千枚通しなどで多数の傷が付けられていたことも明らかになった。凶器は他に菜切り包丁、はさみ、木製の箸が使われたという。 23日の第3回公判で、被告の母と妻が弁護側証人として出廷した。妻は事件当日夜の被告の行動について、夕方に温泉へ行くと言って外出した後、連絡が取れない時間があった。深夜に帰宅した後、翌日の午前4時半頃に買い物へ出かけた。普段と変わった様子は無かった」と証言した。そして妻は、事件から3日後の2020年2月5日朝、被告から「自分は宇佐の事件に巻き込まれたかもしれない」と自宅で言われたと説明。妻が被告から聞いた話によると、被告は1月31日、謝礼を受け取る代わりに「ユーチューバー」を名乗るプロレスマスク姿の人物に車を貸した。事件当日の2月2日にも協力を頼まれたため、撮影用の運動靴を買って、覆面姿の3人に車と靴を提供。数時間後に戻ってきた1人から「トランクにごみを積んだ」と告げられ、確認すると血の付いた服があった。被告は「コインランドリーで洗って処分した」と妻に説明したという。妻は「おびえているように見え、すぐに警察に情報提供をするように勧めた」。被告は自ら通報し、同日午後9時ごろまで警察で事情聴取を受けた。妻は「夫はやっていないと信じている」と無罪を訴えた。 24日の第4回公判における証拠の取り調べで、検察側は、佐藤被告の車は2019年3月ごろから民家近くの道路を通るようになり、7月以降に頻度が増えた。カーナビの位置情報から、事件当日の2020年2月2日午後7時20分ごろから午後10時20分ごろまで、現場周辺に停車していたと説明した。一方で、同じ時間帯に被告のスマートフォンの位置情報は直線距離で2.9km離れた駐車場を示していた。検察側は「被告はスマホを駐車場に置いて、車で民家に向かった。その後、スマホを回収した」と述べ、アリバイ工作の可能性を主張した。被告は3日未明から4日夜にかけて、インターネットで「宇佐市 事件」「プロレスマスク」「死刑回避」を検索。ほかに刑事事件に強い弁護士や、車に血液が付いた場合のしみ抜き方法、警察に逮捕される前兆なども調べていたと説明した。また検察側は、佐藤被告が事件翌日に大分市内の店で雑巾などを購入し、その次の日には別府市内の店で洗剤などを買う様子が映っていた防犯カメラの画像を公開した。 この日は事件当時、捜査にあった警察官が証人として出廷。佐藤被告が事件直後の事情聴取で「プロレスマスクの男からハサミを渡されたが、血が付いていなかったと説明していた」と証言した。凶器には包丁やハサミなどが使用されているが、当時、公表されていなかった。取り調べた警察官は「佐藤被告は興奮した様子でハサミも凶器になると話していた」と供述内容を明らかにした。一方、弁護側は「供述調書の内容について被告に確認していない」と指摘した。 27日の第5回公判で、鑑定を担った県警科学捜査研究所の職員が出廷出廷。家の中にあったバッグや固定電話に付いていた血痕について、DNA鑑定の結果、殺害された親子のものだったと説明した。そして証人尋問で、「佐藤被告の車のトランクに女性のDNA型と一致する血痕があった」と説明した。弁護側は被告の車のトランクから発見された結婚について質問。職員は「血痕からは佐藤被告や被害者親子とは異なるDNAがみつかった」と話した。第三者の男性の血痕については「大きさは1~2ミリ。男性とも被告の型とも合わず、誰のものかは分からない」と述べた。検察側からの質問に対し、職員は「同じDNAは被害者の自宅からは出ていない」「由来がわからないDNAが検出されることもある」と証言した。検察側はこの日、室内に残された女性のショルダーバッグや財布などに付いた血痕の鑑定結果を示したものの、佐藤被告と一致するDNA型はなかったと述べた。また、殺害現場のダイニングルームにあった掃除機の中には6本の毛髪が残っていた。このうち、血の付いた1本からは女性と男性双方のDNA型が検出された。残る5本は「十分な細胞が毛根になかった」などの理由で鑑定できなかったと述べた。 29日の第6回公判で、現場で見つかった足跡や、血の付いた靴下痕の証拠調べが始まり、分析を担当した県警職員が出廷した。 職員は「鑑定できた靴下痕22個のうち、13個は靴下の特徴から殺害された男性のもの」と証言。残り9個については「繊維の特徴から同じ種類のものと言えるが、誰の足跡か特定まではできない」と説明した。これに対し、弁護側は鑑定方法について「被害者の足のサイズをきちんと測定していない」などと信頼性について反論した。 30日の第7回公判で現場に残された血の付いた靴下痕3つの証拠調べが行われ、鑑定を担当した産業技術総合研究所の研究者が出廷した。研究者は「日本人の成人男性の平均データと比べて被告の足幅は非常に広く、小指に珍しい特徴があり、靴下痕と同一の物であっても矛盾しない」などと説明した。弁護側は「足裏の比較対象を予め日本人の男性に絞っていて、鑑定方法に偏りがある」などと、鑑定結果の不十分さを指摘した。 31日の第8回公判で、現場に残された靴の足跡の証拠調べがあり、分析を担当した県警職員が出廷した。県警職員は「運動靴の足跡は、被告が購入した靴とおおむね同じ特徴で、矛盾はない」と証言した。これに対し、弁護側は「靴底の足跡からは誰が履いていたかは分からない」と反論した。 6月10日の第9回における被告人質問で、佐藤被告は弁護側からの質問に対する新たな証言として、事件当日、動画撮影のためにユーチューバーを名乗るプロレスマスクの男たちと合流し、このうち1非血を車に乗せて現場近くまで移動したと説明。その後、男から「交通事故があり撮影ができず、運動靴や血の付いた服の入ったゴミ袋を処分してほしい」と頼まれ、コインランドリーで洗濯してから捨てたと説明。また、佐藤被告の携帯電話に「殺人犯が捕まるまで」と検索履歴があったことに対し、プロレスマスクの男と、現場付近にいたことなどから「大量殺人をなすりつけられて自分が誤って捕まるのではないかと不安になった」と説明した。公判の最後で佐藤被告は「証拠の全てに目を通して信じてほしい。僕は犯人ではありません」と改めて無実を訴えた。 11日の第10回公判における被告人質問で、検察側がこれまでの「プロレスマスクの男に車を貸した」という供述と内容が変わっており、矛盾していると質問、佐藤被告は供述が変わっていることを認めたうえで、「現場付近にいたと言ったら、男から報復と自分の関与を疑われると思ったから」と説明した。また、この男の連絡先を聞かなった理由については、「報酬をもらったので、わざわざ自分にいたずらをするとは思わなかったので。聞かなかった」と話した。男から処分を依頼されたと主張する血の付いた服などについては「交通事故で飛び散った血を拭く際に服を使ったと聞いた。話を信じていた」と述べた。 12日の第11回公判における被告人質問で、検察側は供述内容が変わったことについて、再度質問、佐藤被告は「男たちは大量殺人犯でその濡れ衣を着せられると思った。自分と家族が男から襲われると思ったから」と説明した。また、弁護側からの質問では「自分が疑われているので、法廷で真実を言うように弁護士のアドバイスに従った」と話した。被害者参加人として遺族の男性が、殺害された親子に対しての思いを質問すると、佐藤被告は「悲しい事件だが、遺族が本当の犯人を目の当たりにしていないことが不幸で残酷な事実。証拠の一つ一つに目をつむらず、ちゃんと見てほしい」と述べ、引き続き、無罪を主張した。 17日の第12回公判で検察側の論告に先立って行われた被害者遺族の意見陳述で、遺族3人が出廷。女性の次男は「被告が犯人だと確信している。荒唐無稽な主張は被害者をさらに苦しめる。真実が分からないことが苦しい。犯人を絶対に許せない」と語気を強め、「なぜ殺されたのか、事実を説明してほしかった。私たちの傷は一生消えないし、被告を許すことは一生ありません」などと意見を述べ、死刑を求めた。事件当時高校生だった男性の娘は事件直前、男性から進路について「応援するけん、頑張れよ」と声をかけてもらったばかりだった。死後、父親が自分の名義で貯金をしていたことが分かり、「父にありがとうと言いたいが、かなわなくなった。悔やんでも悔やみきれない」と話した。男性の妻も「(夫は)今でも生きている気がする。もっと娘の話をしたかった」と声を震わせた。 論告で検察側は、佐藤被告には妻らに隠していた借金があり、「盗みに入るという動機に結びついた」と強調。現場で見つかった血液の付着した靴下の足跡が被告の足形と類似していたほか、被告の車の中にあった遺留物から被害女性とDNA型が一致する血液が検出されており、現場に残された足跡も佐藤被告が事前に購入していた運動靴と一致していたと主張。また、事件当日、宇佐市内の駐車場にスマートフォンを放置して位置情報を利用したアリバイ作りをし、事件翌日には自身の口座に計4万円、消費者金融に14,000円を入金したことなどに触れ、「被告が犯人であると認められる」と述べた。そして「別に犯人がいるかのようなウソのストーリーを重ね、客観的な証拠と矛盾があればその都度上塗りし続けて供述が変遷するなど、全く信用できない」と主張。「被告には借金があり無関係の被害者の自宅に窃盗に入り、2人に出くわしたため殺害した。強い社会的非難に値する残虐で極めて強固な殺意に基づく犯行で、人命の軽視も甚だしい。落ち度のない2人の命が失われた結果は重大で、遺族の処罰感情も強い。事件に向き合う姿勢は皆無。更生の可能性は乏しく死刑が相当」と述べた。 最終弁論で弁護側は、弁護側は複数の凶器が使用されたことに言及し、「(単独犯とすれば)凶器を不必要に変更している」として複数犯の可能性を指摘した。また被告の車の中で見つかった血痕の鑑定で、被害者2人と被告以外のDNA型が検出されたことなどから、第三者の犯行だと反論した。佐藤被告が自ら警察に事件について話したことも「メリットがなく、犯人であればあまりに不自然」とした。そして「検証が不十分で被告のものではない。検察の主張は被告が犯人ではなくても説明が可能だ。被告が犯人であることの決定的な事実はない」と無罪を訴えた。 最終意見陳述で佐藤被告は「この法廷でうそはありません。犯人がとても憎い。無実の人間が犯人として仕立て上げられている現実に恐怖しかない。僕は犯人ではありません。全ての証拠を先入観なく見てほしい」と述べ、改めて無罪だと訴えた。 辛島裁判長は主文を後回しにし、判決理由を読み上げた。 辛島裁判長は、「被害者宅付近に事件当時あった同被告の普通乗用車のトランクから、被害女性の血液が採取されたことは、被告が犯人であることを強く推認させる」と指摘。さらに「被害者宅に残された靴下の足跡と被告の足の形が、特徴的な形状が共通している。さらに室内にあった運動靴の跡は、被告が2日前に購入したものと特徴が似ている。そして被告が事件の2日後に靴を捨てた不審な行動を加えると、被告が被害者方に存在していたと強く推認できる」と述べた。また、「事件の翌日、翌々日に「灯油に火をつける」「殺人犯が捕まるまで」「血液 車 落とすには」などと検索していたことは、犯行の隠滅工作を図ったものと評価できる」とした。 奪われた金額については、検察側は女性の日記やレシートなどから約88,000円と主張したが、弁護側の主張通り、記録に残らない支出がなかったとは言い切れないとしたうえで、「被告が事件翌日に自身の口座に入金した約40,000円と、消費者金融に返済した約14,000円の計約54,000円が奪われた金額である」とし、さらに「特段の臨時収入があったわけではなく、54,000円の現金を手にしていており、被告が消費者金融から借り入れしていたことを妻や両親に話していないことから、借金返済に充てる資金欲しさに侵入計画したとしても不自然ではない」と動機を述べた。 被告の供述の信用性については、「プロレスマスクを被った見ず知らずの男から声を掛けられたのに、依頼に応じて車で送迎したり、血の付いた衣類が入ったビニール袋を処分するという内容自体、余りに不自然、不合理である」と批難。さらに「供述通りであると、男らは無関係の被告を犯行に巻き込んでいるが、発覚のリスクを増大させるものであり、到底考えられるものではない。被告の供述は信用できない」と被告の主張を退けた。 弁護側の複数犯主張に対しては、「犯人は証拠隠滅工作の一環で多数の足跡を残した可能性が考えられる。また証人の科学捜査研究所職員の供述によれば、さまざまな荷物や人が乗る車内から第三者のDNA型が検出されるのは、ありふれた事象といえる。また被害者宅から被告の毛髪や結婚、指紋が見つかっていないことは、犯人が殺害後に掃除機をかけるなどの隠滅工作を行ったと合理的に推認できる」と否定。さらに被告が事件後間もなく、自ら上司や妻、警察に事件の話をしたことについても、「被告がプロレスマスクの男に車を貸すなどした虚偽の弁解を考え出し、それに沿った行動を取ったとの見方も成り立ち得る」として、不自然ではないとした。 以上から、裁判長は「被告が本件の犯人であると優に認められ、合理的な疑いを差し挟む余地はない」と結論付けた。 量刑については「被害者2人をはさみなどでそれぞれ数十回刺すなど極めて強固な殺意に基づく執拗かつ残酷なもの。何ら落ち度のない2名の生命が奪われた結果は重大で、遺族らの悲痛な感情は理解できる。自己中心的で身勝手な動機に酌量の余地はなく、生命軽視の態度は強い社会的非難に値する。種々の証拠隠滅工作に及び、公判でも不合理な弁解を続け、反省の態度を示していない。刑事責任は極めて重大だと言わざるを得ない」と断じた。そして「侵入当初から殺害を計画していたものではないこと、前科がなかったことなどを考慮しても、死刑を選択することはやむを得ない」と述べた。 弁護側は即日控訴した。 | |