佐々木丸美『風花の里』(講談社文庫)

 幼い日の記憶への憧れを秘めた孤児星玲子(れいこ)の小さな胸を、祖父が遺した幻の遺産を巡る大人たちの打算が容赦なく揺さぶる。雪の札樽国道をさまよう少女を必死に守る幼友達の丈と愛猫とら。音もなく時間を巻き込んでいく非情な運命の糸車は、どんな明日を見せてくれるのか。雪国に芽ばえた可憐な愛の行くえを美しく描く長編ファンタジー。(粗筋紹介より引用)
 1981年5月、講談社より刊行。1989年4月、文庫化に伴い一部加筆修正。

 「孤児」シリーズ補完編と言えばいいのか。過去三作品や自殺した人たちの裏が出てくるといった点では。逆に言うと、今までのシリーズを読んでいないと、何のことかわからない点も多い。一野木昌生って名前が出てきただけで、もう頭が痛くなってきたけれどね。
 もう、出てくる人たち、みんな汚すぎる(苦笑)。とらぐらいだろう、純粋なのは、と言いたくなってきた。まあ、人が欲望に忠実であると、どうしてもどろどろになるのは仕方がないところなんだが。文章がいいから、綺麗事に見えるけれどさ。
 はい、もう頭痛しかしませんでした。だったら読まなきゃいいのに(苦笑)。




彩坂美月『夏の王国で目覚めない』(早川書房 ハヤカワ・ミステリワールド)

 父が半年前に再婚し、新しい家庭になじめない高校生の天野美咲は、ミステリ作家・三島加深(みしま・かふか)の作品に触れることが一番の楽しみであった。正体不明のミステリ作家・三島加深は三年前にデビューし、三作の耽美なミステリ、一作の幻想小説を発表していたが、一年前から刊行が途切れていた。美咲はある日、加深のファンサイトに隠されていた掲示板を見つけ出し、加深が好きな仲間との会話を楽しむ毎日が続いた。だが<ジョーカー>という人物から【架空遊戯】に誘われ、すべてが一変した。役を演じながらミステリツアーに参加し、劇中の謎を解けば、加深の未発表作がもらえるという。集まったのは、いずれも掲示板でハンドルネームを名乗っているらしい7人の参加者。役柄はいずれも、一年前に事故死した作家・羽霧泉音の恋人や友人たち。寝台列車に乗った参加者は、それぞれの受信機から流れてくるメッセージに従って行動し、会話の中から泉音が死んだ謎を推理する。食事中に登場したのは、「謎の正体主」である泉音の弟、藍人。藍人は、一年前の事故は、実は殺人だったと断定し、誘われた参加者たちの中に犯人がいると指摘する。ところが架空のはずの推理劇で次々と人が消えていった。
 2011年8月、書き下ろし。

 作者(あやさか・みつき)は2009年、第7回富士見ヤングミステリー大賞準入選作『未成年儀式』でデビュー。本作は三作目。プロフィールを見るまで全く知らない作家だったが、帯に有栖川有栖推薦とあったことと、「2010年代のぼくたちのミステリ」などと書かれていたので、珍しく買ってみる気になった。
 互いに顔も名前も知らないファンたちが集まって、役を演じながらツアーを続けるという設定は充分期待を持たせるものであったのだが、殺人が起きたと騒いでいる割に誰も離脱せず、指示に従い続ける点はかなり疑問。それだけ未発表原稿に魅力があったと作者は言いたいのだろうが、残念ながらその辺が全く書けていないため、説得力に欠けている。全員、裏を知っているのかとまで思ってしまったぐらい。それに、駅で新聞ぐらい買えるだろう! と言いたくなった。作中でも触れられているが、ネカマがいたらどうしたのだろう。それに誰か逃げ出していたら、どのような結末をつけるつもりだったのだろう。
 根本的な矛盾を抱えたまま読み進めたため、終わっても驚きはなかったし、結局(周りから見たらつまらないことで)悩める若い人たちがわあわあ言っているだけにしか見えなかった。結局何をやりたかったのかがわからなかった。こういう作品が早川から出たこと自体がびっくりだが、編集者ももう少しアドバイスしろよとは言いたくなる。ヤングミステリ系ってみんなこうなの?




高田郁『心星ひとつ みをつくし料理帖』(ハルキ文庫)

 青物が思わしくない夏。馴染みの客、版元の坂村堂がつる屋に連れてきたのは、日本橋の旅籠「よし房」の店主・房八。六十半ばですでに連れ合いを亡くした房八は芳に惚れ、連日通うようになる。その頃澪は、江戸にはない生麩を自分で作ろうとしていたが、どうしてもうまくいかない。坂村堂の実家が、料理番付の行司役である料理屋「一柳」であることがわかる「青葉闇―しくじり生麩」。
 又次が料理番を務める吉原廓、翁屋の楼主、伝右衛門が三方よしの日につる屋を訪れた。店を一軒押さえたので、吉原で「天満一兆庵」を再建しないか、との提案だった。さらに料理番付のライバルである登龍楼店主、采女宗馬からは、神田須田町の店を居抜きで売る、しかも奉公しているふきの弟健坊も移してよいとの提案である。わずか三十両で売るというその話に首をひねる周囲。二つの提案に悩む澪。甦るのは、「ひとは与えらた器より大きくなるのは難しい」という一柳店主・柳吾の言葉。「天つ瑞風―賄い三方よし」。
 ぼやが続いた元飯田町。町年寄は、飲食を供する店は火の扱いを朝五つ(午前八時)から四つ(午前十時)に限るという申し入れをしてきた。昼と夜に火が使えないということは、料理屋にとって致命的。客足がどんどん落ちるなか、澪が考えた対策とは。一方、小松原(小野寺数馬)の妹である早帆が、澪のところへ料理を習いに。「時ならぬ花―お手軽割籠」。
 数馬の母親である覚華院(里津)の使い・多浜重光がつる屋へやってきたため、澪を数馬の嫁に迎えるという話がつる屋の人々に知れることとなった。未だ姿を現さぬ息子佐兵衛と一緒になって天満一兆庵を再建してほしいと思っていた芳、澪を娘の生まれ変わりと思って大事に思う種市は苦悩する。そこへやってきた小松原、いや数馬。ついに数馬は澪へ「女房殿になるか」と声を掛けた。「心星ひとつ―あたり苧環」。
 大好評シリーズ第六弾。2011年8月、書き下ろし。

 今回はいつもの「澪の料理帖」以外に「みをつくし瓦版」がついている。「りうの質問箱」 やっぱり料理は自分で考えているんだね。だったら年二冊も仕方がないところか。
 それにしても内容は急展開の嵐(正しくない日本語だ)。「青葉闇―しくじり生麩」みたいに珍しくしくじる話があって、今回は平穏に終わるかと思ったら、そこから先は色々なことが起こる、起こる。それにしても、料理を作らない澪なんて想像もつかないし、魅力が半減するということを、周囲は誰も気付かないのかね。まあ、江戸時代にそんなことを言っても無理か。
 それにしても、この状態で半年後までじらされるのは嫌だなあ。



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