ミステリー文学資料館編『剣が謎を斬る 時代ミステリー傑作選』(光文社文庫)

 時代小説の中に流れるミステリーの水脈!―ミステリー文学資料館編の新企画「名作で読む推理小説史」は、テーマごとに昭和、平成のミステリーの傑作短編を精選。その歴史を俯瞰すると、新たな読書の醍醐味が生まれてくる。山本周五郎、松本清張、山田風太郎、司馬遼太郎、永井路子、池波正太郎、宮部みゆき……錚々たる顔ぶれを一冊に収める豪華アンソロジー!(粗筋紹介より引用)
 捕らえられた鼠小僧次郎吉は処刑前日、鼠に化けるという変身術を用いて脱獄する。そして再び泥棒家業を始めた。岡田鯱彦「変身術」。鼠小僧が鼠に化けるという発想は面白いし、結末もペーソスあふれるものだが、どことなくユーモアが漂ってくる作品でもある。
 南町奉行所の新参与力・花房律之助は、冬木町の卯之吉殺しですらすらと自白したお絹の口書に不審を抱き、再捜査を始める。山本周五郎「しじみ河岸」。謎解きらしい謎解きはないが、貧しき者たちの哀しみを書いた作品。お絹の最後の叫びは、現代の介護問題にも通じる気がする。
 誤って人を殺した仙太は三宅島へ遠島が決まった。仙太は大いびきかきだった。牢にいる連中が楽しみは食うことと眠ること。同囚70人以上の眠りを邪魔するものはどうなるのか、と仙太は怯えていた。松本清張「いびき」。設定は面白かったけれど、後半の島抜けの話は読みたくなかったかな。
 稀代の遊女である松葉屋の花魁薫は奇行で有名だった。いちばん有名だったのは、お忍びできた津軽越中守を振った話だった。越中守のお抱え絵師は、薫を題材にした枕絵を描けと命令されて悩む。山田風太郎「怪異投込寺」。葛飾北斎などの絵師が登場して、芸術の深淵に迫る話でもある。反骨心とエロティシズムに加え、最後は山風らしいトリックまで用意されている。本短編集の中のNo.1。
 流れ者の祈祷師・江田松本坊とささら者・於大の間に生まれた国松は、やがて東照山円光院に入り浄慶と名乗ったが、悪童ぶりが過ぎて9歳で寺から去った。そして悪党に騙されて五百貫で願人酒井常光坊に買われた。成長後、還俗して世良田二郎三郎元信と名乗り、今川家から松平元康の嫡男・竹千代を攫って担ぎ出した。南條範夫「願人坊主家康」。村上素一郎の家康別人説を基に書かれた短編。スパンが長すぎて、盛り上がりに欠けてしまったところは残念。
 源実朝が鶴岡八幡宮で甥・公暁に殺害されてから2年。当時武士として警護の列に居た僧と、公暁の恋人だった遊女、御家人三浦氏の家人の娘だった尼層の3人が当時のことを語りだす。多岐川恭「雪の下−源実朝−」。語り手が変わるたびに真相が変わるというのはミステリらしい仕掛け。史実の裏を語るにふさわしい一品。
 新選組へ新たに入った富豪の三男で前髪を残したままの美少年・加納惣三郎。ほどなく、惣三郎と同期の田代彪蔵が修道の関係になったといううわさが流れる。司馬遼太郎「前髪の惣三郎」。衆道ならではの嫉妬と、剣に生きた新選組の舞台ならではという展開ではあるが、話の筋はやや単純。もう一ひねりあってもよかったような気はする。
 轟屋の番頭貞吉が失踪した。一方、藩の勘定方柳沢欣之介は、轟屋からの紅花の上納金が年々減っていることを見つけ、その理由までを突き止めたのだが、同僚ともいえる古参の奥田勘右衛門は気にする風ではなかった。永井路子「からくり紅花」。貞吉の恋人であるすみが哀れであるが、それ以上に哀れなのは正義と思ってやった行為が自分に跳ね返ってきた欣之介である。
 街中で4人の武士を叩きのめした浪人山口七郎を見た土浦藩の武士、夏目半五郎は、父の仇である浪人井関十兵衛を斬ってほしいと依頼する。池波正太郎「だれも知らない」。仇討ちという制度は返り討ちにあったり逃げた相手が見つからなかったりと相当苦労したものと聞く。そんな制度を皮肉った作品だが、ややあっさりしすぎか。
 小匣の桑の実が芽を出して花が割き、小石をパンに変えるなどの奇跡を見せる南蛮僧が現れた。そして1か月前に死んで柩の中に入れられ埋められたぱあてれ・ぽーる(ポール神父)が予言通り、掘り出された柩の中から復活した。キリスト教に入信する人はどんどん増え、長崎の町は切支丹の町になっていった。新羽精之「天童奇蹟」。『幻影城』に掲載されたという一品。奇跡のインチキを暴くという話はありがちであり、その続きをもうちょっと読みたかった気がする。
 火消しになることを夢見て鳶の猪助に拾われた文次だが、火事場に行っても怯え体が動かなくなってしまう。猪助の紹介でひさご屋という一善飯屋で下働きをする文次だったが、あるじの角蔵から臆病が無くなって火事場から守ってくれるだるま猫という頭巾を手渡された。宮部みゆき「だるま猫」。時代小説でも第一人者である宮部らしい人情味あふれる作品でもあるが、ラストは少々呆気ない。

 『幻の探偵雑誌』『甦る推理雑誌』に続く新企画として、「名作で読む推理小説史」が編まれた。テーマごとに昭和、平成のミステリの傑作短編を精選すると共に、その流れを解説している。2005年に刊行された本巻は、時代ミステリを取り上げている。
 戦後から平成までの短編11作を収録して時代ミステリの流れを追うもの。いわゆる大御所の短編も多い。ただ、ミステリと意識して書かれた作品は少なく、「名作で読む推理小説史」という名前に値するかと言われると疑問が残るのも事実。もっとも、代わりにどんな時代ミステリがあるのかと聞かれても困るのだが。
 もっとも、時代ミステリという言葉にこだわらなければ楽しく読める作品ばかりなのは事実。普段は時代小説を読まないから、こういう企画で読むことができたのは幸運だった。




別冊宝島『プロレス 変な噂 悪い噂』(別冊宝島 2291)

 毎度おなじみのプロレス・スキャンダルと裏ネタを追うシリーズ。悪趣味だよなあ、とは思うがなんだかんだ言って買い続けている。
 背表紙で「ノアが新日本に「身売り」でマット界再編」などとでかく書かれているので何かと思ったら、ノアが選手の肖像権やグッズ販売など興業以外の権利関係をブシロード(新日本プロレスオーナー会社)に売ったとのこと。どこまで本当かわからないけれど、どこも否定しようとしないところを見ると、これは多分真実なのだろう。昨年は永田裕志がGHCヘビーを取り、今年は鈴木軍が大暴れするなど、間違いなくノアは新日本の二軍扱い。選手が飽和状態だから二軍を作るのはよいことだし、外国人レスラーにとってはここでタイトルを取ることでステータスが一応あがる。さてさて、来年はどうなっている事やら。
 他にもノアは、リングサイド事故訴訟が和解したことと、今後リストラを敢行するとのこと。もっと文章を読むと、給料カットのようだけど。
 アラフォー戦士たちの悲惨な命運は、永田、中西、ライガーなどの二軍扱い状況を書いたもの。この本のせいかもしれないけれど、永田は2月に中邑のタイトルに挑戦。中西は微妙だけど、永田や小島、それにライガーはまだまだ使い道があると思うけれどね。
 W-1が借金2億円とか、全日本の不協和音など、ノアも含めた「元メジャー」(W-1のどこがメジャーかと言われると困るが、一応武藤敬司がトップということで……)の衰退ぶりを書いているけれど、今更くっつかないだろうなあ。正直言って、解散でもいいと思う。新日本がてっぺんで、何とかついていくのがDRAGON GATE、DDTでいいよ、もう。
 「あの」宮崎満教が急死していたことにはびっくり。それにしてもWJの出鱈目ぶりには恐れ入るが、武藤も負けていないんじゃないのだろうか。
 前号に続いて「金本浩二暴行事件」が書かれ、被害者の電話インタビュー(途中で逃げちゃったようだが)が出ていた。どこまで本当かは微妙。結局金本はW-1で使われなくなり、大日本などに出ているようだが、高岩みたいにこのままインディーをさまよい、負け役を引き受けるようになるのだろうか。
 「ゼロワン女子練習生死亡事故」の第2ラウンドは、ゼロワンを訴えた原告の敗訴に続き、次はプロデューサーだったHikaruが訴えられた。いいかげん罪を認めてほしいものだが。それにしても元夫も暴行で追いやられるし、いいことないな、この二人。
 あとはどうでもいい記事ばかり。上井文彦を引っ張り出したのなら、もっと当時の新日本暗黒時代を語らせればいいのに。




長岡弘樹『傍聞き』(双葉文庫)

 患者の搬送を避ける救急隊員の事情が胸に迫る「迷走」。娘の不可解な行動に悩む女性刑事が、我が子の意図に心揺さぶられる「傍聞き」。女性の自宅を鎮火中に、消防士のとった行為が意想外な「899」。元受刑者の揺れる気持ちが切ない「迷い箱」。まったく予想のつかない展開と、人間ドラマが見事に融合した4編。表題作で08年日本推理作家協会賞短編部門受賞。(粗筋紹介より引用)
 2007年から2008年、『小説推理』(双葉社)掲載。2008年8月、双葉社より単行本刊行。2011年9月、双葉文庫化。文庫版は『おすすめ文庫王国2012』(本の雑誌社)の国内ミステリー部門で第1位に選ばれた。

 作者は2003年に「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞してデビュー。2008年、「傍聞き」で第61回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。2013年刊行の『教場』は「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位、「このミステリーがすごい!」で第2位に選ばれている。
 単行本で出たときから気にはなっていたけれど、結局買ったのは文庫本で今頃。こんなに薄くても500円を超えるんだあ、と今頃な感想をまた一つ。
 4編収録されているが、一番出来が良かったのはやはり「傍聞き」。小学六年生の娘・菜月と二人暮らしの刑事・羽角啓子のやり取りが実によかった。相手から直接伝えられたら疑うような話でも、誰かに話しているのを側で漏れ聞いてしまうと信じてしまう“傍聞き”の使い方が巧い。他にも自分の娘を轢いた男を不起訴にした検事を搬送する「迷走」もよい味が出ている。ただ「899」は母親に後味の悪さがちょっと見えてしまうし、「迷い箱」は短編なのに展開がまどろっこしかった。
 基本的にうまい人なんだと思う。ただ、そのうまさが透けて見えてしまうところがあるのはちょっと残念。また読んでみようと思う作家ではあったが。



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