古村龍也・雀部俊『図解 犯罪心理分析マニュアル』(同文書院)

 人はなぜ犯罪を犯すのか。犯罪者は一体何を考えているのか。明日の「被害者」、「加害者」とならないために、我々が考えておかねばならないこと。
 通り魔・放火犯から大量殺人・連続殺人まで、犯罪を犯す心理を図解で易しく説明した一冊。
 第T章では、人はなぜ犯罪を犯すのかという心理を図解で説明。第II章では女子高生コンクリート詰め殺人事件を中心に、少年犯罪の心理に迫る。第III章では精神鑑定とその実態について、宮崎勤事件とパリ人肉事件を中心に説明する。第IV章ではプロファイリングを紹介するとともに、大量殺人犯、連続殺人犯、放火殺人犯などのプロファイリングを行う。
 図解とあるとおり、犯罪心理分析に関する入門書。作者の二人も専門家というわけではなく、そちらの方面の著書は記事が多いフリーライターである。本当にさわりしか書いていないので、深く勉強をしたい人は、さらに別の本を買う必要がある。
 少年犯罪の心理分析に迫るとあるが、ページを多く割いている女子高生コンクリート詰め殺人事件についても、新聞報道などで明らかになった事実を紹介し、それにちょっとした心理分析を付け加えている程度であり、犯罪者の内面に迫ったというほどのものではない。
 マニュアルというほどのものではなく、まあ、入門書の第一段階といったところか。




船戸与一『炎流れる彼方』(集英社文庫)

 アメリカで運を使い果たしたおれを拾ってくれたのは、しけた中年ボクサー・ムーニー。彼に突然ラスベガスでの試合の話が持ち込まれる。なぜ? 相手はキラーと呼ばれる29戦全KO勝ちの若いハード・パンチャー。この「合法的殺人」を企む黒幕は? 男を賭けたリング。驚くべき真相が…。銃撃と流血。そしてロッキー山中で壮絶な最後の聖戦が繰り広げられる…。男たちの魂を歌うハードボイルド巨編。(粗筋紹介より引用)
 1990年7月、集英社より刊行。

 船戸といえば国際謀略小説の第一人者であるが、たまにこのようなハードボイルド作品を描いてくれる。船戸のこのタイプの作品を読むのは、デビュー作『夜のオデッセイア』以来である。
 主人公のおれは、ラッキーと呼ばれる日本人である。しかし彼の運は24歳で使い果たしていた。19歳で1億円近い遺産が転がり込み、冗談半分で買った株がさらに値上がりした。放埒な生活を続けながらも、博打などで資産は4億円に膨らんだ。その金を持って、アメリカでステーキハウスを買い、経営に乗り出したのは24歳の時だった。しかし金の持ち逃げ、火災、事故などで金を全て失った。それからはなにをやってもうまくいかない。だから周りは揶揄と皮肉をこめてラッキーと呼ぶ。
 本書の前半は、ムーニーを主人公としたボクシング小説である。裏にきな臭い動きがあり、関係者が不審な死を向かえるなどの事件が起きるが、メインはあくまでボクシングの試合である。リングにおける公開処刑ショーに絶望的な闘いを挑むムーニー。この闘いは観客ばかりではなく、読者をも感動の渦に巻き込む。
 ところが後半は逃走劇、そして銃撃戦となる。前半の、ムーニーの必死の闘いぶりとは全く違う流れだ。一冊の小説で様々な要素を盛り込むというのはサービス精神旺盛と捉えるべきなんだろうが、読み終わってしまえば散漫なイメージしか浮かんでこない。一つ一つのシーンはいいのに、勿体ない話である。
 それと、個人的に残念と思うことは、やはり主人公が情けないところ。もうちょっと活躍シーンを入れてほしかった。
 船戸のこういう話は好きなんだけど、やはり芯が一本通った話にするべきではなかったか。各要素が凄くいいのに、集めてみたら融合しきれなかった作品。




大藪春彦『戦士の挽歌(バラード) 第三部 血の鎮魂歌(レクイエム)』(徳間文庫)

 パリの国際会議で随行員として出席した新東京製薬の敏腕プロパー石川克也は、“ある人生計画”のために、ひそかに三億円を預金していたスイスの銀行を訪ねるが、銀行は既に倒産していた。帰国した石川は一変した。計画を実行に移す時が来たのだ。軽薄の仮面をぬぎすて、冷徹な本来の姿に戻った石川は、悪徳医師、物欲と権力欲の権化である医学部教授に憎悪を爆発させた。筆者懇親のサスペンス巨編。(粗筋紹介より引用)
 1981年12月、徳間書店より刊行。1700枚の大作、第3巻。

 ようやく第三部を見つけたので、既に読んでいたにもかかわらず購入。以下は、前回書いた内容と同じ。
 解説にもあるが、「飲ませる、抱かせる、つかませる」という最低の販売方法や医療業界と薬品業界の腐敗については1960年代後半から1970年代後半にかけて問題となり、参考文献に挙げられているような著書が1970年代後半に描かれるようになった。そして連載とほぼ同時期、連載のなかでも出てくるように各マスコミで暴かれることになるのである。
 ここで出てくるプロパーはプロパガンディストの略で、製薬会社では学術宣伝員と呼ぶが、結局はセールスの特攻隊でしかない。太鼓持ちも真っ青なほどのおべんちゃらと低姿勢で、石川は一つずつ契約をもぎ取っていく。長すぎるほどの潜伏期間であったが、本書ではとうとう牙をむき出しにした。ただアクションシーンは他の作品と比べるとページ数は短いし、死闘と呼ばれるほどの苦難はそこにない。このアクションシーンは、暴利を貪る医療法人への征伐でしかなく(もちろん、多額の金を奪っていることも事実だが)、今まで多数の作品で大藪が描いてきた悪のシンデレラ・ストーリーにおける強奪シーンとはやや趣が異なる。結局は、物語の幕引きでしかないのだ。そこが今までの作品群と異なるところだろう。
 大藪は今まで数多くの業界に対し、筆を取ることによって過酷なレジスタンスを試みてきたが、本書ではその矛先を医療・薬品業界に向けられている。そして本書では暴力による征伐ではなく、リアルに実態を長々と続け、獲物がかかるのをじっと待つ肉食動物の視線を延々と書くことによって、怒りを表に出しているのだ。爆発の前の静けさ、それが本書の最大の楽しみなのである。




大藪春彦『戦士の挽歌(バラード)』下(光文社文庫)

 悪辣な医師たちから味わわされる屈辱に耐え、石川は外国銀行の隠し講座を膨らませていった。が、一つの事件を契機に、石川の中で何かが切れた。
 人を人として扱わず、患者を食い物にする大病院、医師たちに、目覚めた野獣の怒りがついに牙をむく。超人的な肉体と猟で鍛えた銃の腕前を駆使し、石川の狩りの時間が始まった!
 圧倒的迫力のサスペンス巨編!(粗筋紹介より引用)
 「週刊アサヒ芸能」1980年1月10日号〜1981年9月24日号掲載。原稿用紙1700枚に及ぶ大作、完結。

 徳間文庫の第三部をずっと探していたのだがなかなか見つからず、光文社文庫から復刊されたので下巻だけを迷わず購入。嬉しかったな。ちなみに徳間文庫版の副題は、「第三部 血の鎮魂歌」。
 解説にもあるが、「飲ませる、抱かせる、つかませる」という最低の販売方法や医療業界と薬品業界の腐敗については1960年代後半から1970年代後半にかけて問題となり、参考文献に挙げられているような著書が1970年代後半に描かれるようになった。そして連載とほぼ同時期、連載のなかでも出てくるように各マスコミで暴かれることになるのである。
 ここで出てくるプロパーはプロパガンディストの略で、製薬会社では学術宣伝員と呼ぶが、結局はセールスの特攻隊でしかない。太鼓持ちも真っ青なほどのおべんちゃらと低姿勢で、石川は一つずつ契約をもぎ取っていく。長すぎるほどの潜伏期間であったが、本書ではとうとう牙をむき出しにした。ただアクションシーンは他の作品と比べるとページ数は短いし、死闘と呼ばれるほどの苦難はそこにない。このアクションシーンは、暴利を貪る医療法人への征伐でしかなく(もちろん、多額の金を奪っていることも事実だが)、今まで多数の作品で大藪が描いてきた悪のシンデレラ・ストーリーにおける強奪シーンとはやや趣が異なる。結局は、物語の幕引きでしかないのだ。そこが今までの作品群と異なるところだろう。
 大藪は今まで数多くの業界に対し、筆を取ることによって過酷なレジスタンスを試みてきたが、本書ではその矛先を医療・薬品業界に向けられている。そして本書では暴力による征伐ではなく、リアルに実態を長々と続け、獲物がかかるのをじっと待つ肉食動物の視線を延々と書くことによって、怒りを表に出しているのだ。爆発の前の静けさ、それが本書の最大の楽しみなのである。




大藪春彦『戦士の挽歌(バラード) 第二部 快楽都市』(徳間文庫)

 新東京製薬の辣腕プロパー石川克也は、北多摩で最大規模を誇り、医は算術をモットーとする安富病院の理事長・院長親子に外人娘を世話することで大量の薬品納入に成功。そして国立北多摩大付属病院の「新薬採用委員会」の教授連の買収工作も終えた克也は、密かに狙う野望のために人知れず射撃や肉体の鍛錬を怠らなかった。そんな克也に随行員としてパリの国際会議出席の社命が届いた。長篇アクション小説。(粗筋紹介より引用)
 1981年10月、徳間書店より刊行。1700枚の大作、第2巻。

 所々でハンティングシーンや暴力のはけ口を見出すことができるものの、ここでも石川はプロパーとして腰を低くしたまま、虎視眈々とチャンスを狙っている。腐敗しきった医療・薬品業界への怒りを隠したまま。その姿は、トロフィーブックの上位に載る獲物をただひたすら待ち続けるハンターの姿と同じである。石川はじっと待ち続けている。ここまで我慢する主人公も、大藪作品にしては珍しい。買収シーンばかりが続くが、そこへ持っていくシーンは色々とパターンが異なるため、読んでいて飽きることはない。
 珍しいのは、裏の顔を知らない親友が登場するところだろうか。ハンティング仲間である大学医学部病理科に所属する江崎邦夫副手との触れあいは、短いページながらも強烈なイメージを残す。解剖によって臨床医の誤りを指摘する、医療水準の向上に役立つはずの病理医の存在がどこでも煙たがれるという事実に憤慨し、江崎のことを励ます石川の姿は、ちょっとジンと来るものがある。
 怒りに震える野獣は、未だ牙を隠したままである。




大藪春彦『戦士の挽歌(バラード) 第一部 殺しの序曲』(徳間文庫)

 薬品メーカー・新東京製薬の腕利きプロパー石川克也は、超人的なまでに鍛え上げた肉体と冷徹な意志力を軽薄なメガネと腰の低い調子のよさで隠していた。熾烈な薬品売り込み合戦のなかで、手段を選ばない石川の作戦は次々と成功していく。悪徳医師には金と女を、女医や看護婦には自慢の肉体を。そして石川は、北多摩で最大規模を誇る安富病院院長と面会のチャンスを掴んだ。医薬業界の荒廃を鋭く抉る会心話題作。(粗筋紹介より引用)
 1981年10月、徳間書店より刊行。1700枚の大作、第1巻。

 石川克也は、宝石店を経営する両親と妹がいたが、店の支配人に殺されるというつらい過去を持っている。祖父がスカンディナヴィア出身の船員だったため、体格は素晴らしい。父が進駐軍に出入りしていたことから、中学から克也も米軍基地に出入りして射撃を楽しんでいた。今でも米軍関係に知り合いや友人が多い。
 今まで様々な社会の腐敗を書いてきた大藪であったが、この作品で取り上げたのは医療業界の腐敗。ここに書かれていることがどこまで真実なのかかはわからないが、それほど外れてはいないだろう。荒廃を生々しく書くとともに、業界の隙間をくぐり抜けて注文を得るとともに、少なからぬ大金を得ていく石川の行動力が素晴らしい。
 石川はガンとドライビングの名手であるが、今までの作品にあるような暴力的なシーンはまだ登場しない。これは大藪にとって珍しいことといえる。第一部、まだまだ序曲(プレリュード)である。




大藪春彦『ヘッド・ハンター』(角川文庫)

 ハンティングでゲームを倒し、レコード・ブックに載ること。杉田の目的はそれしかない。杉田淳、34歳。アフリカ白人政権の傭兵出身である。法規などくそ食らえ。大自然における動物たちとの闘いは、誰にも邪魔はさせない。杉田はアラスカでムースやキャリブーなどを。そして目標を達成した杉田は重労働で金を稼ぎ、ニュージーランドに飛ぶ。
 「野性時代」1981年2月、1982年1〜6月号に掲載。

 大藪春彦とハンティングは切り離すことのできない関係にあるが、ハンティングのみを1冊にまとまるまで描いたのは初めて。途中にアクションシーンはあるものの、それはおまけでしかない。杉田はたった一人で、ゲームを倒すために、ひたすら闘い続ける。大藪主人公のほとんどはストイックな性格を持っているが、ストイシズムをここまで突き詰めた作品も珍しい。
 杉田という人物の描写はあるものの、ほとんどはハンティングにページが割かれる。大自然の過酷な描写。本能で生き延びようとする動物たちとの闘い。生き延びるため、そして闘いに勝つための装備に対する、まるで恋人を紹介するかのような詳細なデータ。大藪春彦自身の経験から産み出されたハンティングシーンは、読者である我々をリアルな世界へ招待する。カタログと数字をただ並べるだけでは得られない、真実がそこにある。
 大藪文学の、一つの到達点である。




大藪春彦『処刑戦士』(光文社文庫)

 「ハゲタカ軍団(チーム・ヴァルチュア)」の四人は銃のほかに“静かな武器”を携えている。巨漢の相馬は刺殺用ナイフ、ハンサムな中条は銃型弓矢(クロスボウ)、リーダー格の久保は投げ縄、小柄な松尾は猛毒の吹き矢(ブロウ・ガン)を。彼らが狙う標的は、この世を裏から支配しようと企む怪物・竹山一成だ。常に時代を先取りする、大藪春彦バイオレンス・アクションの決定版!(粗筋紹介より引用)
 光文社、カッパノベルスより1979年6月に刊行された。

 『処刑軍団』に続く処刑シリーズ、ということになるのだろうか。最も『処刑軍団』に出てくる久保たちは『輪殺の掟』で出てきた3人に新たに1名を加えた軍団によるアクション・ノベルであるが、本作は全く別のグループが登場するので、シリーズ化という名前は不適切かもしれない。ただ、時には組織の力を借りることはあっても、基本的に一人で行動することがほとんどであった大藪作品群が、あえてグループによる仕事を描いたという一点で、シリーズ作品とくくってもいいのではないかと思われる。
 描いてあることは今までとそう変わっているわけではない。国や権力、暴力をバックにして暴利を貪る企業・団体を徹底的に叩きのめし、蓄えてあった膨大な現金、宝石などを奪い取るだけのことである。スケールの大きい相手だから、グループの方が描きやすかったのか。ただ、あまりチームプレイを描くのはうまくないように感じるね。面白くないわけじゃないんだけど、これだけの技能を持ったメンバーが4人もいりゃ、さして苦労もなく仕事をやり遂げることができるだろうというイメージが強い。大藪に似合うのは、やはり孤独な戦いなのである。




大藪春彦『暴力列島』(徳間文庫)

 米軍基地から大量の致死性神経ガス兵器が略奪され、全学連過激派の犯行と推定された。犯人追跡の命を受けた国際特別情報機関の破壊班員・鷹見徹夫は単身、アルプス山中に潜行、犯行グループとの銃撃戦で十数人を倒したが、不覚にも罠に陥ち、捕らわれてしまった。やがて鷹見はナイフ一本を与えられ、犯人らの“人狩り”のなぐさみとして、山中に放たれた…。傑作アクション長篇。 (粗筋紹介より引用)
 1970〜1971年に連載され、1971年10月に光文社より刊行。

 今読むと、過激派をネタにした大藪得意のアクションものとしか捉えられないかもしれない。もっとも雑誌連載された時期を知ると、驚くことになる。1970年からの連載。確かに過激派による活動は活発ではあったが、まだ「連合赤軍」の存在は世に出ておらず、過激派による日本政府転覆など夢物語以前の話であった頃の作品だ。ロッキード事件を見越した『黒豹の鎮魂歌』、三億円事件のモデルとされた『血まみれの野獣』など、大藪作品で語られた“荒唐無稽”な物語が後に現実になると同様、本書にも「サリン」「VXガス」などといった言葉が出てくる。米軍基地からの武器の強奪も含め、後の「オウム事件」を彷彿させるような事件をすでに小説で描いている大藪の恐ろしさがここにある。現実は、いつも小説の後に付いてくる。
 とまあ書いてみたが、本書の解説である仲英宏の言葉とほぼ同様のことを言っているに過ぎない。もちろん、文章や中身の素晴らしさは、仲の方が数段上である。
 冒頭の過激派学生に対する警察の拷問の様子など、大藪にしてはいささかしつこいとおもったら、これがきちんと伏線になっているのだから驚く。本作品は、事件を起こした犯行グループの正体や目的など、ミステリの犯人さがしに通じる面白さがあり、通常の大藪作品のようにただ犯行グループを追いかけるのとはちょっとちがった趣向が凝らしてある。その辺を楽しむのも一興だろう。
 本作品に出てくる鷹見徹夫は、『俺に墓はいらない』で登場済みである。この頃の大藪は、数作品で共通の主人公を使うというパターンがあり(シリーズ化まではいかない)、初期の頃の作風と比べてみるのも、大藪ファンの楽しみである。




真保裕一『発火点』(講談社)

 杉本敦也は21歳。高校卒業後上京して就職したが、人間関係に嫌気がさして退職。その後はアルバイトで色々な職種を経験した。日本がまだバブルに浮かれていた時代、仕事はいくらでもあった。遊園地のアルバイトをしているとき、過去を全く語らない一つ下の山辺靖代と知り合う。いつしか同棲するようになった二人であったが、ある事件がきっかけで二人の中は気まずくなる。そのとき、敦也は触れられたくない過去を靖代に、アルバイト先に知られた。それは12歳の夏、父が殺害されたことだった。
 21歳の敦也と、12歳の敦也。二つの物語が交互に語られる。9年前に父を殺害したのは、かつての父の同級生であった。その彼が、仮釈放された。故郷の海で倒れていた彼を家に呼んだ父を、なぜ彼は殺害したのか。
 長崎新聞、山形新聞など全10紙に、2000年11月〜2002年4月まで掲載。

 ここで語られるのは、敦也という人物の成長記録である。様々なバカをやり、哀しい出会いと別れを繰り返し、そして様々な人と出会うことにより、自らの過去を見つめ直す勇気をようやく持つことができ、新しい自分の道を見つける努力を知ることができた、若者の成長記録である。そこに父の殺人事件、動機の探求、犯人との再会などといった要素が含まれる。
 この敦也という人物、過去に父親を殺された過去を持つ以外は、典型的な現代のダメ若者として書かれている。その日暮らしで、アルバイトで適当に生活でき、将来のことを何も考えず、ただその日が楽しければそれでいい。読んでいて腹が立ってきますよ。ただの甘えん坊で。まあ、自分にその要素がないのかといわれたら自信はないけれど。
 勝手なことをやるだけやって、傷つけるだけ周りを傷つけて、そして最後にようやく自分の愚かさに気が付く。もっともその愚かさに気付くまでに、かなりの人々に大きな傷を与えている。ただ、そこに過去の殺人という要素が絡み合っている点が、人と違うところだ。
 何度も書くが、これは敦也という若者の成長物語である。そこに、ミステリの要素は一つも絡んでこない。ミステリとして読んだら、失望しか抱かないだろう。敦也という人物の成長に我々は何を感じるか。
 ただ、個人的に書かせてもらうと、感じるものは何もないんだよね(苦笑)。これだったら、もうちょっとミステリ寄りにしてほしかった。せめて犯人の動機探しをもっと複雑なものにするとか、巻き込まれるとか。この辺は好みだと思うけれど、もう少しひねってほしかったと思う。



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