京極夏彦『巷説百物語』(角川書店)

 時は江戸時代。困難な事態、不思議な出来事、自らの手では達成できない復讐などを、どこからともなく現れた者達が、「妖怪」の仕業として事を治めてしまう。山猫廻しのおぎん、事触れの治平らが仕掛け、最後に小股潜りの又市が鈴の音を鳴らし、「御行奉為(おんぎょうしたてまつる)」と唱えて全てが解決する。そして戯作者志望の山岡百介が書き残す(かどうかは知らない)。
「小豆洗い」「白蔵主」「舞首」「芝右衛門狸」「塩の長司」「柳女」「帷子辻」の計7編。季刊妖怪マガジン『怪』(角川書店)で1997〜1998年に掲載された6編に、書き下ろし1編を収録。1999年、単行本刊行。

 巷説百物語シリーズの第1作。以後、『続巷説百物語』『後巷説百物語』『前巷説百物語』『西巷説百物語』と続く。『後巷説百物語』は2004年に第130回直木賞を、『西巷説百物語』は2011年に第24回柴田錬三郎賞を受賞している。テレビドラマ、漫画、アニメ化などもされている。
 ハードカバーが出た時に購入していたのだが、そのまま積ん読状態になっていた一冊。本棚の奥底で干支が一回り以上していたよ、と笑うしかないのだが、そんな本がまだ山ほどあるかと思うと憂鬱。この頃の京極作品はとりあえず買っていたけれど、京極堂シリーズの長さに辟易していた頃だから、この作品も何となく敬遠していたんだろう。そもそも、忙しかった頃だし。気概と気軽に読めたので、もっと早く手に取ってみるのだったと少しだけ後悔。
 主人公である小股潜りの又市は、『嗤う伊右衛門』にも登場している……のだが、全然覚えていない。そういえば、そんな名前の登場人物がいたような気がする。
 このシリーズは、竹原春泉の画集『絵本百物語』に描かれる妖怪たちが関わってくる短編集。どうにもならず立ち往生している自体を、妖怪のせいにして解決し、又市たちが報酬を頂く。京極堂シリーズの裏返しともいえる作品である。一つ一つの短編の密度が濃く、ミステリにあるような意外な謎と解決も含まれており、ミステリファンにも楽しめるシリーズとなっている。妖怪の言い伝えを基にした「仕掛け」は、結末でアッというものであり、手の凝った物も多い。「塩の長司」「柳女」などの真相は、なかなかのものである。陰惨な背景の作品もあるが、後味はすっきりして悪くない。
 もっとも続編を読むかというと、何となく時機を逸した感があるので手を出す気になれない。その辺が、自分の限界である。



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