板谷利加子『御直披―レイプ被害者が闘った、勇気の記録』(角川文庫)


発行:2000.9.25



 レイプは魂の殺人だ。それを公にできず、人知れず苦しんでいる被害者は、数知れない。そんな中、「御直披」(あなただけに読んでいただきたいのです。)と記され、著者の元に届けられた一通の手紙。それは傷ついた被害者が、犯罪に立ち向かおうとふりしぼった勇気の第一歩であった…。性犯罪捜査官の著者に支えられ、そして共に闘い、犯人に対して強姦罪としてはまれにみる有期最高刑・懲役20年の判決を勝ち取った被害者の魂の軌跡と、著者との胸を打つ心の交流を綴った、感動のノンフィクション。(粗筋紹介より引用)
 1998年1月、角川書店より刊行。

 女性にとって一番屈辱的な犯罪といえばレイプなのだろう。一部の男性にとってレイプというのはもっとも燃えるシチュエーションらしいのだが、私にはちょっと信じられない。レイプものを取り扱ったAVやマンガ、小説を見ただけで気持ち悪くなってしまう自分にとっては、レイプという行為そのものに罪悪感とやりきれなさを感じてしまうのだが、別の男にとってそれはただの快楽なのかもしれない。  1996年4月、全国に先駆けて神奈川県警に性犯罪捜査係が新設された。同時に性犯罪被害110番が設置され、本書の作者である板谷利加子警部補を筆頭に3人の女性捜査員が任命された。本書は1998年3月に被害を受けた26歳の女性が、作者に当てた一通の手紙から、レイプという被害から立ち直るまでの心の交流を綴ったノンフィクションである。
 レイプを受けたときの屈辱、悲しみ。さらに捜査官から受けた「処女でもないんだからいいんじゃないか」「精液反応が出ないから、本当に強姦されたかどうかわからない」などのセカンドレイプ。解説の国松前警視庁総監は「こういう無神経な暴言を吐く警察官が、そうざらにいるとは思えない」と書いているが、私はこれが今まで当たり前の警察官じゃなかったのではないかと思っている。警察は罪を犯した人を捕らえるところであり、被害者やその遺族を救済する場所ではない。長野・愛知連続4人強盗殺人事件の被害者の一人の長女は、飯田署から犯人扱いされ、長時間の取調べを受けたりするなどされている。警察による被害者や遺族たちの二次被害は今もなくなっていないのである。
 本書の事件の犯人は10数件の強盗・強姦事件で起訴。求刑通り懲役20年の判決を受けた。強姦事件に対する懲役は年々重くなっているが(これすらも一部人権屋からは非難の対象になっているのかな?)、被害を受けた女性にとっては傷ついたままだろう。レイプという被害から立ち直るための活動は、これからも続いていってほしいものだ。それと同時に、レイプという行為がなくなるよう、警察は努力してほしい。


目次は以下。

発端―ある日、一人の強姦被害者から一通の手紙が その日から私と彼女の往復書簡が始まった
抗議―処女でもないんだからいいじゃないか 精液反応がでない、「これでは本当に強姦されたかどうかわからないな」
謝罪―同じ警察官として心からお詑びします 強姦は魂の殺人に匹敵
あの日―あの日の午後十時 帰り道に二人の男がサッカーを
犯罪の手口―待ち伏せ、オートロックマンション 白昼堂々、十時間監禁
レイプ―マンションのゴミ捨て場で 殺されたくなかったら服を脱げ
事情聴取―犯罪は日常の裂け目 あなたの苦しみを私が受けとめます
告訴―犯行から六か月、遅くないなら今からでも訴えます
女性刑事―私が婦人警察官になった理由 刑事までに十一年かかりました
悪夢―夢を見ます 黒い手が私を引き裂く、そんな悪夢です
母の死―母が死にました 翼を折られた小鳥のように感じています
弔慰―大切な人の悲しむ姿を見るのはつらい でも、一緒に生きた年月は自分だけのもの
介護―母の介護と仕事の板ばさみ いつも退職願を持って歩いていました
心の闇―板谷さんに出会うまでの六か月 暗い闇の中をさまよっていました
判決―求刑通り二十年の判決 強姦罪としては最高刑です
宝石―傷はいつか心の宝石に だから逃げないで
回復―私は継ぎはぎだらけの人形 それをこそ誇りに生きています

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