合田一道+犯罪史研究会『日本猟奇・残酷事件簿』(扶桑社)


発行:2000.6.20



 『日本猟奇・残酷事件簿』の執筆は、筆者の早くからの課題でした。長らく新聞社で事件を担当してきて、猟奇事件や残虐犯罪がなぜ起きるのかについて思考を重ね、その深層に迫ろうとしたからにほかなりません。
 ところで猟奇・残酷とはどういう犯罪を指すのでしょうか。『広辞苑』によると、猟奇とは、怪奇・異常なものをあさり求めること、残酷は、きびしく無慈悲なこと。むごたらしいこと、と記されています。
 そこで膨大な犯罪データのなかから、それに該当すると思われるものを列挙し、範疇に入るものを選別しました。でも猟奇的な犯罪の匂いがするのに、実際はやむにやまれず犯した悲壮な事件であったり、逆に表面上はそれほどでもないのに、内実はゾッとするような意味を含んでいるものもあり、分類ラインをどこに引くかで判断に迷うこともしばしばでした。
 こうしてピックアップした事件を、明治、大正、昭和戦前、昭和戦後と四ブロックに分けて資料集めや調査、検討を重ねました。昭和戦後も昭和四十五年までのものと限定しました。この結果、特徴的な犯罪こそが、その時代の世相を背景にして起こるべくして起こっている、との印象を持ちました。しかも犯罪とは、単純、かつ偶発的に起きるのではなく、様々な要因を秘めているのを改めて実感しました。
 そのことは本文を読み進んでもらえば、おわかりいただけるものと思います。
 犯罪とは、時代を映す鏡、と筆者は定義づけていますが、いかがでしょうか。
 この本に携わったのは、筆者のほか、犯罪史研究会のメンバーたちです。二十代から六十代までいます。まずテーマを選定し、手わけして図書館に何度も足を運び、資料を集めて書き上げました。資料は当時の新聞、裁判記録、写真などほとんど完璧といえるほど集めたのですが、頁の関係からやむなく外しました。残念ですが、ご了承ください。
(以下略)

(「犯罪は時代を映す鏡――あとがきにかえて」より)


 筆者の合田一道(ごうだ・いちどう)は元北海道新聞の記者。在職中からノンフィクション作品を手掛ける。現在は北海道ノンフィクション集団代表(2000年当時)。
 タイトルの通り明治から昭和45年までの猟奇的な事件、残酷な事件を集めて並べて紹介したもの。一つの事件に割かれているページはせいぜい3〜5頁であり、事件の概要と背景、判決結果程度しか載っておらず、不満が残るところである。事件のセレクトも、必ずしも猟奇的とはいえない事件もあるし、人によってはなぜあの事件が載っていないんだ!という人もいるだろう。
 少なくとも、なぜ人はこのような残酷な事件を引き起こすのか、といった問いかけなどは全くないので、読んでいても拍子抜けしてしまうのだ。
 日本で起きた犯罪の一部を簡単に紹介したもの、という程度の評価した与えられないだろう。完璧といえるほどの資料を集めたというのなら、もっといくつかの事件に特化して書いてみれば、もっと違った面白いものが出来ただろうに。


【目 次】
■“御一新”時代のおぞましい犯罪―明治期
 役者と密通のうえ、主人を殺害 “毒婦夜嵐おきぬ”と呼ばれた女
 “毒婦”と化した“貞婦”お伝 不治の病の夫を持った妻の行く末
 新婦と父親が初夜に絶命 宮城県で起こった“仮の一夜”事件
 ピストル発射し、金品奪う 浜町河岸の大捕り物、ついに御用
 お茶の水の女性全裸死体 顔面に十三か所の切り傷
 墓番が墳墓を発掘し、生首を売る 大阪の人骨黒焼き事件
 少年を殺害、人肉エキスを飲ます 野口男三郎の臀肉事件
 「その反物は盗品の疑いがある」 刑事の名をかたり紬行商人を殺害
 色情狂、出っ歯の亀太郎 いまもその名を残す出歯亀事件
 行李詰めの女性の死体、善光寺に届く 顔に漆が塗られ真っ黒、そばに戒名

■狂気の犯罪が罷り通る怖さ―大正期
 信用させて真夜中に襲う 大米龍雲甘僧連続暴行殺人
 女性の局部に竹をぶすり 少年による串刺し殺人事件
 小口末吉のサド・マゾ事件 苦痛因楽症による自己破滅への道
 養育費目当てに貰い、死なす 陰に女の悲哀、常習貰い子殺し
 知識階級が犯した「鈴弁殺し」 トランク詰めバラバラ死体事件
 だまして連行、乱暴して殺害 吹上佐太郎少女連続凌辱事件
 ものも言わず撃ち殺す ピストル魔“ピス健事件”
 誰もいない幽霊船が海上に 三人乗り組みの運搬船で殺人
 「これでは泥棒に入られますよ」 防犯の心得を解く説教強盗事件

■“阿部定”に共通する複雑な女の犯罪―昭和戦前期
 女の頭部を切り、頭にかぶる 凄惨極まる男の首吊り死体
 八つに切られた男の死体 兄弟の犯行、玉の井バラバラ事件
 裾の乱れ気にし、墜落死 ズロース奨励、白木屋百貨店の火災
 女の遺体を掘って盗む 天国に結ぶ恋、酒田山心中の波紋
 夫婦を殺してこま切れに 隅田川に浮かんだ怪奇な死体
 ぐうたら息子を母と妹が 初の保険金狙いわが子殺し
 愛しい男を殺し一もつを切る 世間を揺るがした阿部定事件
 ライバルの六十女の局部えぐる 残虐の極み、女の執念
 四連帯の井戸から首なし女死体 結婚を迫られた軍人の犯行
 娘の婿の“自身”をちょん切る 戦時下、出征前夜に起こった凶行

■小平事件に見る食糧難時代の犯罪―昭和戦後期
 食べ物なく、人肉を食わす 障害を持つ先妻の娘を殺害して
 女性をつぎつぎ乱暴、絞殺 食糧を餌に誘い出す、小平事件
 幼児預かり餓死、凍死百余人 恐るべき寿産院事件
 マタコロスナマイキナ女メ 幼女を殺し、体を切り刻む
 子宮、乳房を切り取る 姪と関係結んだ叔父の犯行
 夫婦の頭部に五寸首打ち込む 農場管理人一家、血の海で全滅
 ドラム缶のなかに男の死体 コンクリート流し込み、蓋に溶接
 父が実の娘と息子の嫁を犯す 思いあまった娘の夫と息子の犯行
 切り刻んだ夫の死体を捨てる 荒川放水路バラバラ殺人事件
 “男性自身”を剃刀で切る 痴情の果て、元日活女優の犯行
 稚内駅に行李詰め死体届く 大阪から送られた鉄道小荷物
 学校屋上で腐乱死体となって 小松川女子高校生殺人事件
 知能犯の側面持つ凶悪犯 捜査陣を手玉に取った「西口事件」
 “同棲中”の父親を思いあまって殺害 「尊属殺人は違憲」判決を導く


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