有栖川有栖編『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』(角川文庫)

 有栖川有栖が秘密の書庫を大公開!? 古今東西の名作ミステリ、しかも極めて入手困難な10作品がこの一冊に! 幻の本格ミステリ漫画、つのだじろう『金色犬』、台湾の傑作鉄道ミステリ、余心楽『生死線上』、ロバート・アーサーの『五十一番目の密室』にはなんと日本初訳、エラリー・クイーンによるまえがき・あとがきも収録する。巻末には収録作品について語り合う北村薫氏との対談も。『北村薫の本格ミステリ・ライブラリー』と併せ、この二冊を読まずして本格ミステリを語るなかれ。(粗筋紹介より引用)
 「I 読者への挑戦」は犯人当て。巽昌章「埋もれた悪意」、白峰良介「逃げる車」、つのだじろう「金色犬」。
 「II トリックの驚き」はその名の通り驚いたトリックもの。ロバート・アーサー「五十一番目の密室」、W.ハイデンフェルト「「引立て役倶楽部」の不快な事件」、ビル・プロンジーニ「アローモント監獄の謎」。前二作にはエラリー・クイーンのルーブリックとあとがきも。
 「III 線路の上のマジック」は鉄道ミステリ。余心楽「生死線上」、上田広「水の柱」。
 「IV トリックの冴え」はIIより凝ったトリック作品。海渡英祐「「わたくし」は犯人……」、ジョン・スラデック「見えざる手によって」を収録。
 2001年8月、刊行。

 このアンソロジーを読むと、作者も本格ミステリばかりでなく、色々な本を読んでいるのだな、やはり作家になる人は色々な本を読むのだろうな、などと思っていまう。通常だったら見落としてしまいそうなところまで目を配り、本格ミステリに目の色を変えてしまうのは凄い。
 個人的には、つのだじろうと「五十一番目の密室」に感動した。前者は、つのだろうじろうがこのような本格者の漫画を描いていたとは全く知らなかったことに。そして後者は、名前とトリックだけが有名で、肝心の短編を読んだことが無かったので。
 ハイデンフェルトについては「脇役クラブ〜」のタイトルで覚えているなあ。藤原宰太郎の推理クイズ本でタイトルと狙いだけは知っている。




佐藤友哉『エナメルを塗った魂の比重 鏡稜子ときせかえ密室』(講談社ノベルス)

 青春は美しくない。私の場合もそうだった。二年B組に現れた転校生。校内で発生した密室。それらを起点として動き出す、不可解な連中。コスプレを通じて自己変革する少女。ぐちゃぐちゃに虐められる少女。人間しか食べられない少女。ドッペルゲンガーに襲われた少女と、その謎を追う使えない男。そして…予言者達。私は連中の巻き起こす渦に呑まれ、時には呑み込んで驀進を続けた。その果てに用意されていたのは、やはりあの馬鹿げた世界。…予言。あの時の私は、それで何を得たのだろうか。ま、別に知った事じゃないけどさ。(粗筋紹介より引用)

 鏡稜子は、『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』の主人公、公彦の姉であるが、本作品の時間軸は、前作から過去に遡っている。
 前作より「進化した」、独りよがりな内容。細切れに見せられる、読者を無視したストーリー展開。知っている人さえ知っていればいいとでも言いたげな、説明のない単語の数々。ご都合主義の塊。人形以下の扱いしかされていない登場人物群。それでも、小説にパワーがあるから困ったもの。“わからないやつは来るな。オレたちだけで盛り上がろう”的な小説であり、無理に付いていく必要はない。付いて行くには、読者も壊れる必要がある。何も読者は、そこまで作者に合わせる必要はない。
 と書きましたが、誉め言葉です、一応。読者が貶すことが、この作者への誉め言葉だと思う。




三好吉忠『<現場報告>「少年A」はどう矯正されているのか』(小学館文庫)

 少年法改正の賛否両論の意見、家庭裁判所、鑑別所、少年院などの実態をレポート。作者は元京都家庭裁判所総括裁判官、いまは弁護士。
 何で買ったのか記憶がない。未読本の山の中から出てきたので、薄い本ということもあり、一気に読み切る。それなりに参考になりました。議論の中に“被害者側の立場の声”があまり反映されていないのが残念。問題提起こそはあるが。




河口俊彦『新対局日誌第4集 最強者伝説』(河出書房新社)

 河口俊彦のライフワーク第4集は1989年。大山康晴から二上達也に連盟会長が交代。羽生善治が19歳にて竜王奪取などと、色々と話題の多い一年だった。
 この巻には、竜王戦の大山vs羽生の対局が載っている。帯では、「大巨人と超新星が生涯に一度だけ戦った本当の「勝負将棋」とは? そこで放たれた最高級の名手とは?」とある。▲6六銀は、棋史に残る一手だろう。
 まだ大山がいて、中原・米長がいて、谷川がいて、そして羽生たちの世代が活躍しだして……、本当に豪華な時代だったといえる。そして、ベテラン棋士も、個性派棋士も頑張っていた。将棋が面白かった時代であると同時に、棋士が面白かった時代でもあった。




森英俊編『ミステリ美術館 ジャケット・アートでみるミステリの歴史』(国書刊行会)

 ホームズのライヴァルたちが活躍した1910年代から、クリスティー、クイーン、カーら本格派の巨匠が君臨した大戦間〈黄金時代〉、第2次大戦後の新展開、P・D・ジェイムズ、E・ピーターズ他、現代の人気作家まで、欧米ミステリ100年の歴史を、460点の貴重な原書ジャケット・アートでたどる、ミステリ・ファン待望の夢のコレクション!!(作品紹介より引用)

 ミステリコレクターである森英俊が集めたコレクションのなかから、460点のジャケットアートをオールカラーで収録。「第1展示室 ミステリの巨匠たち」「第2展示室 ジャケット・アートで見るミステリ史」「第3展示室 ミステリ・ア・ラ・カルト」「第4展示室 翻訳ミステリの世界」。
 これだけ並べられると圧巻。これを見て、値段さえ考えなかったら手に取りたいと思わない読者はいないだろう。
 ジャケットを眺めるだけでうきうきしてくる本。さらにゲスト・エッセイも興味深い。次は日本の作品でやってくれないかな。




北村薫編『北村薫の本格ミステリ・ライブラリー』(角川文庫)

 エラリー・クイーンが16歳の新人作家レナード・トンプソンに期待を込めて送った手紙に、傑作「ジェミニ―・クリケット事件」の入手困難だったアメリカ版。それから西條八十の「花束の秘密」まで編者・北村薫ならではの多岐にわたったライン・ナップ。そのうえ有栖川有栖氏、田中潤司氏と語り合った古今東西のミステリ逸話も収録。あっと驚く謎物語が、たっぷり詰まった一冊だ。『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』と合わせてミステリ・ファン必読のアンソロジーが誕生した!(粗筋紹介より引用)
 「I 懐かしの本格ミステリ――密室三連弾プラス1」は密室トリック。レナード・トンプソン「酔いどれ弁護士」(「スクイーズ・プレイ」「剃りかけた髭」「エラリー・クイーンからのルーブリックと手紙」を収録)、ロバート・アーサー「ガラスの橋」、ローレンス・G.ブロックマン「やぶへび」。
 「II 田中潤司語る−昭和30年代本格ミステリ事情」はそのまま田中潤司が当時の本格ミステリを語る。
 「III これは知らないでしょう――日本編」はどちらもワセダ・ミステリ倶楽部機関紙『PHOENIX』に収録されたもの。深見豪「ケーキ箱」、新井素子+秋山狂一郎+吾妻ひでお「ライツヴィル殺人事件」。  「IV 西條八十の世界」はその名の通り、西條八十の本格ミステリと訳文。西條八十「花束の秘密」、ロオド・ダンセイニ「倫敦の話」「客」、カーリル・ギブラン「夢遊病者」。  「V 本格について考える」は作者が考える本格ミステリ。都筑道夫「森の石松」、マヌエル・ペイロウ「わが身に本当に起こったこと」、吉行淳之介「あいびき」。  「VI ジェミニー・クリケット事件(アメリカ版)」は、短編集で結末を変える前のアメリカ版作品。クリスチアナ・ブランド「ジェミニー・クリケット事件」(アメリカ版)。  2001年8月、刊行。

 何と多岐に渡るラインナップだろうか。さすが北村薫というべきか。本格ミステリの楽しさを詰め込んだ一冊。とにかく読んで、楽しめればそれでよし。




殊能将之『鏡の中は日曜日』(講談社ノベルス)

鎌倉に建つ梵貝荘は法螺貝を意味する歪な館。主な魔王と呼ばれる異端の仏文学者。一家の死が刻印された不穏な舞台で、深夜に招待客の弁護士が刺殺され、現場となった異形の階段には一万円札がばらまかれていた。眩暈と浮遊感に溢れ周到な仕掛けに満ちた世界に、あの名探偵が挑む。隙なく完璧な本格ミステリ。(粗筋紹介より引用)

 面白いのだが、傑作というには違和感がある。評価は高いのだが、高い評価を付けたくない。矛盾しているのはわかっている。
 パロディとは違う気がする。名探偵という存在の実在化。本格ミステリが触れようとしない部分への領空侵犯。
 作中作であり、過去の事件でもある「梵貝荘事件」がこてこての本格、館ものであるだけに、現代の石動戯作との振り子の幅が異様に大きい。それを本格ミステリの枠内でやってしまうのだから、作者の腕には恐れ入る。しかも、本格、名探偵へのリスペクトがはっきりと見えているから、最後のシーンに微笑んでしまう。
 結局、悔しいのかな。作者にしてやられてしまったことに。
 否定による存在の肯定と物語の構築。この手法がどこまで続くのか、楽しみである。
 鮎井郁介の過去の作品も読んでみたいと思うのは、私だけではないはずだ。




篠田真由美『桜闇』(講談社ノベルス)

 桜井京介シリーズ短編集。新刊で買って、今頃読むという黄金のパターン。収録作品は、「ウシュクダラのエンジェル」「井戸の中の悪魔」「塔の中の姫君」「捻れた塔の冒険」「迷宮に死者は棲む」「永遠を巡る螺旋」「オフィーリア、翔んだ」「神代宗の決断と憂鬱」「君の名は空の色」「桜闇」の10作。
 長編と長編の間に入るエピソードあり、過去を語る話ありなど、桜井シリーズファンには欠かせない一冊。勿論、それぞれが独立した短編として読める……ばかりではないか。他の作品とトーンが違う「オフィーリア、翔んだ」が個人的に好み。



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