作品名 | 踊る一寸法師 |
初 出 | 『新青年』1926年新年増大号。 |
粗 筋 |
禄さんは体の小さな一寸法師。入っているサーカス団ではいつもいじめられ、へらへら笑っているばかりである。大入り祝の宴で禄さんはいつもいじめられている紫繻子の男から、無理矢理酒を勧められる。下戸の禄さんは酒を断るのだがしつこく絡まれ、さらに周囲もはやし立て、とうとう大男の手によって酒樽に突っ込まれ、暴行された。さらに隠し芸を見せろとはやし立てられ、奇術をすることとなったが。
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感 想 |
ポー「ちんば蛙」に影響を受けた作品。異形のものへの蔑み、集団によるいじめとそれに対する暴発といったところは現代にも通じるものがある。後半から結末にかけては、乱歩ならではの筆によるもの。背筋が震えてくる作品でありながらも、結末のシーンに妖しさと美しさを感じてしまうのは私だけではないはず。
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備 考 |
作品名 | 毒草 |
初 出 | 『探偵文芸』1926年1月号。 |
粗 筋 |
私と友だちが小川で発見した草。それは堕胎の妙薬であった。その話を、裏に住む老郵便配達夫一家の妻が聞いていた。
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感 想 |
掌編と言っていい内容。発表当時は好評であったと聞くが、当時は堕胎が重罪であったという事実を知っていても、主人公の焦燥感に今ひとつピンと来ないところがある。
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備 考 |
作品名 | 覆面の舞踏者 |
初 出 | 『婦人の国』1926年新年特大号-2月号。 |
粗 筋 |
私は友人の井上に勧められ、上流階級の秘密結社「二十日会」に入会した。私は毎月20日に行われる遊技に夢中になった。しかし私は5回目の会合でこの会を抜けた。その理由とは。
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感 想 |
オチは見え見えだし、主人公は自分勝手。当時の時代性を考えても、出来が今一つな作品である。とはいえ、これが婦人雑誌に掲載されているのだから不思議。
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備 考 |
作品名 | 灰神楽 |
初 出 | 『大衆文芸』1926年3月号。 |
粗 筋 |
衝動的に拳銃で奥村を殺してしまった庄太郎。幸い銃声には誰も気づかなかったし、証拠は残していない。しかし自らの犯行がばれることを恐れた庄太郎は、外で野球をしている奥村の弟を見て、ある偽装工作を行う。
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感 想 |
偽装工作を行うことにより、かえって自らの首を絞めてしまう結果となる、フリーマンやクロフツなどの倒叙短編と同形式の作品。乱歩自身はそこまで意識しなかっただろうが、倒叙ミステリの基本に則った作品。ただしストレートすぎて、乱歩らしさは見られない。
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備 考 |
作品名 | 火星の運河 |
初 出 | 『新青年』1926年4月特別増大号。 |
粗 筋 |
私が目を覚ますと、そこは恐怖の暗い闇に包まれた森であった。
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感 想 |
筋が特にあるわけではない、乱歩ならではの怪奇幻想散文詩。「火星の運河」という言葉は乱歩お気に入りなのか、いくつかの作品でこの言葉が出てくる。
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備 考 |
『新青年』の森下雨村編集長に対する義理に責められ、材料に窮したあまり、1917年ごろ、つれづれにおり、ノートの端に書きつけておいた散文詩のようなものに、多少手を入れたもの。
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作品名 | モノグラム |
初 出 | 『新小説』1926年6月号。 |
粗 筋 |
失業中で浅草公園のベンチに座っていた栗原一造へ話しかけてきたのは、田中三良という青年。互いに初対面なのに見たことがあると不思議がる両者。三良の姉は若く病死した北川すみ子という女性であり、すみ子は一造の初恋の相手だった。
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感 想 |
若い頃の甘い恋の思い出と、その苦い(?)結末。平成の物語として書かれても、そんなに違和感のないプロットである。乱歩はこういうしゃれた恋物語も書いている、という一面を見せた作品。
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備 考 |
作品名 | お勢登場 |
初 出 | 『大衆文芸』1926年7月号。 |
粗 筋 |
肺病やみの格太郎は家にいることが多く、妻のお勢は外に出て不倫に溺れるばかり。ある日、格太郎は子供たちと隠れん坊をし、押入の長持ちに隠れたが、掛け金が掛かって出られなくなった。子供たちは格太郎を見つけることができず、飽きて外へ遊びに出掛けてしまった。
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感 想 |
タイトルと中身が若干あわないが、乱歩本人はお勢という悪女もののシリーズとして考えていたらしい。女性というのは恐ろしいと思わせる一編。最後はもうちょっと掘り下げてほしかった気もするが。
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備 考 |
作品名 | 人でなしの恋 |
初 出 | 『サンデー毎日』1926年秋期特別号。 |
粗 筋 |
旧家の門野家へ嫁いだばかりの京子は、夫が毎夜土蔵の二階に入り、女と睦言を交わしていた。女を隠していると思った京子は土蔵に忍び込んだが、そこにあったものは。
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感 想 |
タイトルで夫の相手は大体予想着くと思うが、その後の話は戦慄を覚えるかもしれない。現代にも通じる題材を大正の頃に書いていたという点は注目しても良いかもしれない。
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備 考 |
作品名 | 鏡地獄 |
初 出 | 『大衆文芸』1926年10月号。 |
粗 筋 |
彼は小さい頃から鏡やレンズなどに興味を持ち、中学の頃には病的とも言えるほどのレンズ狂となった。親の資産を受け継いだ彼は中学卒業後、庭に実験室を作り、レンズに没頭する。ある日、唯一の友人であるKは彼の使用人に呼ばれた。実験室にあったのは大きな球。その中にいたのは、狂った彼であった。球の内部は全て鏡となっていたのだ。
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感 想 |
鏡やレンズに興味を持っていた乱歩らしい怪奇短編。球の鏡というのは後にテレビ番組でも実際に試されたそうだが、こればかりは実在の世界を知らなかった方が良かったかな、と思わせる。全く想像できない不気味さを物理的に作り出した世界の構築こそが、乱歩の求める美学ではなかったか。
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備 考 |
作品名 | 木馬は廻る |
初 出 | 『探偵趣味』1926年10月号。 |
粗 筋 |
木馬館の回転木馬でしがないラッパ吹きをしている五十幾歳の格二郎は、切符係の少女お冬と顔を合わせるときのみ、貧乏や家庭の煩わしさを忘れることができる。そんな格二郎の前に現れた青年はお冬のポケットに封筒を残していった。格二郎は思わず抜き取ってしまうが。
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感 想 |
浅草の一部分を切り取り、初老の慕情と寂寥館を写し取った作品。最後のシーンは、それこそ映画の結末のようにいつまでも回り続けるに違いない。乱歩にしてはミステリでも怪奇でも奇妙な味でもない、純粋な恋愛小説であるが、乱歩の浅草趣味を別の角度で写し取った一編。
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備 考 |
作品名 | 陰獣 |
初 出 | 『新青年』1928年8月増刊号~10月号。 |
粗 筋 |
【紹介】参照。
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感 想 |
乱歩作品の中でも一、二を争う傑作。作者自身を彷彿させる登場人物を出し、しかもそれをトリックに用いたという斬新な作品。ある意味、乱歩お得意の裏返しトリックの集大成ともいえる作品であったが、本格ミステリならではの謎ときに乱歩美学ともいえる世界観を纏わせた、奇跡の作品だろう。
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備 考 |
『一寸法師』連載後に断筆し、1年半後に発表された作品。当初は『改造』のために書いたが、枚数が4倍以上になったので、『新青年』へ掲載。掲載誌を三版まで刷らせるという、雑誌界空前の大反響を巻き起こした。
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