逢坂剛『剛爺コーナー』(講談社)

 当時日本推理作家協会会長であった逢坂剛が、会報誌にて2001年〜2008年に連載していたエッセイを収録した一冊。ミステリの舞台裏から作家の本音、文学賞について、作品とは全然関係ない作家の姿などを書き綴っている。
 元会長の名物コーナーをまとめただけあって、帯にはそうそうたるメンバーが名を連ねている。まあ、内容的には他愛のないものもあるが、作家の本音なども含めて楽しめる一冊。図書館などの問題や、協会の運営が大変などといった同じ話が時々繰り返されるのは、正直「またか」と思ってしまったのだが、長期間連載されたものだから仕方がないか。




R・D・ウィングフィールド『フロスト日和』(創元推理文庫)

 ウェブスターの眉間の皺は深まる一方だった。切れ者の警部として鳴らしたこの自分が、上司に鉄拳をお見舞いしたばかりに、降格のうえ、役立たずのぼんくら親爺、ジャック・フロストのお守り役を押しつけられる羽目となった。だが、肌寒い秋の季節、連続婦女暴行魔は悪行の限りを尽くし、市内の公衆便所では浮浪者の死体が小便のなかに浮かぶ。ここはひとつ、ロートル警部になりかわって事件解決に邁進しなくては……。皆から無能とそしられながら、名物警部フロストの不眠不休の奮戦は続く。笑いと緊張が堪能できる、まさに得難い個性の第二弾。(粗筋紹介より引用)
 1987年イギリスで刊行、1994年翻訳。『クリスマスのフロスト』に続くシリーズ第二作。

 毎度のごとく、新刊で買って今頃読む。前作は文春でランキングに入ったから読んで面白かったと叫んでいたわりに、何で今まで読まなかったんだろう。
 前作に続くモジュラー型の警察小説。様々な事件が並行して進行し、それが意外なところでからみあうところが腕の見せ所。鼻つまみ者のフロスト警部に振り回されつつ、気がついたら事件が解決しているのも同じパターン。ただそれだけだと他の警察小説と変わらないが、本作の見所はやっぱり主人公であるフロスト警部のキャラクター。登場人物だけではなくて、読者も振り回されながら事件解決まで楽しみながら読めばいい作品。余計な感想は不要だよね、きっと。
 次作も新刊で買っているんだよね。厚いから手を出す気力が湧いてこないんだけど。




有川浩『シアター!2』(メディアワークス文庫)

「2年間で、劇団の収益から300万円を返せ。できない場合は劇団を潰せ」--鉄血宰相・春川司が出した厳しい条件に向け、新メンバーで走り出した『シアターフラッグ』。社会的には駄目な人間の集まりだが、協力することで辛うじて乗り切る日々が続いていた。
 しかし、借金返済のため団結しかけていたメンバーにまさかの亀裂が! それぞれの悩みを発端として数々の問題が勃発。旧メンバーとの確執も加わり、新たな危機に直面する。そんな中、主宰・春川巧にも問題が……。どうなる『シアターフラッグ』!?(粗筋紹介より引用)
 2011年1月、書き下ろし刊行。

 人気作の続編。しかし粗筋紹介にある「まさかの亀裂」はちょっと大げさ。集団でいればこれぐらいの衝突は当たり前だよな、という程度の感情のぶつかり合い程度の内容。旧メンバーとの確執ってのも単なる嫉妬と掲示板荒らし程度だし。主宰の問題なんて、単なる逃避行動。いや、これが巧なんだろうけれどさ。
 作者があとがきで書いている通り、「一巻では物語の牽引役だった司が動いてくれない」ため、個々にスポットを当てる結果となり、結局短編の寄せ集めみたいな作品で終わっているところが残念。そりゃ、一つの演劇ごとに一巻分を使われて、しかも1年おきにしか出版されない、なんてのも困るけれどさ。それに小劇団って、劇団員同士で恋人になるものなの? 私生活を知っている分、かえって生活ができないと一歩引きそうな気もするんだが。
 まあ、女性メンバー全員の恋愛相手も決まったようだし、「完結するのでは」という3を1年後まで待ちましょうか。




ラリー遠田『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)

 数多の人気芸人を生んできた国民的行事の魅力と歴史を、注目のお笑い評論家が熱く鋭く解説する!(表紙より引用)

 新進若手お笑い評論家であるラリー遠田がM-1についての歴史やその裏側についてを解説。各回についての解説は深読みしすぎじゃないの、という気もしないではないが、ヤラセ説についての検証などはわりとまっとうなことを書いていると思う。
 この本では第9回までの解説と、終了説の裏側を探る一冊になっているが、実際にM-1が終了することは決定したため、次は全10回についての検証本が出るだろう。この本も増補改訂版が出るかもしれない。
 どうでもいいけれど、R-1版やキングオブコントあたりもいずれ出ないかな。それと、誰か昔のお笑いについても書いてほしい。




佐藤敏章『神様の伴走者 手塚番13+2』(小学館)

 ストーリー漫画の地平を、ほとんどひとりで切り開いた天才・手塚治虫。この漫画の神様にも、編集者という、あまたの陰の伴走者たちがいた。今も語り継がれる数々の“手塚伝説”の真相が知りたくて、“手塚番”めぐりを始めてみた--(折り返しより引用)
 手塚治虫と編集者のエピソードは数限りない。手塚自身が述べているものもあるし、編集者や周囲の漫画家、アシスタントたちが語ったものもある。とはいえ、噂だけが先走ったものもあるのではないかということで、当時の担当者たちにインタビューを行ったものをまとめたのが本書である。『ビックコミック スペシャル増刊』『ビックコミック1』に2002〜2008年に掲載されたものを1冊にまとめ、2010年に刊行。
 締切ギリギリは当たり前、逃走、カンヅメ、雲隠れなど、手塚と編集者にまつわるエピソードは数限りない。それでもこのインタビューで、いくつかは真実ではないというものもあった。たとえば昼夜ついていた編集者たちに文句を言ったら、一人の編集者が「手塚先生を信じます」と言って徹夜でつくのをやめて、やっぱり原稿を続けて落とす結果となり、責任問題となって会社を辞めたというエピソードがあるが、これは嘘だったと当時の編集者が語っている。他にも週刊マンガ誌が初めて創刊されるとき、手塚が『少年サンデー』と専属契約を結んだという話があり、のちの手塚研究家も書いているエピソードであるが、これも当時の小学館編集長が否定している。逆に九州まで大脱走した話は、一緒についていた編集者から詳細に語られている。
 もちろん語れない話もあるだろうが、手塚治虫という人物を知る上で貴重な一冊だろう。全13人へのインタビューにプラスし、外伝として松谷孝征マネージャー(現手塚プロダクション社長)、藤子不二雄Aへのインタビューも掲載されている。藤子Fが手塚のアシスタントをしたことがない、というのは初めて知った。そういえば『まんが道』や『トキワ荘青春日記』でも、藤子Aが手伝う話は書かれているが、藤子Fが手伝う話は一つもなかった。寺田ヒロオとの最後のエピソードもいろいろなところで読んだことはあるが、藤子Aからの言葉として書かれるとリアリティが増してくる。



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