江戸川乱歩推理文庫第4巻(講談社)
『パノラマ島奇談』



【初版】1987年9月25日
【定価】480円
【乱歩と私】「切れ切れの回想」多岐川恭


【紹介】
 小説家人見広介は、自分とうり二つの大富豪菰田源三郎が病死したのを幸いに菰田になりすまし、莫大な財産を使って沖の島に長年の理想のパノラマ島を作りあげた。彼はその物狂わしき王国の君主として、妖美の幻想の世界に酔い痴れていた。果たして彼の正体を見破ったものはだれか?
(裏表紙より引用)


【収録作品】

作品名
パノラマ島奇談
初 出
『新青年』大正15年10月号-昭和2年4月号連載(12月号、3月号は休載)。
粗 筋
 【紹介】参照。
感 想
 一応人物入れ替えと妻の疑惑といったところに探偵小説の味が残っているものの、内容としては乱歩の夢を思いつくままに書き並べたに等しい作品。乱歩美学の頂点ともいえる作品であり、その後の作品でもこの美学から一歩も外へ踏み出すことができなかったぐらいである。乱歩が自選ベストファイブに入れているのもわからないではないが、この時点でこういう作品を描き切ってしまったところに、乱歩の悲劇があったともいえる。
備 考
 

作品名
一寸法師
初 出
『東京朝日新聞』『大阪朝日新聞』大正15年12月8日-昭和2年2月20日(『大阪朝日新聞』は21日)まで67回連載。
粗 筋
 10歳ぐらいの子供の胴体の上に大人の顔がのっかっている一寸法師が、人間の片腕を川の中へ捨てるのを、小林紋三は目撃した。さらに次の日の朝刊で、若い女性の片足が川から見つかったという記事が出た。知り合いである実業家山野大五郎の娘三千子が失踪していると夫人から聞いた小林は、夫人に友人の素人探偵明智小五郎を紹介する。さらに百貨店の呉服売り場の人形の腕が、本物に変えられていた。事件に見え隠れする一寸法師の正体は。
感 想
 一寸法師という不気味な存在といい、令嬢の失踪と、バラバラ死体の一つずつが奇怪な場所から発見される展開は、新聞小説ならではの派手な展開と言える。後の通俗小説ほどの開き直りもなく、時間がなかったことから本格探偵小説としての練りこみもできず、中途半端な仕上がりになってしまったのは残念。一寸法師というキャラクターなら、もっと派手な展開も書くことができただろうに。
備 考
 山本有三『生きとし生けるもの』が作者の病気で中絶し、つぎに予定されていた武者小路実篤の作品が間に合わなかったことから、ピンチヒッターとして依頼されたもの。創作探偵小説を大新聞の朝刊に載せるのは初めての試み。

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