天藤真推理小説全集16『背が高くて東大出』



【初版】2001年7月27日
【定価】820円+税
【解説】鷹城宏
【底本】各編について単行本初収録時の版を底本とし、初出各誌を参照。

作品名
背が高くて東大出
初 出
『小説宝石』1971年5月号
粗 筋
 友人の彼氏からデートを申し込まれ、その後私は彼と結婚した。彼は背が高くて東大の助手。ところが彼は異常なほどのケチで、嫉妬深かった。一度は実家に逃げたが、母に連れられて家に戻る始末。
感 想
 理想的な男と結婚できたと思ったら実は、という話。書かれたのは40年以上も前だが、今でも十分通じるストーリーだろう。終盤の展開は結構恐ろしいのだが、結末のユーモアが何とも言えない味わいを醸し出す逸品。
備 考


作品名
父子象
初 出
『高二時代』1971年9月号第三付録
粗 筋
 島村信一は高校の宿題で職業についての作文を書くことになった。父一人、子一人で育った信一だが、父親の職業を知らなかった。信一は父親に来た年賀状を元に過去を探り、父の意外な一面を知ることにある。
感 想
 その気になれば色々と悲惨な展開を考え出すことができそうな設定だが、初出が学生誌ということもあり、ストレートな仕上がりになっているのは読後感こそよいが、少々物足りない。
備 考


作品名
背面の悪魔
初 出
『読切文庫』1971年10月号
粗 筋
 服毒自殺した4つ違いの姉・治子から小一年前に送られていた包みを開けた倉石法子は、入っていた手記を読み始める。そこには、姉が夫・春雄から外人接待のための売春をさせられているという内容だった。法子は春雄の元へ真偽を問い質しに行く。
感 想
 夫婦間のエロティックで恐ろしい話なのだが、さすがに作り物過ぎたのではないだろうか。
備 考


作品名
女子高生事件
初 出
『読切文庫』1972年1月号。掲載時のタイトル「セーラー服買春事件」
粗 筋
 生徒・志賀寿美子の作文から、売春をしている者達が複数いることを知ったS女子校の若き国語教師・大宮武志は、風紀主任の川本先生とその甥に協力を求め、調査に乗り出した。相談に行った県警少年課の木下課長によると、高校生やOL、主婦を陥れて無理矢理仲間にする売春組織を内偵中とのことだった。
感 想
 発表時のタイトルがかなり強烈だが、今の方がもっと強烈なことが行われているんじゃないの、と思ってしまう私はかなり毒されているのかも知れない。前振りの割に、結末の呆気なさは残念。
備 考


作品名
死の色は虹
初 出
『推理増刊』1972年12月号
粗 筋
 北多摩の清瀬市にある松浦内科医院で、脊椎カリエスにかかっている野田栄一郎という患者が、ブドウ糖カルシュームの注射を打たれた途端に死亡した。野田が購入して医師に渡していたアンプルに1本だけ劇薬が混じっていたのだ。野田の妻・登美子は賠償として三千万円を要求するが、松浦の妻・美枝子医師の妻は探偵に捜査を依頼する。
感 想
 単なる誤注射が実は、という話。結末に意外な展開が待っているものの、駆け足になっているためその効果は半減。ページ数が足りなかったようだ。
備 考


作品名
日曜日は殺しの日
初 出
『月刊けんぽ』1973年1月号〜12月号
粗 筋
 房総半島にある養老渓谷のカーブで乗用車が墜落。崖の窪地にいたカップルが道連れとなり、村中賢爾が死亡、沢野しげ子は重傷。さらに乗用車の運転手・宮崎吉太郎も死亡した。運転手からアルコールと睡眠薬が検出されたことから、警察は殺人事件として捜査に乗り出した。容疑者は、乗用車に同乗していた、派手な格好をした女姓だった。そして事件の陰には、夫を誤診で亡くした小野友希子がいた。
感 想
 偶然と思われた貰い事故が、じつは綿密に練られていた殺人だった……。捜査側と実行犯側の視点が頻繁に変わることで、サスペンス度をあげつつ謎を深めることに成功している。ただ、これは確かに長編ネタであり、やはり最後は駆け足になっているのは残念。結末にいたる展開は、もっと練ることが可能だっただろう。
備 考
 後に作者は長編化を試みるが途中で亡くなり、未完成作品を草野唯雄が書き継いで1984年に同タイトルで発表している。

作品名
三枚の千円札
初 出
『推理文学』1973年5月号
粗 筋
 バーに勤めていた妻の旧友・水沢しげ子が久しぶりに尋ねてきた。その帰り道、彼女は暴行されて殺されてしまった。夫婦には何の関係もない事件かと思われたのだが。
感 想
 夫婦の疑心暗鬼を描いた小品。同じような状況ではないにせよ、思わずあるあると頷いてしまう人がいるかも知れない。
備 考


作品名
死神はコーナーに待つ
初 出
『幻影城』1975年6月号
粗 筋
 22歳の工員・村木王次は、スナック「ピコ」に来たルミに夢中になった。ルミも王次を選んだが、キスもさせてくれない。代わりにルミは、命の次に大事なロケットをあげ、代わりに使う当てのない免許証を渡した。ところが初めてのデートで、ルミはその正体を現す。しかも見下されたため、思わず首を絞めて殺してしまった。目撃され、覚悟を決めた王次だったが、いつまで経っても警察は来なかった。
感 想
 中編ということもあるが、展開があれよあれよと変化し、追いつくのに苦労するぐらい。最後は沖縄まで飛ぶのだから凄い話だ。何もここまで、とも思う気がするが、やはり天藤真にはこれぐらいのページ数が最低でも必要だ。
備 考


作品名
札吹雪
初 出
『小説宝石』1976年1月号
粗 筋
 妻・八重子の伯父である松吉が脳卒中で倒れ、良作は法務局で土地の状況を確認すると、そこに現れたのは熊本に住んでいるという松吉の姪・咲子。土地の売却金の手掛かりがどこかにあるはずだと二人は家捜しをする。
感 想
タイトルから結末は見え見えなのだが、人間って大金を目の前にすると性格が変わるんだよという悪意を文章にしたような作品。ちなみに結末に出てくるあれのことなんだが、全く興味のない分野なので、最初は何のことかわかりませんでした。
備 考


作品名
誰が為に鐘は鳴る
初 出
『新トリック・ゲーム』(日本文芸社)1976年1月(推理クイズ集)
粗 筋
 大邸宅の離れにある小屋のような借家で将棋を指していた5人の教師。ところが邸宅の方で事件が発生し、5人は容疑者にされてしまった。いったい犯人は誰か。
感 想
 中堅・新鋭作家を中心とした推理クイズ集(犯人当て小説集と言った方が的確か?)の1編。こうして単独で見ると普通に読めるが、クイズ集の中に入れられてしまうと、小説としての仕上がりを求めて書いた部分がクイズには邪魔になるばかりで、違和感があったのを覚えている。
備 考


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