日本推理作家協会賞受賞作全集第70巻-第71巻
『リヴィエラを撃て』(上)(下)高村薫



【初版】2007年6月20日
【定価】上巻819円、下巻781円
【解説】野崎六助
【底本】『リヴィエラを撃て』上下(新潮文庫)

【収録作品】
作 者
高村薫(たかむら・かおる)
 1953年大阪市生まれ。国際基督教大学卒。90年、『黄金を抱いて翔べ』で日本推理サスペンス大賞を受賞してデビュー。93年に『マークスの山』で直木賞を、98年に『レディ・ジョーカー』で毎日出版文化賞を、2006年に『新リア王』で親鸞賞を受賞する。長編に『照柿』『神の火』『李歐』『晴子情歌』、短編集に『地を這う虫』、エッセイ集に『半眼訥訥』。
(作者紹介より引用)
作品名
『リヴィエラを撃て』
初 出
1992年10月、新潮社より書き下ろし刊行。
粗 筋
 ジャック・モーガンが捕まった。《リヴィエラ》に殺される! 悲痛な110番通報ののち発見された、IRA(アイルランド共和国軍)の元テロリスト・モーガンの死体が、時の歯車を逆回転させる。亡命中国人の爆死、パリで射殺されたIRAのテロリスト、ロンドンの暗殺事件……。MI5が、MI6が、CIAが、謎の東洋人スパイ《リヴィエラ》に踊らされる。(上巻粗筋より引用)
 父を《リヴィエラ》に殺された、IRAの元テロリストのジャック。その東洋人スパイを、CIAの《伝書鳩》とともに追っていくが、諜報戦の虚々実々の駆け引きのなか、命を落とす。彼亡きあと、大きな鍵を握るピアニストが動き出した。東京での彼のコンサートに、あの《リヴィエラ》が現れる? 権謀術数渦巻くスパイの世界を、空前のスケールで緻密に描く。(下巻粗筋より引用)
感 想
 日本推理作家協会賞だけではなく、日本冒険小説協会大賞も受賞。高村薫の代表作の一つだろう。
 MI5、MI6、スコットランド・ヤード、CIA、IRA、中国……そして日本。国と国との思惑、探り合い、主導権争い、そして「正義」。それぞれの事情と、数々の歴史の中で、歯車として生きつつ、自己主張しようとしてきた人間たち。高村薫が書きたかったのは、国家の前では全ての人も無力であるということなのだろうか。それとも逆に、無力でもあがこうとしてきた人の姿なのだろうか。
 骨太のストーリー、重厚な文章。全てが重く、そして多くの糸が複雑に絡み合う物語。登場人物はそれほど多くないものの、それぞれの人物が抱えているものはいずれも重すぎる。特に、破滅へ向かうとわかっていても突き進むしかなかった元IRAのテロリスト、ジャック・モーガンとその恋人リーアンの悲しい恋物語はあまりにも残酷すぎる。
 世界の歯車はきしみながらも回り続け、歯車を構成する人たちは各々を主張しながらも結局は歯車でしかあり得ない。世界を動かしていると思いこんでいても、結局は歯車でしかない人間の無情さを、圧倒的なスケールで描いた作品。確かに女性が描いたとは思えない作品ではあるが、逆にそのリアリズムを追求する姿勢もまた女性ならではと思えるのだが。
備 考
 第46回(1993年)長編部門。

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