江戸川乱歩推理文庫第31巻(講談社)
『怪人二十面相/少年探偵団』



【初版】1987年9月25日
【定価】640円
【乱歩と私】「顔の大きな怪老人」安部譲二


【紹介】
 神出鬼没! 大胆不敵! 気に入った宝石、美術品は、公然と予告したうえで略取する手口の鮮やかさ。二十の顔を持つ怪盗の出現に世間は湧いた。あざ笑う怪人に敢然と立ち向かったのは日本一の名探偵明智小五郎と、小林少年ひきいる探偵団の面々。知略を傾けせめぎあう大評判シリーズ、第一作、第二作。
(裏表紙より引用)


【収録作品】

作品名
怪人二十面相
初 出
『少年倶楽部』1936年1月号-12月号連載。
粗 筋
 東京で話題なのは怪人二十面相という不思議な盗賊のこと。二十の全く違った顔を持つ変装の達人で、どんな顔をしているのかは誰も知らない。盗むものは宝石や美術品などの美しくて珍しく高価な品物だけ。盗むときは必ず予告状を出す。血が嫌いであり、人を殺したり傷つけたりはしない。
 実業界の大建者、羽柴壮太郎氏の邸宅に、貴重なダイアモンドを盗むという怪人二十面相の予告状が届いた。警察による厳重な警戒の中、二十面相は宝石を盗むことに成功する。しかし息子の壮二君が仕掛けた罠によって負傷した二十面相は壮二君を誘拐し、貴重な仏像を要求する。警察が当てにならないと思った羽柴氏は、日本一の名探偵である明智小五郎に依頼する。しかし明智は出張中。代わりに訪れたのは、十二-三歳の少年助手、小林芳雄であった。
感 想
 乱歩作品の中でも重要な位置を占める少年探偵団シリーズ第一作。小中学校の図書館にはこのシリーズが長く置かれていたし、今でも置いてあるところも多いだろう。ミステリに興味がない人でも、一度くらいは目にしたことがあるはずだ。
 内容としては「ルパンの焼き直し」(乱歩)といってしまえばそれまでかもしれないが、明智ではなく小林少年を対二十面相の中心に据えたのは乱歩の手柄だろう。小林少年がいたからこそ、このシリーズは長く続いたと言っても過言ではない。
 本作品は第一作という事もあり、乱歩も力が入っていることが読めばわかる。二十面相と小林少年の知恵比べが、これでもかとばかり並べ立てられ、そして後半では満を持して明智小五郎が登場。終盤では少年探偵団も結成される。このシリーズが少年少女を夢中にさせたのは当然のことだろうが、乱歩自身も最初は夢中になったのかもしれない。
備 考
 

作品名
少年探偵団
初 出
『少年倶楽部』1937年1月号-12月号連載。
粗 筋
 世間を騒がしていたのは黒い魔物。全身墨を塗ったように真っ黒な人物が東京中に現れ、驚かせていた。少年探偵団の篠崎始君の周りで小さな女の子が黒い魔物にさらわれるという事件が相次いだ。人違いだったらしく、すぐに解放されているが、狙いは篠崎君の妹、緑ちゃんらしい。篠崎君の家には、呪いの宝石があった。黒い魔物の正体は、宝石の呪いを果たそうとするインド人なのか。小林君が緑ちゃんを守ることになったが、二人ともさらわれて、洋館で水攻めにあってしまう。黒い魔物の正体は。
感 想
 前作の好評を受けて書かれた第二作。前作で結成された「少年探偵団」をタイトルに据え、少年対二十面相という路線を明確にした作品でもある。少年探偵団の団員の周辺で事件が起きるようになるが、この頃の少年は裕福な家の者ばかりであり、必ずといっていいほど高価な宝石や美術品があった。こうしてみると、明智がスポンサーの子供たちを遊ばせるために小林少年を付けたようにも見える(笑)。二十面相ではなく別の魔物が冒頭に登場し、少年探偵団たちを狙いながら美術品、宝石類を狙うというパターンは早くも確立されている。小林少年たちが危険な目に遭うのも、読者である少年たちをワクワクさせたに違いない。
備 考
 

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