塚本宇平『「指紋の神様」の事件簿』(新潮文庫)


発行:2006.11.1



 <同じものは二つない><一生変らない>指紋は、我々の祖先に平等に与えられた、最も確実な本人証明である。生体認証やDNA鑑定が普及しても、百年間蓄積された経験とデータには適わない。三十年この道一筋、自供に頼る捜査が主流の時代に、三億円事件、よど号ハイジャック、オウムなどに携わり、“動かぬ証拠”を武器に事件を解決に導いた鑑識官が語る、指紋の真実。『指紋は語る』改題。(粗筋紹介より引用)


【目次】
 まえがき
 第1章 指紋とは何か
 第2章 指紋が語りかけるもの
 第3章 検出と鑑定をしてみる
 第4章 指紋がもつ無限の可能性


 塚本宇平は、1936年茨城県生まれ。1955年に警視庁巡査となり、刑事課を経て1967年に鑑識課指紋係に。以来指紋一筋30年、有楽町3億円事件、よど号ハイジャック事件、一連のオウム事件など手がけた大事件は数知れない。1995年にその功績を認められて、警察庁指定の広域技能指導官に認定され、“指紋の神様”と呼ばれるようになる。2001年警視庁鑑識研究所長を辞し、現在、株式会社日本シークレット・サービス主任研究員。(作者紹介より引用)
 指紋は終生不変、万人不動。ミステリファンならずとも、今では「常識」といっていいであろう。それでも昭和の頃はまだ重要視されていなかったというのだから驚く。今でこそ鑑識課員が入るまで現場の保全というのは当たり前だが、作者が鑑識課に配属されたころはまだ捜査員によって大切な物的証拠が破壊されていたという。今以上に、「自供」が優先されていた時代。刑事の意識というのはなかなか変わらないものである。
 本書は、指紋とは何か、というところから始まり、指紋の歴史、指紋と捜査の関わりといった基礎の部分が第一章で語られる。第二章は、実際の事件を通し、指紋の重要性が語られる。第3章は指紋の鑑定方法、第4章は指紋照合から指紋の可能性について述べられている。
 まさにこれを読めば、「指紋」についてわかる、という1冊である。ミステリファンにとっても読んでおいて損はない。そしてミステリ作家志望なら、一度は読んでみるべき1冊といえる。
 残念だったのは、もう少し指紋が関わった実在事件を紹介してほしかったところぐらいだろうか。

 本書は2003年6月、PHP研究所より刊行された『指紋は語る――“指紋の神様”と呼ばれた男の事件簿』を改題したものである。

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