『別冊宝島333 隣りの殺人者たち―彼や彼女はなぜ、人を殺したのか?』(宝島社)


発行:1997.9.18



 殺人者は十把一絡げにできる存在ではない。周囲から慕われる「心優しき」死刑囚もいれば、次々と「平気で人を殺す」連続殺人鬼もいる。殺人の動機も違うし、殺人に至る経緯も違う。殺人者は必ずしも殺そうと思って殺したわけではないし、全ての殺人者が殺人を罪として後悔しているわけでもない。
 本書は、殺人を犯した人間たちの肉声と彼らと直接関わった人々の体験談によって構成されている。そこで書かれるのは、理由なき殺意、愛憎の確執劇、狂気じみた暴力、底知れない嫉妬心……、生々しい「素顔」の殺人者たちのドキュメントである。
 まず冷静に、殺人者たちの「社会から隠蔽された生」と「殺人という得体の知れない欲望」に向かい合わなければなにも始まらない。
 殺人は決して許されるべき行為ではない。だが、その非道性をことさら非難してもなにも見えてこない。われわれもまた、内部にそんな「殺人者」が棲んでいないと言えない存在だからである。

(「INTRODUCTION」より一部引用)


【目 次】
INTRODUCTION 殺人、その得体の知れない人間の欲望
Part1 理解できない悲惨な事件
 エリートOL不倫放火殺人事件 毒の木 高橋審也
 尊属殺人事件 家族狩り 松永憲生
 埼玉・大阪愛犬家殺人事件 「愛犬の友」は殺人鬼 福本博文
 住友銀行支店長射殺事件 殺人者志願の男 日名子暁
 福岡・美容師バラバラ殺人事件 平気でウソをつく女 高橋審也
 つくば母子殺人事件 魔が射すとき 村山和雄
Part2 「わが隣人」としての殺人者
 殺人という「罪」を背負って生きる人びと 高橋繁行
 野に放たれた殺人者 見沢知廉
 島秋人は、異例な人として悲しい! 相米周二
 保険金殺人犯と被害者遺族の交流 殺人者と被害者の遺族は和解できるか 福田ますみ
 養母と殺人者 人の道を踏みはずした者は救われないか 福田ますみ
Part3 私が出会った殺人者たち
 人を殺すということは、犯す人間にとってどんな意味があるのか! 佐木隆三
 人権刑事が語る「犯人像」のありのまま 私が会った殺人犯に悪党はいなかった! 久保博司
 ある精神鑑定医の告白 くり抜き、水抜き、火抜き 小山田進一
 国選弁護人と殺人者 私の憤死する霊魂は必ず彼らを呪い殺す! 松永憲生
Part4 獄中のサイコキラー
 奴らを高く吊るせ! 藤村昌之
 ラスコーリニコフの斧 見沢知廉
 森さん、ここから逃げる方法おますか? 森隆
 彼はなぜ殺人犯の脱獄を手助けしたのか 平岡忠則
Part5 「心の闇」の中に棲むモンスター
 快楽殺人――人間に残された最後の欲望! 景山仁佐
 死体を愛した男たち 前坂俊之
 神戸小六殺人事件・少女連続通り魔事件 殺人という「聖なる実験」 朝倉喬司


 INTRODUCTIONにあるとおり、様々な角度から犯罪者にアプローチした本。
 Part1は、特定の犯罪者について、取材や裁判での証言、捜査関係者や犯罪者の周辺などから、犯罪者の性格や犯罪そのものを浮かび上がらせようとしている。
 Part2は、前半が出獄した犯罪者の現状を、数多くの犯罪者を見てきた人物の目を通して語っている。これを読むと、そのほとんどは普通の人としか思えない。後半はかなり変わったケースで、歌人となった有名死刑囚、死刑囚と交流を望む被害者遺族、そして死刑囚と養子縁組をした養母の話が書かれている。
 Part3は、裁判ウォッチャー、刑事、精神鑑定医、弁護人が見た殺人者たちが語られている。
 Part4は、拘置所の中の殺人者たちといったところか。大阪拘置所にいた死刑囚などについて語られている。
 Part5は、快楽殺人者、シリアルキラーについて語られている。

 殺人者は皆異常者なのかもしれない。しかし、彼らは正常者と紙一重のところで生きてきたはずである。正常者の中にいると思っている我々も、いつ彼らの仲間入りをするかわからない。殺人者もまた人であることを、本書は語っている。ただ殺人者と壁を作るのではなく、なぜ殺人を犯したかを考える必要はあるし、殺人者を出した社会は少しずつ改善していく必要がある。もちろん、罪を犯した者は罰せられて当然であるし、罪を償う必要はあるが。

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