日本推理作家協会賞受賞作全集第65巻
『夜の蝉』北村薫



【初版】2005年6月20日
【定価】552円+税(当時)
【解説】佐藤夕子
【底本】『夜の蝉』(創元推理文庫)

【収録作品】
作 者
北村薫(きたむら・かおる)
 1949年埼玉県生まれ。高校教諭を経て、作家活動にはいる。89年に連作集『空飛ぶ馬』でデビュー、殺人のない、日常の謎の論理的推理で注目される。当初は正体不明の覆面作家だった。主な作品に、『覆面作家は二人いる』『冬のオペラ』『盤上の敵』、時をテーマにした三部作『スキップ』『ターン』『リセット』など。評論やエッセイも多い。
(作者紹介より引用)
作品名
『夜の蝉』
初 出
『夜の蝉』(東京創元社 創元ミステリ'90)1990年1月刊行、書き下ろし
粗 筋
 ある夏の夜、酔って遅く帰ってきた姉から、失恋の顛末を聞かされる。付き合っていた彼に送った歌舞伎のチケットが、なぜか恋のライバルに届いていたのだ。いったいどうしてだろう。やっぱり、あの人に謎解きをしてもらうしかないかな。落語家・春桜亭円紫と女性大生の「私」のコンビによる、謎解きの快感たっぷりの連作集。
(粗筋紹介より引用)
感 想
「朧夜の底」「六月の花嫁」「夜の蝉」の三編を収録。デビュー作『空飛ぶ馬』に続く円紫さんシリーズの連作短編集。
「日常の謎」派の祖とも言うべき北村薫が、初めて栄冠を得た作品集。「鮎川哲也と十三の謎」枠で出版された『空飛ぶ馬』で、本格ミステリのみならず全てのミステリ界に衝撃を与えたのはもう20年近く前のこととなる。北村薫の登場以降、数多くの「日常の謎」派作家が登場し、数多くの作品が出版されてきた。しかし、それらの「日常の謎」の多くは、日常における突飛な謎を解き明かすだけで、論理的な推理という要素が消えつつある。言ってしまえば、落語の三題噺みたいな作品が増えてきており、私みたいな偏屈な読者はがっかりするばかりである。
 久しぶりに北村薫の初期作品を読んでみたが、この頃は失われつつあった論理的な謎解きがまだ存在していた。ただ、『空飛ぶ馬』ほど謎解きの面白さはない。どちらかといえば、「私」を初めとする周囲の人物とのやり取りや心理描写、そして「私」の成長にシフトを変えつつある過渡期みたいなところがある。もちろん、それはそれで面白いのだが。
 この頃はまだ覆面作家だったし、初版で読んだ当時は作者が男性なのか女性なのかわからなかった。しかし今読んでみると、「私」の書き方がいかにも中年男性の書き方だね。父親の視点で描いていることがわかってしまうのは、自分が年をとった証拠か。
備 考
 第44回(1991年)短編および連作短編集部門。
「蝉」の字は、つくりの上の部分が口二つである。

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