江戸川乱歩推理文庫第43巻(講談社)
『超人ニコラ/大金塊』



【初版】1988年10月8日
【定価】640円
【乱歩と私】「乱歩と私」山村美紗


【紹介】
 百十数年の時を経て生きるニコラ博士。「魔法使い」を自称する彼が生み出した人間入れ替え術。宝石商令嬢が、政治家の息子が、それとは知らぬ間に次々と入れ替えられて行く。にせ者の家族が食卓を囲む不気味! 宝石商一家に不審を抱いた小林少年もまたニコラ博士の手中に……ニセ小林は笑顔で明智探偵に近づく。
(裏表紙より引用)


【収録作品】

作品名
超人ニコラ
初 出
『少年』昭和37年1月号-12月号連載。
粗 筋
 【紹介】参照
感 想
 少年もの最後の作品。そのせいか、中身は低調。発端や偽物と入れ替わる人間入れ替え術は、いずれも『猟奇の果』から引用している。人間入れ替え術で世界を征服することもできると嘯くわりには、明智小五郎の偽物を作る程度で終わってしまうあたりが、このシリーズの限界か。ワンパターンの空飛ぶトリックなど、過去の作品で使われていたトリックを繰り返し使っているところからも、乱歩の気力の衰えが見えてくる。
備 考
 この題名は、明治時代に紹介されたガイ・ブースビーの「魔法医者」(原題ニコラ博士)に基づいている。

作品名
大金塊
初 出
『少年倶楽部』昭和14年1月号-12月号連載。
粗 筋
 宮瀬不二夫君の家には、時価1億円の金塊の隠し場所を記した暗号文書が隠されていた。ある夜、その暗号文書が屋敷の秘密の場所から賊に盗まれた。しかしそれは半分でしかなく、もう半分は父親・鉱造がはめている指輪に隠されていた。鉱造は明智小五郎に依頼。不二夫君が狙われると推理した明智は、小林君を不二夫君の身代わりとする。
感 想
 『妖怪博士』の次に書かれた少年もの。時節柄か、二十面相は出ず、代わりに大金塊を狙う賊一味が登場する。前半は大金塊のありかを記した暗号文書をめぐる争い、後半は宝探しが主眼となる。後半は、『孤島の鬼』の宝探しをなぞったものであるが、少年を主人公としているためか、緊迫感よりも冒険心の方が強い書き方になっている。当時の読者はさぞドキドキとしたことだろう。賊の首領の秘密と合わせ、二十面相ものにしなくて正解だった作品。
備 考
 

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